13ーヘルハウンドの群れ②
エドガーは前方のヘルハウンドに切りかかった。
一振りで1匹2匹、振り返って3匹倒す。
(あっやばい!はやくバリア張らなきゃ)
鮮やかな剣さばきに目を奪われたものの、リリアンはすぐ我に返って呪文を思い浮かべる。
バリアを張る方法も、呪文も覚えている。
手に魔力をためて、呪文を唱えた。
リリアンの周囲に膜が張る。
バリンッッ!
出来上がったバリアはヘルハウンドにより一瞬で壊された。
一瞬の出来事にリリアンは身動きが取れない。ヘルハウンドが口を大きく開いて飛びかかった。
「ファイヤーボール」
エドガーが片手に剣を持ち、片手で火の球を放った。
目を炎に潰されたヘルハウンドは一度下がったものの、すぐにまた襲いかかった。
「お嬢様、もう一度!」
エドガーが叫ぶ。
リリアンはもうバリアのイメージが出来なかった。
呆然と目を見開いたまま、(痛そうだな)と考えた瞬間、リリアンの目の前に粉塵が立った。
現れた人物の一振りで、2つの群れのヘルハウンドは吹き飛び、エドガーも両手で塞ぎなから衝撃に耐えた。
「エドガー・ライナー。言い忘れていたが、リリアンは治癒魔法以外は使えない」
ロヴェルは低い声で言った。
「閣下!私まで殺す気ですか」
エドガーは非難を込めて言う。
「お前も一緒に狙ったんだ。護衛対象を頼るとは何事だ」
エドガーはぐっと押し黙った。
遅れて駆け寄る騎士団にロヴェルはよく通る声で言った。
「吹き飛ばしただけだ。片付けろ。リリアンに近付けるな」
剣を鞘に収め、ロヴェルがリリアンを覗き込む。
「リリアン?怪我はないな?」
呆けていたリリアンはコクリと頷いた。
「ロヴェル、エドガー卿は悪くないよ。私が無理に来たんだから」
「だとしても力不足だな。訓練の内容を変えないとな」
他の騎士に魔物を任せ、エドガーもリリアンの傍に来た。
「勘弁してください閣下。訓練は今でも充分キツイです。お嬢様、大丈夫ですか?」
腰が抜けているリリアンを、エドガーが抱き上げようとすると、ロヴェルが手で止めた。
「? 何ですか閣下」
ロヴェルは静止させたものの、自分の手を不思議そうに見て「何でもない」と言ってその場を離れた。
「ごめんねエドガー卿」
リリアンはエドガーに抱き上げられたまま謝罪した。
エドガーは優しく笑い、馬車へ歩き始める。
「私こそ申し訳ありません。お嬢様を危険に晒してしまい········まさか、あんなに数がいるとは」
いつの間にかロヴェルも魔物退治に加わっていた。
馬車にリリアンを乗せ、後ろを振り返ってエドガーが言う。
「おや、閣下が参戦しているとなれば、すぐに一掃出来ますね。先に邸へ戻りましょう」
無理を言って危険な目にあった手前、ここで残りたいとは言えなかった。リリアンは一足先に邸に戻った。
「お嬢様!」
メイドのラナがバスタオルを持って駆け寄る。ふわふわのバスタオルに包まれて、リリアンはホッとした。
「とりあえずお風呂へ行きましょう。足元も泥だらけですよ」
ラナに引っ張られてお風呂に連れて行かれる。
「ありがとうラナ。あとで診療所に連絡をいれてくれない?心配してるかもしれないから」
「分かりました。しかしお嬢様、今はご自分の心配をなさってください。小さな傷がありますが、ご自分で治癒なさらないのですか?」
言われてリリアンは気付いた。確かに小さなすり傷がある。
「あとで治すわ」
大きな傷でない限り、自分の傷を治すのは面倒だ。
そしてリリアンはこの事をあとで後悔する。
コンコン。
「どなたですか?」
リリアンの髪を乾かしながら、ドアに向かってラナが聞いた。
「私だ」
リリアンとラナが目を見開く。ラナに至っては、「公爵様がノックするだなんて」と衝撃を受けている。そんなに珍しいことなのだろうか?
「ロヴェル?どうぞ」
リリアンが言うと、ラナはササッと自分の持ってきたタオルや香料をカゴに収めた。
入ってきたロヴェルに、
「では私は失礼します」
と一礼して退室した。
ロヴェルは入室したものの、近くに来ない。
「·········?ロヴェル?」
少し考えたロヴェルは、自分の着ていた羽織を脱ぎながらスタスタ近づいて来た。そして羽織をリリアンにふわりとかけた。
(そういえば前に寝間着だからなんとか言ってたわね)
リリアンは気にならない。寝間着と言っても普段のワンピースとあまり変わらないような?下着じゃないんだから。
「ラナ・アンセルから怪我をしていると報告があったが」
「え?」
いつ報告したの?
「大丈夫よ。怪我なんてしてないわ。それよりロヴェル、さっきは助けてくれてありがとう」
「ふむ。何であそこにいたんだ?」
リリアンはこの1ヶ月の自分の過ごし方を、簡単にロヴェルに話した。
「報告は受けていたが、診療所に行ってみないとな·······」
難しい顔をして言うロヴェルに、リリアンはなんだか嫌な予感がした。
「いいわよ!小さな診療所に公爵様が来たらみんなびっくりするわ」
リリアンは慌てて立ち上がった。ロヴェルは反射的に一歩下がったが、服のすき間から見えた包帯をリリアンは見逃さなかった!
ガシッと公爵閣下の胸ぐらをつかむ。からの、リリアンは左右の服の合わせをガバっと開き、上半身を露わにさせた。包帯には血が滲んでいる。
ロヴェルはあまりの事に衝撃を受けている。
「ロヴェル!また私に黙っている気だったの?」
ムカムカと気が立ってきて、自分の魔力いっぱい力を込めて唱えた。




