エルフと竜人お互いに知らない事
俺はいつの間にかぐっすり寝ていた。
初めての馬車の旅は思っているよりも体を疲れさせていたようだった。
目覚めた俺は起き上がると横でツラナが眠っている。
音を立てないようにゆっくりと御者台の方に向かう。
御者台ではケレリスが真剣に馬車を走らせていた。
『ケレリスってはぐれた商人を心配したりして本当はいい人なのか?』
「ホチネ、そろそろ交代しようか?」
「そうだね。
少し前から眠くなって来てた」
ホチネが荷台に来て入れ替わりで俺が御者台のケレリスの隣に座る。
「ホチネ、寒かったら毛皮が置いてあるから使ってね」
俺が荷台に向けて声を掛けると、
「ありがとう」
小さな声で答えてすぐ横になって寝てしまった。
ホチネも初めての馬車の旅に疲れているようだ。
俺はケレリスが俺と二人になると魔法神の事を聞いてくるだろうと身構えていたけど無言で真剣に馬車を走らせていた。
俺は周りに魔物の気配が無いかを警戒しつつケレリスをちらちら見る。
「私の事を気にしなくても今日は魔法神様の事は聞かないよ。
昨日、ツラナから魔法神様の話しをして気まずくなかったと教えてもらったからね。
それに本当に魔法神様の事を知らないようだからね」
「そうよかった。
俺も魔法神の事を逆に知りたいくらいだからさ。
生まれてからつい最近まで水の聖域から出たことなかったから本当に知らない事が多くて。
何を知らないかさえ知らない状態だよ」
「知らない事を知らないか。
危険な事だよ。
私達エルフと竜人族も神話や言い伝えや教えで対立したりしている。
それはお互いに相手の知らない事を知ろうとしないその結果が数千年の対立になっている。
私達エルフというか竜人族以外は龍の聖域には入れない。
エルフの森もエルフ以外の立ち入りを制限している。
お互いになるべく関わらずに生きている。
関わると問題が起きるしわざと問題を起こして相手の足を引っ張る。そんな事がずっと続いている。
悲しい事だよ。」
『数千年も対立してるか。
俺は確かにエルフの事をほとんど知らないな。
エルフ神話も結局読めなかった。
水龍神もエルフの事について何も言わないし否定も肯定もしていない。
そもそも何があって対立したんだろう?』
「ケレリス、エルフは長寿な種族だよね?それは竜人族もだけど。
二つの種族が対立した原因ってそもそも何だったの?
原因を知ってる人は生きてないの?」
「エルフの寿命も数千年だからね。
対立の原因は一万年以上前だと伝えられているからその時生きていた人はいないよ。
それにその話しはタブーになっていて直接の原因は伝えられていないよ」
「聖域の龍神みたいな存在はいないの?」
「エルフの祖先は月に棲まわれている妖精神様だよ。
エルフの秘密に関わるから詳しくは話せないけど。」
「水龍神もそのへんの事は何も話していないみたいだけど妖精神も何も話してくれないの?」
「君は水龍神様に会った事があるのかい?」
「エッ!あるよ。
水龍神の卵から生まれたんだから」
「エッ!水龍神様の卵?
竜人族は龍神様の卵のようなモノから生まれるとは聞いた事があるけど君も卵から生まれたの?
それなら竜人族?………ではないのよね?」
ケレリスは俺を下から上に見て首を傾げる。
「多分違うと思うよ。
水龍神も詳しくは話してくれないけどラィに頼まれたとは言ってたね」
「ラィ?」
「ラィは…………話していいのかな?
まぁ…いいか?
ラィは前に話した事があると思うけど翼のある猫だよ。
俺とホチネはそれが魔法神だと思ってたんだけど」
「翼のある猫?そのかたが魔法神様?」
ケレリスはその後黙ってしまった。
無言の馬車は夜の薄暗い街道を馬の蹄と馬車の車輪の音だけを響かせて駆け抜けていた。
明かりは空に浮かぶ青月の光だけだ。
ケレリスが黙ってしまってからしばらく経った頃。
前方に不自然な馬車らしきものが見えてきた。
その馬車に近づくにつれて人と魔物が戦っているらしい音が聞こえてくる。
ケレリスは馬車のスピードをさらに上げる。
「フゥ、戦う準備をして!」
俺は魔力を貯めていつでも魔法を放てるように集中した。
馬車を守るように二人が二匹の魔物と戦っていた。
俺は風の刃でクワガタのような昆虫型の魔物を一匹真っ二つにしてケレリスがもう一匹に火の魔法を放ち馬車を止めた。
「無事か!」
ケレリスは馬車を降りると前に止まっている馬車の二人に駆け寄り声を掛けた。
「ハァハァハァ。助かったぁ。
……ありがとう。もうダメかと思った」
肩で息をしている二人はその場に座り込んだ。
俺もケレリスの後を追い馬車を降りる。
「怪我とかしてない?」
「大丈夫、かすり傷だ。
ただ昨日から休めていなくて疲れて体がもう動かせない」
俺は火の回復魔法を二人にかける。
「ありがとう。体力が回復して眠気も少し良くなった。」
座り込んでいた女性が立ち上がってお礼を言う。
「回復魔法を使えるとは助かった。
頼む!馬にも回復魔法をかけてやってくれないか?足に怪我をさせてしまって馬車を動かせないないんだ」
もう一人は男性で俺に頭を下げる。
俺は馬車の前に回ると火の回復魔法を馬にかける。
馬は立ち上がり俺に向かって鳴き声を上げた。
『馬もお礼を言ったのかな?』
俺は馬の頭を撫でて、
「良くなったか?」
そう声を掛けた。




