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10万円でOK! 【その4】

 翌日。


 鏡の中の私の目の下には、うっすらクマちゃんが。


 ゲッ! コンシーラー必須!



 ちょっと疲れたお肌で出社した。メイクのノリが悪いったらないよ。


 これはGの二次被害よね。マジ最悪。


 4時間しか寝てない。寝不足はお肌に悪いのに。



 お昼休みは休憩室で座ったままテーブルに突っ伏した。


 ほとんどの人たちは、外にランチに出てるか、自分の席でコンビニメシで簡単に済ませるから、休憩室はあまり需要がない。だって、ここには飲み物のサーバーすら無いし、自販機さえないただの部屋。


 向こうの壁際で、ひたすらノートパソコン広げてカチャカチャ仕事してる男の後ろ姿が、一つあるだけ。


 だから、いいの。私がここでダレて、多少だらしない姿勢でいようと。



 昨夜の予定外出費も痛かったし、さらに対策でお金がかかるかもと思うと食欲も失せる。午後の仕事は非常にツラい。タイムワープしてさっさと5時になって欲しい。


 (´Д`)ハァ…



「み〜つけた! ここにいたのね。どうしたの? 揚羽(あげは)さんたら」


 私と同じく新入社員の七星(ななほし)さんがやって来て、声を掛けて来た。


 彼女とは割と気が合う。私とは全く違うタイプなのに。


 あちこちにヒラヒラ気が飛んでそそっかしい私と違って、落ち着いてしっかりした秀逸な人なのよね。丸顔で可愛いし、モテてそう。気遣いの出来る優しい子だしね。



 私は突っ伏した姿勢のまま、横向いて七星さんを見上げる。起き上がる気力が出ない。お腹空いてるのに食欲がないなんてどういうこと?



「もしかして飲み過ぎなの? 大丈夫? 夜遊びもほどほどにね。今日は朝から目が赤かったよね。入社間もないのに良くないよ?」


 彼女すごく真面目。それ誤解だって。私がそんなパーリーピーポーに見えてたとは心外、存外、予想外。



 私はおもむろにテーブルから起き上がって、隣のイスを引き、ポンポン座面を叩いて、七星さんに隣座るよう勧める。


「やだなー、全然違うってば! 私さ、なんと生き地獄を体験したんだってば! 聞いてよ、七星さん。夕べお風呂上がりのことだったんだけど────────」



 ***



「・・・それは災難だったね。私もアレだけは苦手なのよね。ゾワゾワしちゃう〜。業者に頼むとまさかアレ1匹のために万札飛んでくのね。まあ、真夜中の作業だし、そういうものなのかな? 一人暮らしも楽じゃないね。私はずっと自宅だからその辺は乗り越えられてるけど・・・」


「私だけのユートピアと引き換えのリスクだよ。そんなこともあるかもとは一応思ってはいたけど、本当に来ちゃうとはね。でさ、その業者さんにGの侵入通路の防護してもらった方がいいと思う? お金かかりそうだけど、また出たらイヤだし迷ってるんだよね・・・」


「・・・そうね、うーん・・・金額にもよるかもだけど。けど、そういうのっていくら気をつけたって、出る時は出るものじゃない? ああいう体型の虫の侵入を阻止するのは難しそうよね。それに下水はどこも繋がってるんだし、配管をよじ登って来られたらそれまでよ? 家の中には下水道に繋がるいくつもの排水口があるわけで・・・」


「・・・・・それな。全ての道はローマに通ずって言うしね」


「そう。日本中、全ての道は日本橋に通じてるのよ! Gの道もまた(しか)り!」



 ────ああ! あの黒光りの平たい虫さえ この世にはびこっていなければ、私はこんなに悩むことは無かったのに。手痛い出費も発生しなかったのに!


 うう~・・・あの支払った1万3千円があれば、居酒屋でどんだけ酒池肉林出来たの? その金額あれば欲しかった夏のサンダルも買えたはず。プラス、ネイルのお手入れにだって行けた。それとも、デパコスだって、ひとつふたつ買えたのよ!


 けど、昨夜は私としては、ああするしか無かったの・・・(TдT)



 今さら失った1万3千円で出来たことをあれこれ思い描き、眉間にシワが寄る。


 (。ŏ﹏ŏ) くうぅぅー・・・



 私たちの前がふっと陰になった。


「あのさ、君たちの話が聞こえて来たんだけど───」



 座ったまま見上げれば、私たちが並んで腰掛けたテーブルの向こう側正面に、紺色のジャケットの男性が。


 あっ、向こうでパソコン広げて仕事してた人だ。


 あー、こうして立ってる姿はひょろひょろして、見るからに陰が薄そうな人ね。


 突然私たちに話かけてきたこの男は・・・えっと誰だっけ・・・? 見たことあるような無いような・・・


 目線で七星さんに問いかける。ハッとした彼女は、椅子をガタッと言わせて立ち上がった。



「きゃっ、大久茂(おおくも)係長! すみません。私たち騒がしかったですか?」



 あー、そうそう。言われたら思い出した〜。 広報部の人だっけ?


 私も一拍遅れで見習って七星さんを真似る。



「いや、騒がしかったわけじゃない。君たち、スマホで毎日何見てるんだ? ゲームやら推しの配信やらばっかりじゃ宝の持ち腐れだぞ? まあ、とにかくまた座って。僕もここに失礼させて貰うよ」


 大久茂(おおくも)さんは、私たちとテーブルを挟んで迎え合わせに座った。



「・・・えっと、どういうことですか?」


 やれやれって大久茂(おおくも)さんが小さく首を振った。


 待って! 私たちがこの人にそんなに呆れられるのはなぜなのっ?



「君たち新入社員だろ? 社会人になったばかりの人は、世間知らずだからあちこちから狙われやすいしな。君たちの話、黙って聞いてらんなくなっちまって・・・」


 持っていたノートパソコンを開いて、私たちの方に見せて提示した。



「これを見てみろよ、ほら」


 戸惑い顔の七星さんと顔を見合わせてから、画面に視線を落とした。





                        あれ、続いちゃった★





次回は本当に完結、のはず _φ(゜Д゜ )

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