ユスティニアンは結婚することになったようです
その日、ユスティニアン・マクシミリアノヴィチ・ミュンヒハウゼンは、ネオコンスタンティノポリス大学での講義を終え、帰り支度をしようとしていた。その時、地球国の内閣府官房長官のアナトリー・マラトヴィチ・ポスクレブイシェフが十人ほどの書記官と護衛を引き連れてやってきた。ユスティニアンはこの男のことを知っていた。彼の叔父、ヴァシーリー・イヴァノヴィチ・ミュンヒハウゼンが地球の首相であり、ポスクレブイシェフはその部下だったからである。ユスティニアンが、
「アナトリー・マラトヴィチ、何があったのですか」
と聞くと、ポスクレブイシェフは、
「ユスティニアン・マクシミリアノヴィチ、すぐに首相官邸へ来ていただきたい」
と言った。それを聞いて何かがあったと察したユスティニアンは、ポスクレブイシェフと共に首相官邸へと急行した。ユスティニアンが首相官邸のヴァシーリーの執務室に入ると、ヴァシーリーは、
「ユスティニアン、君にはすまないことをしてしまった」
と言った。ユスティニアンが、
「どうしたというのです。ヴァシーリー叔父さん」
と聞くと、ヴァシーリーは、
「奴等が地球にまで急遽迫ってきたのは知っておるな」
と言った。ユスティニアンが、
「それは知っております。でもスモリアの蛮族たちは地球軍が追い払うだろうって、軍の広報では言っていたようですが」
と言うと、ヴァシーリーは、苦虫を嚙み潰したような顔で、
「それが追い払えなかったのだ。昨日、スモリア軍に戦闘を挑んだ地球艦隊が壊滅して、今日、逃げ帰ってきおった。首相である我輩が、フズルの増援が来るまで、攻撃を待てと命じたのにも関わらず、本国艦隊の司令長官が独断で攻撃して大敗しおった。スモリア軍を侮っておったのだろう。緘口令を敷くことも考えたが、地球のすぐ近くなので隠しようがない。地球本星も封鎖されたしな。今は昼だが、今日の夕方には大ニュースになって広がっておるだろう」
と言った。ユスティニアンは、顔を蒼くして、
「ヴァシーリー叔父さん、どうするんです」
と言った。地球本国の艦隊が壊滅したということは、すぐにでもスモリア艦隊が、地球の首都、ネオコンスタンティノポリスに降下してくる可能性があるということである。もしネオコンスタンティノポリスが占領されれば、地球国は機能マヒを起こして、一気に弱体化、最悪の場合は崩壊するかもしれない。そう思うとユスティニアンの心は恐怖に震えた。ヴァシーリーは、続けてユスティニアンにとってさらに驚くようなことを言った。
「それでだユスティニアン、スモリアの女王、リューネリア・アウルミアが我輩のところに通信を入れてきた。スモリア人が君主になることを前提とし、地球とスモリアが統合する条件で講和を結ぼうではないかと。その他にユスティニアン、お前をリューネリアの二人の娘を結婚させたいと言ってきたのだ」
と。ユスティニアンが、
「ヴァシーリー叔父さん、まさかその条件を呑んだんですか。それに二人の妻を持つのは正直言って・・・」
と聞くと、ヴァシーリーは頭を下げながら、
「数か月前に内相に加えて、首相を兼任するようになってから知ったのだが、対スモリア戦の戦況はあまり芳しくない。このままでは負けるだろう。スモリアには地球人を憎む異星人たちが多くいる。もし降伏しないまま敗れたら、地球人が酷い目に遭うだろう。圧倒的な科学力を武器にあちこちの惑星を侵略し、征服し、搾取してきたのだからな。ユスティニアン、お前は髪長く、見目麗しい。リューネリアの二人の娘を満足させるにはちょうど良いだろう。すまないが地球人のため、犠牲になってくれ」
と言った。それを聞いたユスティニアンは能面のような顔になると、
「二人もの四つ耳と結婚することは気に喰いませんが、ここは叔父さんの言うことを聞きましょう」
と言った。これに対して、ヴァシーリーは、
「すまない」
と申し訳なさそうに言った。