10ー街へ
リリアンはメイドのラナ、護衛のエドガーの3人で街に繰り出した。
「お嬢様、あそこです。街で1番人気の洋服店アゼリア」
ラナは1番楽しそうだ。
「私は入口の外で待機していますね」
ピンクで彩られ、女性たちの声で溢れている店内にエドガーは尻込みしている。
「何を言ってるのですかエドガー卿!貴重な男性の意見もお聞かせくださいませ!」
ラナはエドガーを引っ張って入店し、リリアンも後に続いた。
店内に入ると、やはりリリアンは人目を引いた。この髪色は目立つのだ。
店内を見渡すと、ドレスコーナーとラフなワンピースが階で分けられている。
店員が駆け寄ってきた。エドガーのシュヴァルツ騎士団の紋章を見て、VIPルームへ案内しようしているようだ。
「公爵様のお使いではありません。普段に着る服を見に来ただけですので、勝手に見させていただいてもいいでしょうか?」
リリアンは返事も聞かず、慌てて店員から離れた。
ワンピースのコーナーには、貴族と平民が入り乱れている。上位貴族の令嬢はいないだろうが、若い女の子たちで賑わっていた。
「ここのワンピースは、お値段も手頃でデザインも可愛いので、貴族の令嬢にも、裕福な平民の子たちにも人気なのです」
ラナが言った。
たしかに、生地も悪くなく、デザインもすっきりと可愛いものから、派手なものまで様々だが、どれも洗練されている。
「お値段もこの生地にしてはお手頃ね。どこで採算を取っているのかしら」
「ドレスコーナーがとても高価なのです。上位貴族の方しか手に出来ませんが」
(なるほど。上位貴族であれば、高価であればあるほど箔が付くから購入するのね。その分、こちらで量を売る訳か)
「お嬢様、どれがいいですか?このピンクベージュのワンピースなど、とても似合いそうです」
ラナの言葉に、気を取り直して自分の服を探した。
ラナが見つけたピンクベージュの服と、数点を買うことにした。
「お嬢様の服は公爵邸に送るようにお願いします。支払いもそちらで」
ラナが店員に伝えると、財布を出そうとしていたリリアンは慌てた。
「えっ自分で支払うわ」
「いえ、治癒の料金をまだ支払っていないからと、公爵様から言付かっております」
「でも」
「さあ、行きましょう!」
グイグイとラナに押され、店を出た。
「本当に良かったのかしら······」
代金を支払えなかったことを悔いているリリアンに、ラナが言う。
「お嬢様、こんなことで驚いていてはいけませんよ。朝お見せしたドレスの中に、何着かアゼリアのドレスもありましたが、あれは全てお嬢様の為に公爵様が用意されたものです」
「えっっ」
リリアンは絶句した。
(うそ······もともと公爵邸にあったものじゃなくて?)
嬉しいとも思うが、値段を考えたら恐ろしい。あの豪華なドレス達をいつ着ろと言うのか。
「お嬢様、次はどちらに行かれますか?」
真っ青になっているリリアンにエドガーが聞く。
「もう用事は終わったけど、このまま帰るのはもったいないわね」
(師匠も来れば良かったのに)
ビビも誘ったが、着るものには困ってないと言って断られた。確かにビビは洋服に頓着がなく、あのスタイルであの美貌なのでなんでも着こなしていた。
「師匠におみやげでも買おうかな」
リリアンは小物屋を探すことにした。
シュヴァルツ領は、前に住んでいた街より栄えていた。何より治安が良さそうだ。貧民を見ない。商人たちも笑顔で活気に溢れ、リリアンには輝いて見えた。
「綺麗な刺繍ね」
異国の物を集めた露店で足を止めた。
「お目が高い!それは東方の光沢の入った糸を使って刺繍がしてあるんだよ」
白いハンカチーフに、金糸を交えた糸で鳥と月が刺繍されていた。
「これと、こちらの刺繍の栞をください」
(栞は師匠に、ハンカチは、渡せるか分からないけど)
「よいものがあって良かったですね」
エドガーの言葉にリリアンはにっこり笑った。
「きゃーーーーッ!!!」
悲鳴が市場に轟いた。リリアン達が視線を向けると、倒れて叫ぶ夫人の先に、刃物を持った男が居た。男はすぐに走り出す。
「エドガー卿!」
リリアンが言うと、エドガーは一気に距離をつめ男を踏み倒した。あまりの速さに一瞬ポカンとしてしまったが、リリアンはすぐに倒れた夫人に駆け寄った。
「ママっママ大丈夫?!」
夫人の傍らにいる男の子が心配そうに声をかけている。
「ぼく、ママを診せてくれるかな?私は治癒師なの」
脇腹を抑えて苦しんでいる。深い傷に眉をひそめる。
「ヒール」
リリアンが手をかざすと、光の粒が脇腹に降り注いだ。
「えっ」
夫人は驚き、傷口を見る。
破れた衣服は戻らないが、傷口はすっかりなくなっているようだ。
「ありがとうございます!このような高度な治癒魔法をかけていただけるなんて」
「いえ、治って良かったです」
リリアンはにこりと笑って言った。
「ありがとう!お姉ちゃん!」
男の子も興奮している。
「私はそこの菓子屋のものです。いきなり襲われて·······お代はどうしましょう?」
夫人がさした先にはこじんまりとした可愛いお店があった。
「いえ、緊急の場合は頂いておりません」
リリアンが言うと、夫人は慌てて言った。
「そういう訳にはいきません!」
「ですが、私が勝手に治癒をしたので」
夫人は少し思案して言った。
「とはいえ、お助けいただいておきながら高額なお支払いは出来そうにありません。よければ、お店に来ていただいて、少しお礼をしてもいいでしょうか?」
リリアンが迷っていると、男の子がリリアンの腕を掴んだ。
「お姉さん!ぜひ来てください。僕のお店には可愛らしいものがたくさんあります」
男の子の可愛い勧誘をリリアンは断れなかった。
夫人のお店には、可愛い缶に入ったクッキーや、紅茶が置いてあった。
リリアンはクッキーと紅茶をいただいた。
(可愛いな)
クッキーは花や動物の形をしている。
(師匠にもひとつ買って帰ろう)
ビビはあれで可愛い物好きだ。
治癒代はいつもリリアンを迷わせた。教会は治癒費として高額な料金を請求するが、外れ者、教会が関与しない治癒師は料金を自分で決めている。全く支払えない貧民がいる街に居たので、無償で治癒をしていたが、ここではそうはいかないのかもしれない。
(無償でしていたら、他の治癒師が困るかしら)
ぼんやりと考えていると、男を警備隊に引き渡したエドガー卿が戻ってきた。
「あの、エドガー卿。公爵様はいつ頃戻られるか分かりますか?」
「今日か明日には戻られると思いますよ」
リリアンは予想外の答えに驚いた。
「えっでも、皇城へ行かれたんですよね?皇都までも馬車で数日かかるのに······」
「ああ。閣下は転移陣で行かれたので、移動距離はあまりありません」
転移陣。皇城と、重要な拠点にいくつか置かれていると聞いたことがある。
「夫人、お土産にクッキー缶を2ついただいてもいいですか?」
夫人は喜んで包んでくれた。




