前の世界と似た所
部屋に入った俺に船長は椅子を勧めて来た。
俺は素直に座り船長がドエールの焼肉を食べるのを見ていた。
「やっぱり美味しいな。
確かフゥ君だったかな。
息子のヤンドと仲良く話しをしていのを何度か見ていた。
そこで君に聞いてみたいんだが。
ヤンドがもし冒険者になったら生きていけるだろうか?」
「冒険者ですか?
うーん……本人次第な事もありますが止めておいた方が良いと思いますよ。
それになぜ冒険者なのですか?
漁師を続けるのではダメですか?」
「いやいや、漁師を続けても良いのだがヤンドには本当に本人がやりたい事をして欲しいのだ。
親の我が儘かも知れんが小さい子供の頃から漁師以外の選択肢を教えてやれなかったのでな。
本当に漁師を続けさせても良いのかとな」
「船長は後悔してるのですね。
本当はやりたい事があったのですか?」
「ああ、私は冒険者になりたかった。
特に君のような冒険者を見るとな。
いつもは決まった冒険者と漁に出掛けるのだが。
たまにいつもの冒険者の都合が悪い時などに旅の冒険者に臨時で入ってもらう事があってな。
そして君のような若くて実力のある冒険者を見るとワクワクしている自分がいる事に気付くのだ。
俺も冒険者になりたかったなと」
「ハハ、それは他の人が良く見えるだけの只の憧れみたいなモノですよ。
隣の芝生が青く見える的な」
「隣の芝生?」
「いえ、そこは俺の故郷の言い回しです無視してください。
他の人がやってる事が良く見える『自分も他の事をやっていれば違った人生になったのでは』と」
「ああそうか。私は子供の頃から漁師をしていたから冒険者が良く見えるだけかそうかも知れんな。
悪かったな。引き留めてしまって。
それに護衛の日にちも延びてしまったし」
「いえそれは仕事ですから。
それではこれで失礼します」
「ああ、今日も夜の見張りをよろしく頼むよ」
俺は頭を下げると船長室を出た。
ホチネは甲板で残ったドエールの肉を食べていた。
「どうしたの?なかなか帰って来なかったけど」
「船長と話しをしてただけだよ。
船長は冒険者が良く見えるんだって」
「そう!冒険者は格好良いからね!」
『ホチネは単純だな』
「フゥ、なんかあたしをバカにした目で見なかった?」
「いやいや、そんな事無いよ。
ホチネは前から冒険者になりたかったんだなと思って」
「エー、あたしは只の冒険者じゃ無くて英雄になりたいんだよ!」
「ああそうか、ラミネみたいな英雄ね」
「ラミネを超える英雄にね!ヘヘ」
ホチネの壮大な野望を聞き流して俺は夜の見回りをする事にした。
『船の回りに異常は無し』
船を一通り回ってホチネの待つ甲板に戻って来た。
ホチネはまだドエールを食べている。
「ホチネはドエールが好きだね」
「うん、凄く好き!」
「今日は沢山ドエールが獲れたから帰ったらみんなでドエールの焼肉が出来るね!」
「ああ、その事なんだけどケレリスは多分ドエールを食べ無いと思うよ?」
「エッ!何で?」
「三日月国や中立国、オーガの国では食べるけど他の国では食べ無いのよ」
『ああ、前の世界でもイルカや鯨は食べ無い国の方が多かったか。
でもこの世界では魔物だよね?』
「ホチネ、それだと、ケレリスだけ食べ無いだけだよね?
ゴキムロンは何でも食べそうだし」
「ハハ、ゴキムロンは食べるだろうね。
エルフはうるさいから。
エルフの前でドエールを食べるのは止めた方が良いって話し。
ケレリスは変わってるから分からないけど一般的にエルフは自分達の考えが正しいと思ってる所があるから気を付けてって言う話し」
「分かったよ。
気を付けておくよ」
その日の見張りも何事も無く終わり。
次の日の漁はこれまでで一番の大量になって船の底に設置された生け簀は四日間で獲れた魚でいっぱいになっていた。
俺は最終日にして初めて生け簀の存在を知る。
それまで魔物を狩る事と獲れた魔物を食べる事しか考えていなくて獲った魚をどうしてるのか全然気にしていなかったのだった。
「だからこの船だけやたら大きかったんだ!」
俺の感想にホチネは呆れ気味に、
「今更なんだ」
俺達は無事に一日延びた護衛の仕事を終えて町の港に帰って来た。
港にはなぜかケレリス達が待っている。
「迎えに来てくれたの?」
俺の言葉にケレリスは、
「ゴキムロンがお土産があるはずだと言ってな」
「ああ」
俺はホチネの方をチラッと見て袋からクオーパの足を焼いた物をゴキムロンに渡す。
ゴキムロンはそれを嬉しそうに受け取り一口囓って、
「美味しいよ!変わった匂いがするが、これはこれで良いよ!
早速帰ってこれで酒を飲みたいのよ!」
『ゴキムロンが気に入ってくれたなら良いけどね』
俺は心の中でそう思っていた。
ホチネも俺と同じような目でゴキムロンを見ていた。
そんな護衛の仕事を終えた俺達に待っていたのは月が青から赤に代わる『月代わり』だった。




