竜人『ラミネ』と魔法
一歳になった俺は歩いたり少し走れるようになり聖域内を散歩するようになっていた。
体はまだ小さく周りからはまだ赤ちゃん扱いされていて、どこに行くにも誰かが付いて来る。
青月のある日。
新しい竜人の赤ちゃんが生まれた。
俺達が使っていたベッドはその赤ちゃんのベッドになり、俺は大きなベッドのある部屋を与えられる。
俺は竜人達にとって未知の種族のようだ。
そんな不思議な俺を育てているので聖域の外の知識のある竜人でも扱いに困っているらしい。
水の龍神様は
『黒猫が帰って来るまでここにいるように』
そう言っているだけで俺の前世や種族など、知っているのか知らないのかも教えてはくれなかった。
俺の体の成長は竜人に比べてだいぶ遅かったが、前世の知識があるためかコミュニケーションはそれなりに取れていた。
そんな中。
俺は世話をよくしに来る竜人の女性ラミネと話すことが多くなっていた。
「ねぇ?フゥは今日はどこか散歩行くの?」
ラミネは朝食を運んで来てそう聞いた。
「うーん?この世界のことを知りたいから本とか読みたいかな?」
「本?」
ラミネは首を傾げる。
「図書室とか資料室とかない?」
「あるらしいけど。
ここ数千年は使われてないからね。
わたしもどこにあるか知らないのよ。
今は水龍神様くらいしか知らないと思うよ、きっと」
「じゃあラミネ達は言葉とか文字とかはどうやって覚えたの?」
「わたし達は最初の白月になったら……この石を貰うの」
胸に下げた鎖の先に付いている石を見せてくれた。
「宝石?」
「これは魔法石。
わたし達水の竜人族は生まれつき水の魔法しか使えないの。
それでこれは水の魔法石ね。
そしてこの石には竜人族の知識を蓄えるたり引き出したりできる魔法がかけてあってね。
知識はそれで学ぶのよ。
この石は他の全ての水竜人達の石とつながっていて、それぞれが自分の知識をこれで共有するの」
「それじゃそれを盗まれたりしたら竜人族の知識が盗まれるんじゃない?」
「それは大丈夫よ。
最初に魔力と生体情報を読み込ませていて本人にしか使えないから」
「盗まれたり無くしたりしたら?」
「聖域内なら他の人に探して貰えばすぐに解るし聖域の外に行く時は首から下げて盗られないように持って行くのよ」
「俺それ貰ってないけど?」
「それはフゥが竜人族じゃないから魔力の質が違うの。
だからわたし達と同じのは使えないのよ。
水竜神様はアノ黒猫が帰って来るまではあなたのことは詳しく話せないらしくてね」
ラミネは少し困った顔をした。
「そうだ!さっき魔力とか魔法って言ってたよね!
俺はどうしたら魔法とか使えるの?」
「魔力はみんな持っているから魔法は訓練次第で何かしらは使えると思うけど?
ただあまり期待し過ぎるのはやめてね。
魔力は持って生まれた資質があるから、わたし達みたいに水の魔法しか使えないこともあるわよ?
他の種族でも三つの属性の魔法を使えてたとしても人それぞれ強さとか大きさが違うの」
ラミネは何かを思い出したかのように暗い表情を浮かべうつむいた。
そしてその後暗い表情のまま、
「じゃあ……またね」
手を振ると部屋を出て行った。
一人部屋に残された俺は少し冷めかけた朝食を食べながら
『今日は何をしようかな』
そう考えていたがラミネの最後の暗い表情を思い出して心の中がモヤモヤしていた。
『アー!黒猫早く帰ってこいよ!』
黒猫に八つ当たりするように叫んだ。
朝食を食べて食器を片づける為に部屋を出て聖域の食堂へと向う。
俺の部屋は聖域の居住区の端にあった。
部屋の造りはどの部屋も一緒だが新人は居住区の入口近くに部屋を与えられるそうだ。
俺は食堂がある中央ホールに歩いて向かい食器を返却すると食堂ホールを見回す。
そこには他の竜人達と明らかに違う赤色をした竜人がいる。
その竜人は食事を終えて席を立ちこちらにやって来て、無言で食器を片づけると中央ホールから出て行ってしまった。
『何か面白い事ありそう!』
俺はなんとなく興味を惹かれてその後を付いて行ってしまった。