16ー城からの使者
公爵邸のロヴェルの自室に、リリアンとビビ、ロヴェルとカインツが集まっていた。執事のバルトも居る。
「これが問題の品です。ビビ殿、確認いただいても?」
カインツが診療所で受け取った巾着を、ビビに差し出した。
「ふむ」
ビビは巾着をひっくり返して中身を机に出した。雑に出したので薬草が乱雑に散らばった。
「師匠?証拠品なのだから丁寧に扱わないといけないのでは?」
リリアンは薬草を集めた。
(でも珍しいものはないな)
痛み止めに効くものや、腹痛に効くと言われる一般的な薬草ばかり。
「問題はこちらだ」
ビビは巾着の中をのぞいて、袋をひっくり返した。
巾着の裏には、禍々しい印が押されていた。
「これは獣魔集めの紋様だな。この巾着自体が呪符の役割をしていたのか」
薬草を分けると、あまり見覚えのない赤い実が目についた。
「あれ?師匠、これ······」
「ん?これは······いやまさか!」
興奮したビビは笑いはじめた。
「なるほど!まゆつばものだが、面白い!」
赤い実と巾着を交互に見て、にやにやしているビビに、ロヴェルが言った。
「我々にも分かるように言ってくれ」
リリアンが変わりに答える。
「この赤い実は、ヘルハウンドが好むと言われるケルベロスの実です。それを獣魔集めの札と一緒にすることで、ヘルハウンドが集まったのではと」
「そんなことがありえるのか?」
カインツは思わず口に出す。
たしかに、ケルベロスの実をヘルハウンドが好むと言うのも、人間が言っているだけで確証もない。
「しかし実際にヘルハウンドが集まっている。一度の事案では何も言えないが」
落ち着いたビビが言う。
思案していたロヴェルが口を開いた。
「とりあえずこの巾着を調べてもらおう。繊維や織り方で多少の出どころは調べれるはずだ」
コンコンっ!
返事も待たずに扉が開いた。
「申し訳ありません、閣下!皇城より使者がまいっております。現在門の外に待機しておりますが、どう致しましょう」
ロヴェルの顔が険しくなる。
「なんだと······」
執事のバルトはため息をもらす。
「先触れもなく·······」
「待たせておけ。ゆっくり準備をして出迎える」
ロヴェルはイライラと言った。
ラナが入口に来たので、リリアンはササッと立ち上がった。
「じゃあ私も部屋に戻るね!」
「リリアン」
呼び止められて、振り向く。
「ん?」
「今日は部屋から出るな」
この声色は怒ってなかった。
ーーーーーーーーーーー
「ずいぶん待ちましたよ。まあ仕方がないですね。我々の為に時間をかけて着飾っていただけたのですから」
馬車から降りた男が言った。
「先触れなく来ておきながら、何をおっしゃる」
ロヴェルが冷たく言う。
ロヴェルと同じ金髪だが、少し緑がかったライムブロンドの髪と緑の眼を持つ、帝国の第1皇子テオドラン・エゼルバルド。
「まさか陛下が貴方をお使いによこすとは」
ロヴェルは嘲笑を込めて言った。
「本当です。私もまさかこんな遠くに寄越されるとは。可哀想な私を、公爵は歓迎してくださいますよね?」
冷たい風が2人の間に通り抜けた気がして、ロヴェルの横に控えていたカインツはヒヤリとした。
「どうぞ中へ」
ロヴェルはそう言い、皇子を招き入れた。
ーーーーーーーーーーーー
「ご用件をお伺いしたい」
ロヴェルはバルトの淹れたお茶を一口飲み、冷めた目で言った。
「はは。まだお茶を一口飲んだだけですよ。そのようにすぐ本題に入るなんて。久しぶりの再会です。ゆっくりお話しましょう」
元々ツリ目気味の皇子が、ニヤリと笑いながら言うと、とても不遜に見える。
(帝国のキツネめ)
ロヴェルはイライラを抑える努力をした。
「殿下、私も暇ではありません。有益な時間を無駄遣いしたくないのです」
努力をしたものの、誰が聞いてもケンカを売っているように聞こえた。皇子の横に控えている騎士は爆発寸前だ。皇子は口の端をニヤリと歪めただけで、態度は崩さない。
「まぁそう突っかからないでください。私だって命令で来ているのですから」
「そう言うのでしたら、忠実に命令だけ伝えて去ってください」
「ッ公爵!言葉が過ぎますぞ」
我慢の限界を迎えた、騎士が叫ぶ。
ビキパキッ
持っているカップが砕けてしまった。
(抑えろ抑えろ)
「········そうですか?」
射抜くような鋭い眼で騎士を威圧する。
分かっている。皇族を前にすると、どうにも我慢が難しい。
皇子は手で騎士を制してやれやれと言った。
「分かりました。しかし用件は公爵も分かっていらっしゃるでしょう。再三通達しているのですから。陛下がしびれを切らしただけです」
「ふむ。最近は公爵領にも魔物が増え、伝達が届かない場合もあります」
しれっと言う。
「はは。そんな答えでは私は陛下に殺されてしまう」
(知ったことか)
「治癒師を登城させてください。強力な治癒師は帝国の宝ですよ」
「殿下、私は陛下に言ってあるのです。治癒師は登城させないと」
ロヴェルの冷たい声音に、また静寂が訪れた。
ふぅ。とため息を皇子はついた。疲れが見える。
「埒が明きませんね。なるほど、確かに難しそうだ。そんなに大事にされているとは。参ったな。簡単な案件だと思って引き受けたのだが」
皇子は思わず愚痴をこぼした。
第1位皇位継承権を持つ皇子と言っても、皇帝は実子より力のあるロヴェルに皇位を譲らせようとしているくらいだ。実質テオドランの立場は弱い。皇帝には逆らえない立場なのは理解している。同情は一切しないが。
「では、お会いするだけでも駄目でしょうか?」
「·············」
ロヴェルは答えない。
皇子は諦めたように首を振って立ち上がった。
「分かりました。まさか私が手ぶらで帰ることになるとは。私の公爵への偏見が仇になりましたね。貴方は冷たい人だと思っていたのですが」
「バルト。殿下がお帰りだ。ドアを開けろ」
「ああ、これだけでもお渡しさせてください」
皇子が言うと、もう一人の付き人が花束をバルトへ手渡した。
「せっかく持ってきたので。花に罪はありません」
そう言うと、皇子はドアへ向かって歩き出した。ドアの手前で止まり、小さいがロヴェルに聞こえる声で言った。
「公爵、護りたい人が出来てしまったのですか?残念です」
ロヴェルはこめかみがピクリと動くのを感じた。
皇子が去り、バルトが傍にきた。花束を持っている。
「閣下、こちらはどう致しますか?」
「捨てろ」
吐き捨てるように言って、少し肩の力を抜いた。




