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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子
第一章

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18/64

17ー罠

自室にて、リリアンはベッドの上で仰向けになっていた。

ロヴェルの言いつけ通り、部屋を出ていない。


皇城からの使者が皇子だったとラナから聞き、顔を拝んでやりたい衝動にかられたが我慢した。


(よくあることなのかな。皇子の来訪だなんて。まぁ一応、親戚なわけだし)

コロンと寝返りをうち、ぼそりと呟いた。

「私には関係ないことだろうけど」


何か報告を聞きたかった。公爵邸にとっては大きなイベントでないかもしれないけど、一緒に共有したかった。


ベッドの上でゴロゴロしていたら、あっという間に夜になってしまったのだ。扉の外に、夕方から護衛に復帰したエドガーの気配はある。

(わざわざ聞きに出るのもな)

明日の朝、ラナにそれとなく聞いてみよう。それしかない。


机に用意されている夕食を食べようと立ち上がった。

ふと、コンッと窓に何か当たった音がした。

「鳥かな?」

窓を開けたが、何もいない。


振り向くと、部屋の中に花弁がヒラヒラ待っていた。

「わっ?!」

驚いて開いた口に、スッと花弁が入った。

(うわ、食べちゃった?)

思わず手を口に持っていく。········持っていったつもりだったのだが、身体が動かない。


(あれ?ん?)


声も出ないことに気付く。リリアンはサアっと血の気が引いた。身体が自分の意志とは別に、勝手に動く。


(何!?足が勝手に動く)


窓際まで来ると、手が勝手に窓をあけた。(いやだ。まさか) そして窓へ足をかけ、ふわりと飛んだ。


(―――っ??!)


2階だ。死にはしないが怪我をする。

思わず目を閉じた感覚はあったが、見えているということは、閉じれていないのだろう。


足に、強烈な痛みが走った。叫びたいほどだったが、叫ぶことも出来ない。

パニックにならないように、なんとか気持ちを落ち着かせる。


(怖い。怖いけど、状況を把握しないと)


自慢ではないが、幼い頃から色々な経験を摘み、更に転生者なので精神は鍛えられている。と、思う。


(飛び降りた時に、足が折れたんだわ)


それでもなお、リリアンの身体は進む。


(怖っ、これ傍から見たら私ゾンビじゃない?)


冷静になろうと自身へツッコんで、少し考えてまたゾッとした。


しばらく進んだ。茂みを進んでいるので、傷も増えているはずだが痛みを感じなかった。

(痛くないのも、それはそれで怖いわね)


しばらく歩いて、公爵邸の外に出た。知らない出入口だ。

出た先に、馬車が見える。

勝手に動くリリアンの身体は、馬車まで進む。


馬車のドアが開いて、一瞬見えた金髪にリリアンはホッとした。――が、声を聞いて絶望に似た気持ちを味わった。


「うわっ!無理はさせないと言っていたじゃないか。話が違うぞ」

ボロボロなリリアンを奇異な目で見て、皇子は顔を歪めた。


リリアンが馬車に乗ると、皇子は申し訳なさそうに言う。

「本当にすまないな。聞こえてはいるんだよな?これ、足折れてるじゃないか。おいおい。陛下じゃなくて公爵に殺されそうだ」


(金髪だわ。第1皇子····?···どうして)


「私も命がかかってるんでね。多少、手段が選べなかった。自我が戻るのはいつだ?」


皇子の隣に座っている男が言った。こちらはフードを深く被っていて顔が見えない。

「人によりますが、1時間程度だと」


(戻る?戻るなら良かった!)

泣けたら泣きたい気分でリリアンは思った。


「戻ってからでは難しいので、今から籠にいれましょう」

不穏な言葉をフードの男が言う。


「ふむ。そうだな。運びやすいし」

皇子が応じる。


(何なに?!怖いこと言ってる?!何されるの)

リリアンは無意識に暴れた。すると身体が白く光り始めた。


「急ぎます」

光を見て、フードの男はすぐに呪文を唱えた。


白い発光と、白い煙が視界を覆った。



「あぶない。ギリギリでした」

フードの男が言った。


リリアンは目を開けて、手を動かした。

(動く!)

よしっと前を向くと、自分の前に格子が見えた。


「えっ」

思わず声が出る。


目の前に、大きな皇子と、大きなフードを被った男が見える。


どうやら、自分は閉じ込められたようだ。鳥が入るような小さな籠に。


「何これ?!」

状況が理解出来なくてリリアンは思いっきり叫んだ。






















ーーーーーーーーーーーー


ロヴェルは机に置かれた、16代教皇リリアン・アナベルの報告書を読んで頭を抱えていた。


皇帝が皇子まで寄越して、彼女を連れていこうとする理由。


「これか·······」

常人の十倍はあろうかと言う魔力。兵器にもなり得るであろう脅威の魔力量を、彼女は保有しているのだ。


「これは確かなのか?」

影から出てきたヨイテは静かに答えた。

「はい。間違いないようです。教会にいた頃の測量で既にその量だったらしく、今はもう少し増えているかと」


「教会も長年諦めないわけだな」

ロヴェルは立ち上がり羽織りを着た。

「どちらへ?」

「研究室に。ビビ殿と話さねば」














ーーーーーーーー


研究室には明かりが付いていた。バルトが言うには、ビビはいつ寝てるのか?と言うほど何かを熱心に研究しているようだ。

ドアをノックすると「どうぞ」とすぐ返事があった。


「やぁロヴェル殿、何か用かな?」


ビビは椅子に座るようロヴェルを促した。


ビビは微笑んでロヴェルを見ている。皇帝のような笑みとは違うが、慈しみがあるわけではなく、試されているように感じる。

なんとなく、ロヴェルが何を聞きにきたか分かっているようだった。


「どうして黙っていたのか、聞いてもいいだろうか?」

「黙っていたつもりはないさ。様々な偶然が重なったが、運命の導きとでも言おうか」

ビビは苦笑した。

「まさか、あそこで君に見つけてもらえるとは」


「リリアンの魔力量は、本当に常人の数倍あるのか?」

「ふむ。1人で国が滅ぼせる量は、あるのかな」


「追われているのは、教会だけではすまないだろう」

「そうだね。いずれ、皇帝にも追われるだろうと思っていた」


「君とリリアンが仲良くなってくれたようで、良かったよ」

ビビは微笑んだ。

「あのまま小屋に居ては、リリアンを守れなかった。あの子には自身の魔力量を、常人より少し多い程度と認識させているからね」


ビビはロヴェルの正面に座り、悲しそうに微笑んだ。

「それで?当初の約束通り、リリアンを教会と皇帝から守ってくれるのかな?シュヴァルツ公爵閣下」


「············皇帝と、教会がこれ以上力を持つのは避けたいからな」


ビビは微笑った。

「はは。今はそれで充分だよ」


釈然としないが、ロヴェルは少しスッキリしていた。リリアンを皇帝にも教会にも近付けてはいけない。護る正当な理由を見つけたからか。

「リリアンが治癒魔法以外使えないのは、貴方の仕業か?」

「それもある。私はリリアンの治癒魔法以外の師匠だからね。しかし彼女の才能もある」


ビビがあえて治癒魔法以外を使いにくく教えたことと、リリアン自身の治癒魔法以外の才能のなさ。

「ふっ」

ロヴェルは思わず笑ってしまった。






バタバタバタと走る足音が聞こえた。

「ビビ様、そこにお嬢様はいらっしゃいますか?」

ラナがドアの前で、慌ただしく聞いている。


怪訝な顔をして、ロヴェルがドアを開けて答えた。

「どうした。騒がしいな。リリアンはここにはいない」

ラナは焦りからか礼儀を少し忘れている。

「こっ公爵様!そちらにいらっしゃったのですか。お嬢様がお部屋にいないのです!」


「なに?」

詳細を聞かずにロヴェルは部屋を出た。



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