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帝国一の治癒師リリアン・アナベルは 今日も仕事を選べない   作者: 織子


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13/14

12ーヘルハウンドの群れ①

リリアンが公爵邸に来てから1ヶ月が経った。


決まった時間に騎士団を訪れ、怪我人が出てないか確認し、合間の時間で薬草を作ったり、街の診療所へ手伝いに出向いたりして過ごしていた。






「リリアンさんが来てからとても助かっているよ」

街の診療所の治癒師、カザンは穏やかに言った。


「私も勉強になります。騎士団の方たちは鍛えているので、大きな怪我はしないから」

リリアンは持ってきた薬草を分けながら言った。


もともと魔力さえあれば治癒魔法が使えるこの世界で、治癒師の存在はそこまで重要視されていない。

そのため診療所を訪れる者は多くない。


助手で妹のカナリアが呆れて言う。

「もともと忙しくないでしょ。兄さんが嬉しいのはリリアンさんに会えるからじゃない」


カザンは慌てて話題を変えた。

「そういえば最近東の森に魔物が頻繁に目撃されてるらしい。昨日も行商人の人が襲われてうちへ来たんだ」


「そうみたいですね。騎士団でも話題に上がっていました。近い内に討伐隊が組まれるかもしれません」

護衛で付いてきたエドガーが言った。


「エドガー卿も行くことになるの?」

「はい。ただ閣下が領地の視察から戻られてからになります。数日中にはお戻りになるので」



そうなのだ。ロヴェルはこの1ヶ月、ほぼ邸にいなかった。皇城から戻った次の日には視察に出発した。ということは、視察から戻ったら次は討伐に行くということだ。


(本当に忙しい人なのね)

あの日渡したお土産は、置いた台からなくなっていたので、食べてくれたのだと思っている。 



2人と少し話をして、お茶をした。

診察に来た、腰が痛いというお婆さんに貼り薬を渡したくらいで、患者さんはあまり来なかった。

(今日も平和ね)

良いことだ。

「お嬢様、そろそろ帰りましょう。日が暮れます」

「そうね。カザンさん、カナリアさんまた――······」


――バタンッ!!!

リリアンが帰ろうと立ち上がった時、勢いよく診療所のドアが開いた。

「カザンさん!大変だ!魔物の群れに襲われた!怪我人が居るから来てくれ!」

真っ青な顔で駆け込んできたその人も、顔に怪我を負っている。

外がざわつきはじめた。


「カザンさんはその方を治癒してください!私が行きます!どこですか?」

「東の街道だ!ーしかしあんたは?」

「私も治癒師です!エドガー卿行きましょう!」

しかしエドガーがリリアンの前に立ち塞がった。

「エドガー卿?」

「私は閣下よりお嬢様の護衛を任されております。お嬢様は邸へお戻りください。私がいきます」

「私は治癒師です!ロヴェルは私に自由に治癒をしていいと言いました」

エドガーは少し怯んだ。

「エドガー卿、公爵領民が危ないのですよ!」


リリアンはエドガーの横をすり抜けて走った。

「·····っ」

エドガーは葛藤している。しかしエドガーが止めようと思えばリリアンなんてすぐに静止できる。止められてないということは、そういうことなのだ。

「危ないと思ったらすぐに引き返してください!いいですね!」

条件を伝えながらエドガーはリリアンと一緒に街道へ向かった。



街道に着くと、すでに日が沈みかけていた。暗くなると魔物はさらに活発になる。

街道に着くと、先に駆けつけた騎士団が魔物と戦っていた。思ったより数が多い。

「ヘルハウンドか!こんなところまで······お嬢様はこちらで待機してください」

エドガーはそう言うと、騎士の1人にリリアンを預けて魔物の群れに向かった。


「負傷者はいませんか?私は治癒師です」

リリアンは騎士団に案内してもらい、怪我人の所へ向かった。


5、6人の怪我人が集まっていた。みんな噛まれたり、爪で攻撃されて裂傷したりしていたが、命に別状のあるものはいない。

「みなさん、すいませんがここにかたまってください」

リリアンが言うと、怪我人たちは騒ぎ始めた。街の外から来た人が多く、突然来た自分より若輩な者の言い分を聞くのは難しい。

「怪我人に何を言うんだ」

「早く治癒師を連れてきてちょうだい」


リリアンは仕方なく範囲を広げた。

(このくらいなら大丈夫だわ) 

「エリア・ヒール」


リリアンを中止に、白い光の輪が出来た。輪は球体に変化し、光が収まると中に居た者の治癒は終わっていた。


そこに居た人たちは、怪我人もそうでない人も呆気にとられ、一瞬の静寂が起こった。

リリアンが立ち上がると、皆我に返り口々にお礼を言った。

「なんて高度な光魔法なんだ」

「初めて見たわ」

「痛くない!ありがとうございます!」


リリアンはにこりと微笑ってその場から離れた。

(ヘルハウンドなら、群れはひとつじゃないわ。エドガー卿は無事かしら)



「お嬢様!」

正面から駆けてきたエドガーに、リリアンはホッとして言った。

「魔物は?」

「片付けました。お嬢様、邸へ戻りましょう。またすぐ群れが来る可能性があります」


グルルルるる·······

言ったそばから、重低音の唸り声が聞こえた。藪の中から5、6匹のヘルハウンドが現れた。


エドガーが剣を構える。

すると、右側の方からもヘルハウンドの群れが現れた。

「なっ」

エドガーは思わず声を漏らした。

「多いな······」

恐らく、エドガー1人ならば問題ないのだろう。リリアンがいることが問題なのだ。

「お嬢様、攻撃魔法や、バリアなどは張れますか?」


「――うん」

間を開けてしまった。気づかれただろうか。

「では、私が前方の群れに斬りかかるので、すぐにバリアを張ってください」


気づかれていない。リリアンは治癒魔法以外はからっきしである。

だがここで出来ないとなると、エドガーが困る。魔力だけはあるのだ。やれば出来る。リリアンは自分に言い聞かせて頷いた。


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