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紅偆には逆らえない   作者: rumi
2/2

天伶と紅偆

「ねぇ、どうしたの?」

隣にいる女が俺に問いかける。

「いや、別に。」

女といるのに全く気が乗らないのは、王宮を出る際に遊びに来ていた紅偆に会ったからだーーー。


「どこに行くの?」

俺の前に立ちはだかる紅偆。

「お暇をいただいたので、町に…。」

俺だってのんびりと羽を伸ばしたい時もある。

「私も行きたい。」

紅偆が一緒では伸ばせる羽も伸ばせない。

紅偆が不意に俺に近づいたから、いつの間にか近くなった目線に落ち着かなくなる。

「駄目です。」

「どうして?」

「どうしても。」

一向に食い下がらない紅偆。

「私はね、これでもモテるんです。

子供が一緒では困るんですよ。」

こう言えば間違いなく食い下がる。

「どうせ子供よ!

天伶の馬鹿!」

ほらね。

俺は馬を走らせた。

背だって近くなった。

髪だって伸びて、女らしく笑う顔だって知っている。

紅偆がもう子供ではないことなどとっくに分かっているんだ。

頼むから、会うたびに綺麗にならないでくれよ。

妹のように思っていた紅偆の成長に困るなんてどうかしている。


「気が乗らないから帰るよ。」

俺は腰を上げ、身なりを整えた。

「ずっと上の空。

誰かが貴方の心に入ったのかしら?」

「何を馬鹿な事を…。」

とは言ったものの、ずっと紅偆のことばかりを考える。

「ふふ、妬けちゃうわね。」

俺は王宮へ戻ることにした。

羽を伸ばしに来たはずが、

何しに町に来たんだか…。

っとに、勘弁してくれよ。

馬を走らせているとガラの悪そうな奴らが目に入る。

こんな処を紅偆は1人で来たのか?

どんな神経してやがる。

女だろうが…。

王宮に着くと、藍殿と会話をする紅偆と目があった。

「お帰りですか?」

あからさまに無視をする紅偆。

さっき子供呼ばわりされたことをよほど怒っているらしい。

「お一人で?」

「……。」

なおも無視をする。

見かねた藍殿が言った。

「来る時は紫登様もいらしたんですけどね、帰りは1人でも平気だからって紅偆様が…。」

「平気よ、私を誰だと思っているのよ?護衛なんていらないわ。」

グイッ!!

俺は紅偆を抱き抱えると俺の馬に乗せた。

「紅偆殿は私が送り届けます。

藍殿はご安心を。」

そう言うと安堵した表情を浮かべた藍殿。

紅偆が藍殿にこんな顔をさせているなんて陛下が知ったら、間違いなく出禁だな。

「紅偆殿、しっかり捕まっていてくださいね。」

無視していても言われた通りにぎゅっと掴まる様子は、

まぁ可愛いんだけどね。

「藍殿に会いに来るのは結構ですが、1人で帰ろうとなどしないでください。

この辺はガラが悪い。」

「……じゃない。」

紅偆が何かを呟いた。

「ほら、着きましたよ。」

俺の手に掴まり馬を降りた紅偆は言った。

「藍に会いたいだけじゃない。

私は天伶に会いたかったの!」

「は?

何で私に?」

「私は貴方が好きなのよ!

天伶が好きなの!!」

目に涙を浮かべて怒っているかのような突然の告白に俺の思考は固まる。

好き?

紅偆が俺を?

意識した瞬間顔が熱くなり、逃げるように馬を走らせた。

妹じゃないけど、妹で、紅偆は一国の姫だぞ?

俺の心臓はうるさく鳴りっぱなしだ。

何だよ、これ。

めんどくせぇ……。



数日後、紫登様が来ていた。

紅偆もいるのかと思ったが、紫登様だけだった。

紅偆に対して、どう接したらよいか分からなかったからほっとした…のも、束の間。

「紅偆がね、お見合いをするんだよ。」

は?

「すっごく!したくないって泣いていてね…

兄としては何とかしてあげたいんだけど……

天伶はどう思う?」

「どうって…、何で私にそんな質問を?」

「別に。

ただ紅偆が今も泣いていると思うとね。はぁー…。」

深いため息を吐きながら俺を横目に見る紫登様。

俺にどうしろって言うんだ。

あー!もうっ!!

「本当にめんどくせぇっ!」

俺は紅偆の元へと急いだ。

俺を好きだと言った紅偆。

見合いをするから別れの言葉として言ったつもりか。

泣くほど嫌なら見合いなんかするんじゃねぇよ!!

紅偆のことでこんなに必死になるなんて……

「天伶は結婚しないの?」

まだ幼かった頃の紅偆が言った。

「結婚してもいいんですか?」

「やだ。

恋人を作るのも駄目。

特別な人も駄目だよ?

天伶は私と結婚するんだから。」

頬を膨らます紅偆。

「紅偆殿と結婚の約束はできないけど、"特別"を作らないことは約束しますよ。」

小さく頷いた紅偆の頭を俺は撫でた。

何故かいつも紅偆の言うことを聞いてしまう俺。

いつの間にか、俺の"特別"は紅偆だったんだ。

後を付いて回る紅偆が可愛くて、最初は妹のように感じていた。

だが、歳と共に成長していく紅偆に戸惑い、自分自身に"妹"と言い聞かせた。

そうでもしないと認めざる得ない気持ちに気付いてしまいそうだったから。

「紅偆!!」

勢い良く戸を開けると、驚いた表情をする紅偆。

「何で天伶が此処に?」

「何でって…

お前が見合いするって聞いて……!?」

紅偆の顔を見れば、全く目は腫れていないし泣いた跡などない。

…やられた。

「あー…

勘違いだったみたいなので、帰ります。」

部屋を出ようとすると紅偆が俺の手を掴んだ。

「私がお見合いって聞いて駆け付けてくれたの?」

「だから、私の勘違いだと…」

「するわけないでしょ!

私は貴方が好きなのよ!

何度言えば伝わ……っ!?」

俺は紅偆のうるさく騒ぐ口を塞いだ。

気が強くて、こんな色気のない告白をするような女、めんどくさいだけなのに…

本当、どうかしてる。

「何でキス……?」

「さぁ?

ただ可愛く見えたから。」

これでもかって位、真っ赤になった紅偆に笑った。

まぁ…

"どうかしている俺"も悪くない。

「長年、紅偆殿との約束を守ってきたけど、

私は誰と結婚するんですか?」

紅偆が俺に抱きついた。

「私に決まってるでしょ?

私じゃなきゃ駄目なんだから。」

こんな紅偆が可愛くて、俺も駄目だな。

コイツじゃなきゃ。

紅偆の手を取って口付けた。

「俺と結婚して?」

目に涙を浮かべた紅偆。

「もちろんよ!」

そう言って嬉しそうに微笑んだ。

あー、本当に…

紅偆には逆らえない。




おしまい


"陛下の仰せのままに"に続き、

天伶と紅偆のお話 "紅偆には逆らえない"を読んでいただき、ありがとうございました。

2人が結ばれて本当によかったです。

皆様、本当にありがとうございました。

次回作でまた、お会いしましょう。


rumi

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