盗賊の加護
店の扉が開かれて五人の兵士達が入って来る。
店内をグルッと見回し俺達を見つける。
「まだこの町にいてくれてよかったよ!」
農業の町から俺達を追い掛けて来た兵士達は入り口の扉を背にして俺達を逃がさないようにして近づいて来た。
「店内での揉め事は困りますな!」
バイテルの弟のグフテルが店の奥から出て来た。
「お前には関係無い!怪我をしたく無ければ引っ込んでろ!」
「ここは私の店だ!
おまえ達みたいな奴らは客では無い!
出て行け!」
「うるさい!俺達は犯罪者を捕まえに来ただけだ!
犯罪者を店に入れたお前が不運だっただけだろ!」
グフテルは俺達の方をチラッと見て奥に向けて叫ぶ。
「メチネ!ジールン!」
「何?騒がしいけど?」
店の奥から火竜人が顔を覗かせ後ろからオーガも出て来た。
「コイツら店の中で暴れる気だ!追い出してくれ!」
グフテルの言葉に笑顔で頷くとオーガのジールンが兵士達の前に立ちはだかる。
「なんだ!俺達は犯罪者を捕まえに来たんだ!
俺達が正義だ!
そこをどけ!」
一人の兵士が腰の剣を抜くとジールンに刃先を向けた。
ジールンは特に慌てる様子も無く拳を握るといきなりその兵士の顔面を上から殴りつけた。
殴られた兵士は床に叩きつけられた勢いで一度跳ねそこにジールンの蹴りが入り空いていた扉から外に飛んで行く。
「次は?」
ジールンが腕を振り上げると残りの四人の兵士達は慌てたように外へと逃げ出す。
「こんな事をしてタダで済むと思うなよ!」
そう捨て台詞を吐くと一人の兵士が倒れた兵士を担いで帰って行った。
「みなさんお騒がせしました。
飲み物を一杯サービスさせてもらいます」
グフテルはそう言うとテーブルを周り注文を聞いて行く。
「メチネ!」
ホチネは奥に戻ろうとしている店員の火竜人に手を振る。
「ホチネ?ホチネだよね!
久しぶりだね!
英雄への道は順調?」
「順調?では無いかな。
でもギルドランクはCになってるよ」
「わたしも!ランクC!一緒だ!
ホチネはこれからどっちの方面に行くの?
わたし達はこれから三日月国の冒険者の町に行って冒険者のライネットさんに弟子入りしようと思っているんだ」
その言葉に隣に座っているツラナが飲み物を吹きそうになり噎せた。
「ツラナ、大丈夫か?」
俺はツラナの背中を擦ってやる。
「ありがとうございます。大丈夫です。
ちょっとビックリしただけです」
「アーそうか、ライネットさんって前に話してたツラナのおばあちゃんじゃない?」
ホチネはツラナの方を向く。
「ええ祖母です」
「本当に!ねっツラナ君、おばあさんを紹介してくれないかな?
噂を聞いてここまで来たんだけど急に弟子入りを申し込んでもダメだろうって言われててさ。
紹介してくれる人を探すつもりだったのよ!」
メチネはツラナの手を握る。
手を握られてツラナは困った顔をする。
「紹介するのは構わないのですがホチネさんとは友達か何かですか?
それに弟子入りはちょっと難しいと思います。
祖母は、
『技は人それぞれ。
それぞれ自分にあった戦い方がある。
教えてもらうより戦いの中で見つけたモノに価値がある』
そう弟子入りをいつも断るのです」
「そうだね。ホチネとは友達かな?
聖域を一緒に回った仲だよ。
ハー!それにしても流石に伝説の冒険者は言う事が違うね!感動した!」
「メチネさん感動しているところ申し訳ないのですが祖母は本当はそんな事思って無いと思いますよ。
単に足手まといが嫌いなだけで弟子入りを断る為の方便ですよ。
姉や兄も一緒には依頼にも狩りにも行ってもらえないそうですから」
悲しそうな表情になったメチネにグフテルが近寄り、
「メチネ、いつまでもサボっていると給料減らすぞ!」
グフテルの言葉にメチネは慌てて店の奥に戻って行った。
「申し訳ないね。いろいろと」
グフテルは俺達の席に来ると頭を下げる。
「いえいえ、こちらこそお店に迷惑を掛けました」
俺もグフテルに頭を下げる。
「それで兄からは『聖域門の島を出て冒険者を始めたばかり』だとしか聞いていないのですがいろいろトラブルに巻き込まれているようですね」
「ええ、ゴブリンの盗賊を捕まえたのがトラブルの始まりでした」
「そう言えば最近は盗賊が増えていると聞きますね。
それがなぜトラブルに?
いや失礼、お客様の事情を詮索するのは止めましょう。
今は嫌な事を忘れて食事を楽しんでください」
グフテルはそう言うとみんなの飲み物の注文を聞き奥に行ってしまった。
「美味しのよ。本当に美味しいよ!
追加の注文をしてもいいかの?」
ゴキムロンは一人何事も無かったかのようにテーブルの上の物を食べ尽くしていた。
「あの…ボクのおかず……。」
ツラナの前の皿はゴキムロンに食べられて空になっていた。
「アー!あたしの焼き魚が無い!」
ホチネもゴキムロンにおかずを取られたようだ。
当然、俺の煮魚も無い。
「みんな何を言っている自分のおかずは自分で管理しないといけないな。
ゴブリンの加護は常に発動されているのだぞ」
ケレリスは一人何事も無いかのように隣のテーブルにおかずを置いて食事をしている。
「追加を頼みたいのよ」
ゴキムロンは悪びれる事も無くなぜか俺を見て来る。
「食べたければ注文すれば良いんじゃないですか?」
俺はゴキムロンに食べられた煮魚の代わりに何を頼もうかメニューを見る。
ツラナとホチネも悔しそうにメニューを見ていた。
「お待たせしました。お飲み物をお持ちしました。」
グフテルが飲み物を持って来たのでついでに追加の料理を頼んでいく。
「あたしはイカ焼きにするわ」
「ボクはこの煮魚でお願いします」
「俺はフライにしようかな」
「わしはここからここまでを持って来てくれよ。
後お酒も欲しいよ。
いいかなよ?」
なぜか俺を見て聞いて来る。
「どれだけお金持って来たか知らないけど自分で払うのに俺に聞かなくても良いんじゃないの。
俺達はお金は貸さないよ」
ゴキムロンは俺の言葉に、
「わし、お金持って来て無いよ?
いつもは食事はヒレネスが用意してくれるよ。
でも今日はおまえ達が食事に誘ったよ。
だからおまえ達の奢りよ」
『マジかよ!盗賊の加護、恐るべし!』




