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覚悟を決めた勝負師たち。

リョーマはカオルに、使っていた道具の説明をしてやった。

まず右手に装着した腕時計の形をした装置。

「こいつはスキルウォッチ。自分のスキルを発動させるためのものだ。」

スキル…?

カオルは少し難しい顔をした。

「……もしかして全部…文字通り“全部”分からないのか?」

リョーマが少し困惑気味に言った。カオルはこくりこくりと二度頷くと,リョーマは呆れたように深くため息を吐いた。

「……どういうことだ…? 何も知らないのにこの“ゲーム”に参加しているとでも言うのか?」

リョーマはカオルを怪しそうに見たが、彼にはどうもカオルが嘘をついているようには見えなかった。

こいつは人を騙してまで自分の得を考えるような人種ではないと、そう直感しているのだ。それにしても、ずっと気になっていたことがある。

「…お前の足下にいるそのピンク色のボールはなんだ。」

「…!」

カオルがリョーマに指摘されて足下をみると、確かにそこにそれはいた。

それは首を傾げるように斜めに体を傾け、カオルを見つめている。

「こよこよ!」

「鳴くのか、こいつ…!」

リョーマが身構えた。

「こよー!」

ピンクのそれはけらけら笑った。

「…こ、こいつ……。」

気が抜けたようで、はぁと一息つくと、身構えるのをやめた。

「……そいつのことも、そうだが、お前のことも全く何も分からない…。まず、お前の名前は?」

カオルはポケットから身分を証明できるものを取り出し、それをリョーマに見せた。彼はそれを手に取り、よく見る。

「…速水(はやみ) (かおる) …か。分かった。」

「……。」

「………………む…?」

リョーマの目が一瞬だけ細くなった。しかし気のせいか、と思ってそれを彼に返した。

「カオル。俺と会うまでどうしていたかなんて分からないが、お前は今、大勢から命を狙われている。それは俺もだし、お前を狙う連中一人一人もそうだ。そこのピンクのボールは分からないがな。」

「…………。」

「これはゲームだ。そして俺たちは…気が狂った連中の、いわば“オモチャ”にされている。……今は“モルモット”の方が適切かもな。」

カオルは静かに聞く。

木に寄りかかってリョーマは続けた。

「ここは小さな島だ。そしてここには、“狂った連中”によって集められた約100名の商品(コマ)が降り立ち、生き残りをかけて互いに殺し合いをしているんだ。連中は俺たちを“サバイバー”と呼んでいる。今はもう50人もいない。そのうちの2人が俺とお前だ。」

「…………。」

「サバイバーはゲームに参加した時点で実在する武器や装備等の能力を与えられる。例えば俺は(サーベル)の能力。剣を作り出し、戦闘ができる。典型的な戦闘特化型だ。お前は(セスタス)。…他の能力については詳しくないから、お前のは分からないが、パンチやキックと言った格闘技の威力が上がっているんだろう。」

カオルは拳を握り、それを見つめる。確かにさっきリョーマと戦っていた時、通常のパンチではあり得ない威力が出た。

「だが、それらの能力を発動させるには、あるものを纏わなければならない。それが戦闘服(バトルスーツ)だ。」

リョーマはポケットからスマホのような機械を取り出した。

「このカセットテープのなかに、そのデータがある。こいつを、“スキルトリガー”っていう機械に入れるんだ。スキルトリガーは、腰についてある装置のことで、この中にテープをいれる。レバーを押せば、いわゆる“変身”が可能だ。」

彼は説明しながらテープを空中に投げてはキャッチを繰り返していた。

「ただ、気を付けろ。こいつは回数制限がある。今持っているのはこいつ1本だろうが、例えば相手を倒せばそいつのテープは初期化され、ロードすることで自分のものにできる。変身はテープひとつにつき4回が限度だ。残り回数は裏面にある光の点滅が知らせる。」

カオルは自分のカセットテープを取り出して背面を見る。4つあるランプの1つが消えていた。

そういえばリョーマはいくつか気になることを口にしていた。例えば、ゲームに参加しているサバイバーたちは“サイコパスらのオモチャ”だと表したが、“今はモルモットの方が適切”だと言い換えた。

生き残りをかけた戦いをする“サバイバー”たち。

それを見守る“サイコパス”。

ゲームに参加した時点で付与される“能力”。

彼らから見たサバイバーが“モルモット”…。

「……………っ!」

カオルはすぐに全てを察した。

「…気付いたか。」

リョーマが言った。

ぐっと近付き、耳元で続きを話す。

「あまり表に出さないようにしろ。ヤツらは見てる。」

「………。」

カオルは頷いた。

リョーマはそれを確認すると、彼から離れた。

ピンクのボール状の生き物はカオルの陰に隠れていた。

「さて。お前はこれからどうする?」

「………。」

カオルは許せないと思った。それは他人の“命”を利用する腐った連中に対してだ。

「こよ…?」

ピンクのボールの生物がひ弱そうな声を出す。

カオルは優しく微笑むと、ひとつ頷いた。

「お前…やる気か…?」

リョーマが聞いてきた。カオルはこくりと頷き、全ての意思を伝える。

「……そうか。大したタマだなお前も…。」

彼はそう言ってふふっと笑うと、カオルに手を差し伸べた。

「俺の目的も、お前と一緒だ。ここは組もう。」

言われたカオルは、迷うことなく彼の手を握った。

彼らの目的は、“打倒サイコパス”だ。命を弄び、傍観する連中に天誅を下そうというのだ。

勝算は無いに等しい、というより無い。だが、だからと言って

「……そういえばお前…喋らないな。」

カオルが首を傾げる。

「喋れない理由があるのか? 例えば…喋ったら自爆する装置が埋め込まれているとか。」

「……??」

「…違うのか。だったらどうし…。」

リョーマはハッとして身構えた。上空を、いや、木々の葉が織り成す天然の天井を見つめ、警戒するようカオルに促す。

「誰かいる…。」

カセットテープを、いつでも腰に装着しているスキルトリガーに入れられるように構え、こちらを狙っているであろう敵の姿を目視で探る。

ボール状の生き物の頭部の葉っぱが微かに揺すれていた。

「…いない…? 気のせいか……?」

リョーマが呟く。

「……いや………変だ…何かおかしい…!」

彼は気付いた。木々にツタが絡まっている。それ自体に不思議はないだろう。しかしそれが妙なのだ。確かに同様に木に絡まるツタはあるが、“それらとは違う”のだ。

これが“能力(スキル)”だと理解するのにさほどの時間はかからなかった。

《Sword!》

《Loading now!》

リョーマがカセットテープを起動させ、そスキルトリガーにセットする。

突っ立ちのカオルを突き飛ばすと、さっきまで彼がいたところにそのツルがびゅんっととんできたのだ。どうやらゴムのように伸縮性があるようで、それと彼らの距離が空いているにも関わらなかった。

群青の光がリョーマに集中すると、彼の姿が変化した。

《crystallization by hatred(Realize!!)

weapon the sword!!》

すぐにウォッチに触れ、また襲ってきたツタを切り刻んだ。

「チッ…どうしてばれた…?」

襲ってきたと思われる人物が木から降りてきた。

「……。」

カオルも今、リョーマが違和感を覚えていた理由にやっと気付いた。

「よく見ろ。形が違う。さしずめ周りのものとは種類が違うんだろ。」

彼が説明すると、男は大きく舌打ちしたが、すぐににやりと笑った。

「だがいい…それでも…! このツタからは逃げられん!」

カオルも急いで変身し、戦闘に備える。

「死ねーー!」

(ツタ)の男はウォッチに触れて周りの植物を操り始めた。

緊急的に回避したので当たりはしなかったが、なんとその攻撃によって地面が抉られた。

「なんだと…!?」

リョーマが仮面越しに目を丸くしてその部分を見た。

そしてそれだけではない。周辺に残っていた草がどんどん枯れていくのだ。

「これは…!?」

「俺の“能力(スキル)”はツタを操ること。そしてそのツタは、対象の生命エネルギーを吸収するっ! それに触れればそいつの生命エネルギーは俺のものになるっ!!」

薄気味悪い笑みを浮かべながら、蔦の男はそう説明した。

「………っ。」

カオルはこのとき、危機感も覚えたが、なぜ自分のとっておきの能力を相手に開示するのだろうという疑問も浮かんだ。

「触れなければ問題ではない。カオル、いくぞ!」

リョーマが言うと、言われた彼は頷いて構えをとった。

そして目の前の敵に向かって走り出す。

「無駄無駄無駄無駄ァッ!!」

男は地面に拳を叩きつけると、彼の背後からツタが伸び、2人を襲う。

それぞれ別の方向へ身を投げることで回避したが、リョーマのがら空きになった背後を別のツタが襲う。

音に気付いた彼が振り向くと、そのツタは彼の持つ剣に絡み付いた。

「……チッ…面倒な…!」

彼は持っていた剣を手放し、別の剣を召喚する。

一方のカオルも背後から襲われそうになった。彼はそれに対して勢いよく拳を突き出し、衝撃波を出すと、それがバリアとなってツタを弾き飛ばした。

別の方角からもツタが飛んできたが、バック転をして華麗に避ける。

リョーマは新しく召喚した剣でさっきのツタを両断し、さっきまで自分が使っていた剣を拾った。二刀流だ。

「切り刻む……!」

「ほう、逃げずに立ち向かおうというのか。」

地面につけていた拳をあげ、そしてリョーマに対して両手を広げた。余裕があるようにそう言うと、

「お前…。漫画読みまくってるだろ…。」

と引き気味に返した。

この時カオルはあることに気付いた。しかし

「どれだけ近付こうとしてもっ! この俺には近付けないっ! 決してだっ!!」

蔦の男は大声でそう言うと、再び地面に拳を叩き付けた。

周りにある彼が生やしたツタが起き上がり、リョーマを狙う。

カオルはこのとき、さっきの気付きが確信に変わった。

ヤツの能力の弱点は、発動条件にあった。

きっと蔦の男は今、リョーマに意識が集中していることだろう。カオルは銃を召喚して構えた。

「無駄無駄! 無駄ァッ!!」

高らかにそう言った蔦の男の右肩を狙って引き金を引く。

「ぐあっ!!」

男の体が宙に一回転し、地面に伏す。すると、起き上がっていたツタがどさっと地面に倒れた。

「い、いでぇ……!」

リョーマとカオルはアイコンタクトすると、倒れ伏す蔦の男に急接近し、武器を向けて制止しろと脅した。

ホールドアップだ。

「諦めるんだな。」

リョーマが言い放つ。

「チッ…誰が…誰が諦めるかっ!」

男は再び地面に拳を叩きつけようとしたが、その“地面”に発砲してさらに脅した。

「ふ、ふふふ…。しかし、しかしっ!! 俺の能力はツタを操る…! それはさっきのような触手みたいな攻撃方法以外も含まれるっ!!」

「何いってんだ。」

リョーマが冷静に言う。

「こういうことだっ!!」

ついに拳を地面に接させると、なんとツタの葉が、まるで手裏剣の如くとんできたのだ。

思った以上の威力があるようで、ついに2人の体が後方へ吹っ飛ばされてしまった。地面に転がり、咳き込む。アーマー越しに伝わる衝撃と、それを介しても伝わるダメージであちこちが痛む。

蔦の男はゆっくりと立ち上がり、地面に拳を密着させた。

「これでお前たちは終わりだっ!!」

シュルシュルと奇妙な音がカオルたちの周りで鳴る。そしてそれが止むと、考えることなくあの音がなんなのかを察した。結界を張られたのだ。

そして彼らを囲むようにして5本ものツタが起き上がり、トドメの支度が完了させた。

「死ねーーーいっ!!!」

男がそう言ってツタにトドメの指示を出した。

「こよーーーー!」

ボール状の生き物が叫ぶ。

カオルは覚悟をきめ、目をぎゅっとつむった。

「そぉーいっ!」

耳に馴染みのない声が聞こえた。

「ぶべらっ!!」

男がダメージを受けたらしい。

何があった…?

目をゆっくり開くと、なにやら金髪の少年がどこからか現れ、蔦の男を吹っ飛ばしていた。するとツタの結界が解かれ、カオルたちは危機を脱することができたのだ。

「はいはい周りを見渡して。特に上空。」

金髪の少年が蔦の男に言う。

「いまここで包囲されてんのはオメーの方だぜ!」

なんのことかとカオルたちも見上げてみると、小さな飛行船らしきドローン? が蔦の男の周りに集まっていたのだ。

「い、いつのまに…! だ、だがそんなもの無駄だ!!」

「さぁどうかな?」

男が地面に拳を当て、ツタでそのドローンを纏めて破壊しようとした。しかしそれはミサイルを発射し、向かってきた全てのツタを焼ききったのだ。

「ば、ばかなっ!!」

蔦の男の顔色が変わった。

「じゃあこの勝負は俺の勝ちっつーことで!」

金髪の少年がスキルトリガーのレバーを操作し、必殺の音声が鳴らす。

黄色の光が彼の身を包むと、右手を上げてニッと笑った。

「あばよっ!」

少年はそう言うと、その手を振り下ろす。

蔦の男の周りに集まっていた多くの飛行船が一斉に火を吹き、爆撃した。

≪airship Finally bomber!!≫

蔦の男が断末魔を上げ、その姿は爆煙の中に消えていった。

やがてそれがはれると、真っ黒な煙をポハッと吐き出し、膝から崩れ落ちてしまった。

「上っがりーっ!♪」

少年はスキップしながら蔦の男に近付くと、彼のカセットテープを頂戴した。

「ほらよ。」

彼は何を考えたのか、それをカオルに投げ渡した。

「安心しろって。こいつは死んでない。ただ変身アイテムを奪われたから、自動的にリタイア扱いになったわけだ。」

少年は変身を解除して2人に話しかけてきた。

「お前は何者だ。」

リョーマが問う。

「俺か? 俺は……。」

少年がニッと笑い、続けた。


GAMBLER !! #2 覚悟を決めた勝負師たち。

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