18ー対峙
ロヴェルが部屋に行くと、数人の騎士が集まっていた。
「カイン!」
「閣下。これを見てください」
言われて下を見ると、花びらが数枚落ちている。
すぐに何の花びらか思い出し、怒りが一気に沸き起こった。
「皇太子の花束か」
花弁をぐしゃりと踏みつける。
「申し訳ありません閣下。欠片ひとつ残さず灰にすべきでした」
バルトが拳を握りしめて頭を下げた。
「いや·······」
皇太子がリリアンに花束を持ってきたということが腹立たしく、調べずに捨てさせたのがいけなかった。
「閣下、部屋の窓の下に、人が飛び降りたような窪みがありました。窪み具合から言うと、飛び降りたのはお嬢様かと」
サァと血の気が引いた。
(飛び降りた?あの細い足でか?!)
皆、口を噤んだ。あの体躯では無事ではないだろうと分かっているのだ。
ヨイテがロヴェルに近づき報告をした。
「西の入口に馬車の跡がありました。さらに西の森の街道近くで、白い発光があったと。領民が目撃しています」
ロヴェルは報告を聞きながら、リリアンが飛び降りたであろう窓から、ひらりと降りた。
ロヴェルや鍛えた騎士であれば、何の問題もない高さだ。注意深く地面を見ると、片足を引きずって進んだような跡がある。
両親が死んだ時以来の、制御できない程の怒りが湧き上がる。
ロヴェルは低い声で言った。
「皇城へ行くぞ」
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「うぇぇ」
リリアンは酔っていた。転移陣がこんなに気持ち悪いものだなんて。
一次は冷静さを失ったものの、リリアンは冷静さを取り戻していた。
何より、折れた足の痛みが強かったからだ。冷静にならないと治癒が出来ない。身体が小さくなっても魔法は使えたので、気持ちを落ち着けて自分の治癒に集中した。
足も治し、改めて状況を把握してみる。
囚われたものの、今すぐに何かされる訳ではなさそうだ。
馬車から降りて、フードの男に籠を持たれたまま、転移陣で転移して来た。
目の前にそびえ立つのは、壮厳なお城。リリアンは格子にへばりついて上を見上げた。
(これ、皇城よね?なんて大きいの。公爵邸よりずっと大きいわ)
皇城見学はさせて貰えず、着いてすぐに籠に布を掛けられた。
真っ暗になったので、リリアンは光の珠を出した。優しく光るように。攻撃魔法や防御魔法は自分でも本当に向いてないと思うのだが、光属性ならリリアンは誰にも負けないと自負している。
薄暗い空間で揺られていたので、リリアンは眠ってしまった。敵陣でうかつな行動かもしれないが、魔力も回復仕切っていない所へのこの仕打ち。
(守るって言ったじゃないの)
ロヴェル宛ての苦情を思い浮かべながら、リリアンは眠った。
「へぇ本当に珍しい髪色だな」
リリアンはパチっと目を開けた。差し込む光の方を見ると、金色に光るギョロリとした目が見えた。
「ひっ」
恐怖に、思わず短い悲鳴を上げた。
「驚かせてすまないね。紫の妖精さん?名はなんと言うのかな?」
籠に被せてあった布が外され、リリアンは眩しさに目を細める。
視界がはっきりすると、目の前に不敵な笑みを浮かべて玉座に座る、金髪金眼の皇帝を見た。
リリアンは籠の中で立ち上がり、綺麗なお辞儀をした。
「帝国唯一無二の太陽におめにかかります。一介の治癒師である私に、このような仕打ちをなさる理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
その場にいた全員が息を飲んだ。
皇帝に食ってかかろうとする小さな少女に、衝撃を受けている。
リリアンは皇帝の目を見ずに言った。手が震える。あの目を見たら、流石にリリアンもこんなこと言えない。
(怖い)
怖いけれど、腹が立つ。
(攫ってきておいて、名前を教えろですって?!)
「ははは!ははははは!」
広間に皇帝の笑い声が響いた。
これには流石にリリアンも恐怖を感じ、皇帝を見上げた。
皇帝は金の眼を見開き、リリアンを見ていた。欲望が剥き出しのその瞳に、リリアンは奥歯がカタカタと震えるのを感じで歯を食いしばった。
「ん?籠の中に光の球があるぞ。魔力は封じているのではないのか?」
「封じたはずなのですが、使えるようです。自分で治癒もしていましたし」
後ろに控えていた皇太子が答えた。
「ふむ。そこらの魔術師に封じれる魔力量ではないということか」
(封じられてるの?気付かなかった)
リリアンも自分の魔力量が、他の人より多いことをビビに聞いて知ってはいた。封じれない程とは知らなかったが。
「ふふ。ますます欲しい。なに、今すぐ何かしてほしいわけではない。忠誠を誓ってほしいのだよ。そうすれば公爵に返してやろう」
「忠誠?」
リリアンは一応帝国民だ。皇帝には逆らえない。
「心情的なものではない。絶対の忠誠だ。私が参じろと言うときに参じ、するべきことをする」
「·········陛下、私は陛下の期待に添うことは出来ません。私に出来るのは治癒のみです。他に適正はありません」
リリアンは正直に言った。だから放っておいてほしい。
「ふむ。だが、光魔法にも攻撃手段はあるだろう?」
ニヤニヤと皇帝は言う。
「さて、忠誠の誓いを始めようか。魂に誓うものだから、破ると永劫苦しむぞ。石板をここへ」
皇帝が言うと、4人の宦官が紙の置かれた台座ごと運んで来た。
リリアンは直感で、危険なものだと感じた。
「良いのですか?誓いの反動もあるかもしれませんし、公爵がどう出るでしょうか?」
皇太子が言うと、皇帝は声を低くして言った。
「はは。どう出ようとかまわない。テオドラン。まさか私よりも公爵が恐ろしいとでも言うのか?」
「いえ」
皇太子は少し青ざめて口を噤んだ。
誰か忠誠の誓いを説明してほしい。この石板に誓うと何が起こるのか、当事者のリリアンは全く知らない。
逃げられないと分かっていても、リリアンは退路を探して辺りを見渡した。
扉は1つ。その謁見の間の大きな扉が、突如として吹き飛んだ。




