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それからしばらく、というか2日くらい、私は森の中を彷徨っていた。だが出口は見つからなかった。
だってこの森広すぎるんだもん。
おばあちゃん曰く、この森は私のお母さんがおばあちゃんに頼んできたので作ったらしい。なんでも私の為なんだとか。
「にしても本当に広いなこの森。出口に向かってる感じがしないんだけど。魔物とはよく出会うんだけどなぁ」
この森には犬みたいな魔物がよく出る。そして私が歩いていると、この魔物たちがよく襲ってくるのだ。10秒に一体のペースで襲ってくるので、毎回デコピンで倒すのもめんどくさくなってきていたところだ。
襲ってきた魔物をまたデコピンで倒す。
とその時、遠くで何やら戦っている音がした。と言っても魔術の発動音しか聞こえないので、多分戦っているというよりは、一方的に蹂躙しているのだろう。
だが魔術の発動音が一向に消えない。
大量の魔物に襲われているのだろうか。
困っているかもしれないし、もしかしたら助けはいらないかもしれないけど一応行ってみよう。
私は音のする方へ走り出した。
走っていてもしっかり襲ってくる魔物に少しうんざりしながら音のした場所に着いた。
そこには"低級炎魔術・ファイア"を放つ女性の姿があった。魔物が一体、もしくは二体のペアで絶え間なく彼女に襲っている。というか森の中で炎魔術って……木に当たったらどうするの……
それにしてもこの魔物たちの動き……これは近くにあの魔物がいる時の動きだ。多分近くにアイツがいるはず。これは私もよく出会ったからわかる。アイツは大抵どこかに隠れて、召喚魔術で眷属を呼び出し対象に攻撃させる。
そのアイツの名は、ドラスキアビースト。頭に角が生えた大型犬である。空気中の魔素を無条件に取り込み魔素を魔力に変えれるため理論上召喚魔術を無限に使ってくる面倒くさい犬だ。
ちなみにこの犬、最高で2489体まで召喚できる。前に試したことがあり、2489体召喚したら倒れてしまった。召喚魔術を無限に使えるとは言っても、ひたすら同じ魔術を発動してたら、まぁ、倒れるよね。
さて、今回は木の上か。
私は木の上からひたすら召喚魔術を発動しているあの犬の元に飛んで、デコピンを一発入れて倒してやった。犬は吹っ飛んで行った。
木の上から降りると森の中で炎魔術を使っていた彼女が近づいてきた。
「いや〜助かったぜ。ありがとな」
「見た感じ余裕そうだったけど、もしかして助けなくてもよかった?」
「いやありがたかったぜ。倒すのは簡単だったがしつこくてな……あのままいってたらブチギレてこの森ごと焼き払うかもしれなかったからな」
危なかった。もし助けてなかったらこの森が焼き払われるところだった。ナイス私!
「私はミルディス・カラリアだ。この森には仲間を探しにきた」
「私はニア・セレス・ハイルブラストだよ。カラリアちゃんって呼んでもいい?」
「ちゃん付けはやめてくれ。なんか恥ずかしいっていうか、照れる」
「じゃあカラリアって呼ぶよ」
カラリアの顔を見上げると顔が少し赤くなっていた気がした。
改めてカラリアを見て私は今更ながらある事に気づく。
「ねぇカラリア、その頭の角ってもしかして……」
そう、カラリアの頭に綺麗な紅色の角が生えていたのだ。しかもこの角は確か……
「あぁ、この角か。まぁもう気づいてるだろうけど私、ドラゴンなんだよ。炎龍族っていう種族でな、炎魔術が得意なんだ。それに基づいてるかは知らんが赤龍族は角が赤い」
ドラゴンには七種の種族が存在する。
炎魔術が得意な炎龍族。
水魔術が得意な水龍族。
雷魔術が得意な雷龍族。
風魔術が得意な風龍族。
土魔術が得意な土龍族。
光魔術が得意な白龍族。
闇魔術が得意な黒龍族。
なるほど、カラリアは赤龍族だったから炎魔術を使ってたのか。……いや他の魔術が使えないわけじゃないんだしやっぱり森で炎魔術なんて使わないでよ……
「じゃあこっちからも質問だ。お前はここで何してたんだ?」
「私、2日くらいこの森を彷徨ってたんだよね……」
「じゃあここには何しに来たんだ?」
「何しにきたっていうか……私はこの森に住んでて、冒険者になれたからここから出ようとしてたんだよ」
「え?冒険者?…ニア、お前何歳だ?見た目が9、10歳くらいなんだが……」
「それは私が子供に見えるってこと?」
「まぁ……うん」
えっ、私って子供みたいな見た目なの?
確かに身長は146cmとかだけど、全然伸びなくて身長測るたびにがっかりとかしてたけど、16歳くらいに見えるような雰囲気を出してたと思ってた。
「……私、16歳……」
「はぁ!?16歳!?」
カラリアが声を荒げた。
「冒険者って20歳以上じゃないと試験受けられないんだぞ!?」
「でも私冒険者カード持ってるし……」
私は空間収納魔術から冒険者カードを取り出した。
「……それ本物か?」
「怪しいと思うなら見てみなよ」
私はカードを手渡した。カードを受け取ったカラリアの動きが止まる…………あれっ?息してない!
「カラリア!大丈夫!?」
カラリアを揺さぶると、カラリアはハッとして意識を取り戻した。
「あっぶねぇ……死ぬかと思ったぜ…しかしこのカード本物なんだな。しかもよくわからんバッジまでついてるし……」
カラリアからカードを返してもらった。
「はぁ……カードがあるってことは、お前本当に冒険者なんだな……信じられねぇけどよ」
なんとか信じてもらえたようだ。まぁ私も最初は困惑してたし当然の反応なのかな。
「こいつが冒険者ってことは私とパーティーを組めるのか……」
? 何か言ってたようだけど小さくてよく聞こえなかったな。
カラリアは何やら考え込んでいるようだ。
そういえば何かを忘れているような……そうだ、私この森で迷ってたんだ。
「カラリアって冒険者だよね?私この森で迷ってたんだけど、よかったら近くの町まで案内してくれないかな」
「ん?あぁ、いいぜ。……そうだ、じゃあこっちも一つ頼みたい。私とパーティーを組んでもらえないか?」
「パーティー?何それ美味しいの?」
「美味くはねぇ……てか食べ物じゃねぇよ」
「じゃあパーティーって何?」
「パーティーってのは仲間のことだ。」
仲間って冒険者の醍醐味の一つじゃん!
「まぁ、嫌なら無理しなくても……」
「私カラリアとパーティー組む!」
しまった。興奮しすぎて少し食い気味になってしまった。引かせちゃったかなぁ……
「お、おう……」
引かせちゃってたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
しかもなんか一歩後退りした気が……
と、とりあえずなかったことにしよう。
「ところで、カラリアってなんで私とパーティー組みたかったの?」
「あっ、えっと、私、今、高難易度のクエスト受けてたんだけど、1人じゃ厳しいって聞いたから仲間を探してたんだ。そこら辺の冒険者はなんか弱そうだったし……その点、お前はあの犬をデコピンで倒したからな。お前なら実力もありそうだし、お前に決めたってわけだ」
なるほど。カラリアは人を見る目があるなぁ。
いやまあ、私は別に自分のことをすごく強いとか思ってるわけじゃないし、おじいちゃんとおばあちゃん以外の人と会ったことなんてないから分からないけど、普通の冒険者よりかは実力があると思っている。
その証拠になるのかは分からないけど、実はさっきから襲ってくる小型犬のような魔物をデコピンで倒し続けている。これは普通の冒険者には出来ないのではないだろうか。
というかコイツらさっきから私だけを狙ってる気がするんだけど!?
おかしいでしょ!なんでカラリアには襲わないの!?あーもうめんどくさい!
「カラリア。私をパーティーに誘ってくれてありがとう。でもとりあえずこの森を出よう。そろそろ限界だよ。全て消し去ってしまいたくなる」
「あ、あぁ……そうだな……とりあえず近くの町に行こうか」
私とカラリアは森の中を歩き始めた。結局、私は森を出るまでずっとこの犬に襲われており、デコピンをしまくっていた。そろそろ中指が痛くなってきていた。許さんぞ駄犬。
読んで頂きありがとうございます。
次回も不定期に更新しますので気長にお待ちください。