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この中に『男』が一人います!  作者: TASH/空野輝
第六章 唯川奏芽
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78話 崩壊しない疑問符

 奏芽さんの死まで残り5日……


 私とルリエルさんは頭を悩ませていた。

 気になっていたコンパクトフラッシュカードを家まで持ち込み、奏芽さんからの反応が気になり〈魔法箱〉にこれを入れた所……『判定不可』と認識され、例の場所(パラレル)に転送されない。

 ()()のコンパクトフラッシュかと思われたこの物は、いわくつきの物になってしまった。

 先日の〈物〉のコピーが出来なかったのと、この〈魔法箱〉に弾かれる現象。これらから私はAの存在……音色さんは知られてはならない者だと思う。まさかここまで抵抗を起こす物だとは思ってもいなかった。

 ……これらによって、このコンパクトフラッシュは現状意味を成さない物になってしまった。


「ここまでプロテクトが掛かった〈物〉だとはワタクシにも予想外。音色様はどの願いをすればここまで強い物を」

「…………」


 私はふと思った事を呟く。「天使」と一言。


「ですが〈出来事〉の天使は〈契約〉を持たないと前に――」


 ルリエルさんは私の思考に気付いたか、口が止まる。


「まさか、Aの存在自体が天使だと?」

「存在自体も消え、例の場所(パラレル)という天界にもコンパクトフラッシュが届かない。尚且、Aの存在に関わったであろう皆の記憶さえも今日(こんにち)に至るまで誰も思い出せなかった。ここまでの現象を生み出せるのは人間の仕業じゃないです」

「しかし〈出来事〉の天使が地上に行くのは稀。一年以上の長い滞在など不可能です」

「〈契約〉を持てる天使とも言っていません。また〈出来事〉の天使が行ったとも言っていません。……長期的でどの能力の天使とも捉えられない天使がいるのではないのでしょうか」

「おりますが、また不可解な話になります」

「どうしてでしょう」

「何故、それほどの力を持った者が()()()()()()()()のでしょうか」


 確かに――ただ一般人である奏芽さんに執着する理由。


「ケーキ屋さんが聞いた一言『残された子だから』……これに関係していると思われますが、正直この一言だけでは確信は持てません。ですがこの一言は奏芽さんの過去……言わば産まれる前までに遡る話になってしまいます」

「その前から関わりがあったと……?」

「知った上で関わった。知らなくては接触出来ない。何処で知ったかは……天界という世界だと思います」

「超常的な発想です。が、理には何故か適っております」

「……ともかく、Aの存在が天使である可能性はあるでしょうか」

「今のを話を踏むに、可能性はございます」

「天使に“黒度”という物はあるでしょうか」

「ありません」

「では、これに関しては一定の措置がとれると思います」


 天使の可能性であれば“黒度”の概念が無いと取れた。

 Aの存在を一度は天使の存在と私の中で確定する。


「しかし茉白様。やはりAの存在を天使と取らずに、お探しになられてください。万が一もございますので」

「分かっています。ですが接触が難しい以上は一度落ち着かせて今の皆さんの“黒度”を解決するのが先です」


 Aの存在の確たる証拠はあれど、限界があった。

 と言うより、私は届かない所まで突き詰めれて満足した部分もある。


「言い争ってる中、いい茉白?」


 深刻な顔で茉莉さんが部屋に入ってくる。


「別に言い争ってる訳では」

「茉白、奏芽くんを車椅子から落としたり顔に衝撃を加えるような事をした?」


 顔を傾ける。

 私は茉莉さんが何を言っているかが分からなかった。


「何の話を……?」

「来て」


 私は奏芽さんが寝ている部屋に行く。

 奏芽さんを見るやいなや、理解をした。


「どうして……⁉ 私は何も……⁉」

「一昨日までは無かったの。奏芽くんの左目が()()してるの」


 目が白濁しており、両目を比べても違いが分かる。

 しかし、私の行動では顔に衝撃を加えてもないし、そのような前兆も無かった。


「昨日は茉白が外に出してたよね。その時にしか考えられないのよね」

「確かにそうですが、関わった全員がそのような事、また外傷を加えてないです……!」

「茉白様の仰る通りです。ワタクシも付いておりましたが、ここにいる誰でもないかと」


 茉莉さんは頭を掻く。


「じゃあ何だっていうの? 失明になる可能性も無いし、そのような診断も今まで無い。他の原因だっていうの?」

「難しい話になります」

「教えないときたか。私より年下臭いってのに生意気な奴め」

「おや失礼。確かに年齢的に言うとワタクシの方が若いと思われますが、一つ言えるのが天界で何か起きたというだけの話。詳細が分からないだけ故、()()()()と加えただけでございます」

「ああ言えばこう言う……!」


 茉莉さんはルリエルさんの首を掴む。

 私は驚きながらも「止めてください!」と声を出す。

 が、茉莉さんには声が届かなかった。


「おやおや、お手を出すとは」

「ケロッとして自分がどういう立場になっても冷静になってる奴、私はそういうの嫌いなんだよね」

「こういう性分なので。ですが冷静な以上、こういう手も出せるのですよ」


 私はルリエルさんの手に大きな物を持っているのを見えてしまった。

 まさか……。


「まっ――」


 ピシュン……!


 薬莢が一つ落ちる。

 音も立てずに茉莉さんはルリエルさんの〈物〉によって倒れる。


「ルリエルさん、なんで……!」

「茉白様、勘違いしておられると思います。これは一時的に睡眠状態にする即効性の“麻酔銃”。原因解明の為にお疲れになっていたのでしょう」

「もう……そういうの止めてください……」


 私は腰が抜けてしまった。

 実の姉を亡くすかと思い、色々と走馬灯が流れてしまったからだ。

 私が流すのはおかしい話ですが。


「茉莉様をゆっくりと寝かす為にも外出致しましょう。別に茉莉様の命に問題はありません」


 そう言ったルリエルさんは茉莉さんを抱え、私の部屋に持っていく。

 心配になって見ていた数分後には、茉莉さんはいびきをかいて熟睡していた。

 私は再び奏芽さんの目を見る。白濁としていて輝いていない。軽く見てみると眼球に傷はなく全体的に潰れた様子も無い。かと言って茉莉さんが申した通り過去に失明の原因になるような疾患も無い。ということはルリエルさんの言う通り、例の場所(パラレル)で何かあったのかもしれません。


「…………」


 あちらの世界で奏芽さんの目を失明させたのは誰でしょう。


「茉白様、奏芽様の目を見て失明原因をお探しでしょうが、それは奏芽様自身がよく知っておられます。ワタクシ達はワタクシ達が出来る事を致しましょう」

「……ルリエルさん、私の“黒度”は……どうなのでしょう……」

「お気にする事はありません」


 ルリエルさんとは一緒にいるのだから信用はしますが……。

 奏芽さんに近い私が気付かぬ間に傷を付けた可能性を考えてしまった。

 今日からは必要でない時には奏芽さんに近づかないようにしましょう。何か嫌な予感がします。

 ……怖くて〈黒度の眼鏡〉を付けて、私を見れません。




          ※  ※  ※  ※




 兎にも角にも、外に出てきてしまった私、名胡桃茉白と〈物〉の天使、ルリエル。

 ルリエルさんは何も言うこと無く、スマートフォンの中で揺られている。

 私は奏芽さんに対して、今までの“黒度”による影響の解消の実感が湧かず、本当に役に立っているのかが分からず疑問を持って歩いている。残り5日間だと言うのに、奏芽さんの目が失明して悪い方向に向かっているからだ。


「――あっ」


 私はふと周りを見ると、目的無く北街の方に辿り着いていました。

 こちらには古麓さんぐらいしか奏芽さんとの接触は無いはず。今更、彼女に会った所で相談出来る事も無く、そもそも彼女には“()()”は無い。

 ……コーヒーを一杯何処かで飲んでから行こうと思いましたが、5日間で頭を煮詰めて行動を起こした方が良さそうですね。私は引き返そうと歩を進める。


「名胡桃茉白……さんですか?」

「は、はい」


 元々進もうとしていた、また反対側から名前を呼ばれた。


「あの……覚えていないと思いますが、新発田黒江です」

「えーっと、ごめんなさい……」

「あ、良いんです。同じクラスだったので声掛けした程度です」

「わざわざすみません」


 櫻見女で恐らく同じクラスだった、新発田黒江さん……。

 残念ながら、私の記憶上だと覚えがありません。


「それでなんですが」

「はい…………ッ⁉」


 急に新発田さんの声のトーンが変わる。

 私はこの急な変わり様に背筋が凍る。以前の神指さんや堂ノ庭さんの()()に似ていたからだ。アレとは“黒度”という存在に気付いていなく、私に歯向かうような行動。それに似た感覚を掴んだから。


「そうだ一言、断っておきます。私に嘘は通用しません。――貴方、奏芽くんをどうするつもりですか?」

「奏芽さんをどうするつもり……? 何を言っているんですか?」

「ダッテ、奏芽くんを部屋に匿って。男女二人で何も起こらない訳無いじゃないですか」

「…………」


 私な妙な違和感を持つ。

 私の中の記憶の一部を読み取ったかのような。いえ、ただそれを他人が読み上げて喋ったような。


「貴方は常に奏芽くんの為に行動をしてて、その理由さえも単純。友達として好きってだけ。どうしてそこまでするんですか」

「どうしてって、友達だからってだけじゃ駄目ですか」

「『小さい時に奏芽くんに会ったかも』ってだけで、私よりも行動出来るなんておかしな話じゃないですか? 確かに出会った差で私よりも優勢だからって、優遇されてるような動きされちゃ困るんですけど」


 私は今の発言で少し苛つきを持った。初見満更でもないこの仲で、どうして私の幼少期の話まで出るのでしょうか。そこまで関係ない事をつつかれて怒らない人間ではない。


「失礼ですが何が困るんですか?」

「私が動きづらい。私だって奏芽くんの為に行動したいのに、いつの間にか貴方が動いてて私がまるで役に立っていないように見えるんです。そんな偽善行動とっとと止めてください」


 …………私の何かの糸が切れた。

 プチッ? パチンッ? いいえ。

 プッツンと切れてはいけないラインの糸が切れた。


「別に……」

「なんですか」

「別に貴方の為に動く馬鹿がいるもんですか! 急に引き止められて何を言い出すかと思えば『動きづらい』ですって⁉ 友達の為に友達全員が動いてても構わないじゃないですか! それが自分が動きづらいから行動しないで、ですって⁉ しかも役に立ってないように見える⁉ 私は貴方以上に動いてますよ!」

「い、いや……そこまで……」

「言・い・ま・し・た! 貴方以上に行動してて今日で9日目です! 9日目ずーっと動きっぱなしです! その間に貴方は何をしていましたか⁉」

「……うっさい」

「うっさいじゃないですよ!」

「――というか逆ギレじゃないですか」

「逆ギレ? 何を言ってるんですか。そもそも貴方が私を怒らせた原因を作ったじゃないですか! 逆ギレも何もこれは正当な()()です! 『小さい時に奏芽さんに会ったかも』? これを有りにしたって抜きにしたって友達を助けようとするのは、もはや云々を抜いて人間として行動すべき事! 友達として好きだってのも程度として当たり前な事! 貴方はなんなのですか!」

「……二人だと何が起こるかわからないじゃないですか」

「そもそも! そもそもですよ!」


 私は新発田さんに詰め寄る。

 今、私に注目している人達に聞こえないように新発田さんの耳元で言う。


「どうして、奏芽さんを〈男〉って知ってるんですか?」


「――あっ、あっ、あっ、ああ……⁉」


 新発田さんの顔は徐々に青くなっていく。

 私はどうやら新発田さんの心理を刺してしまったようで、新発田さんは竦んで爪を噛んでいる。


「ちっ、違っ。た、たまたま……ね? 聞いたの、どこかで」

「聞いた? 誰に?」

「か、奏芽くんから……かな?」

「いつに?」

「今年の冬とか……だったかな?」

「嘘は通用しないようですが、嘘は苦手のようですね」

「嘘じゃない……です……本当に聞きました……もん……」

「……冬でしたね?」

「信じてくれますか」


 私は少し落ち着いてから、矛盾を突きつける準備をする。

 あの冬の奏芽さんの行動をほんの少し思い出す。そう、ほんの少しでいい。奏芽さん自身じゃないから上手くいえないかもしれない。けども、言わなきゃ気が済まないのも一つ。何回か瞬きをして、息を吸う。


「爪噛みが止まらないですね。嘘つき」

「だ、だから……嘘じゃないって……」

「冬の時の奏芽さんに新発田さんに接触出来たとしても、知る権利は出来ません」

「そ、そんなことは無「いいえ、言い切れますよ。何故なら当時は常に側に居なくてはならない方が存在してましたから、知ってるのは私だけじゃないです。そもそも……」

「な、なんですか」

「どうして私が貴方を知らないんでしょうね」

「…………」


 爪噛みは止まらず、それ以上に噛んだからか尋常じゃない血の量が親指から出ている。次の言い訳を考えているからか、或いは言い返せなく心情辛くなっているか。


「し、知らないのはともかく……ね、ね? 私には知らない事が無い……の。だから、奏芽くん。しっかり、見てあげて……」

「逃げても私はクドく言います。新発田さん」

「だ、大丈夫ですから……」

「冬の時期は奏芽さんと深緑さんが一緒に住んでいた。ご存知でしたか?」


 新発田さんはスマホを血で濡れた親指で操作して何かを目で追っている。そして動きが止まる。


「私は嘘を付いていましたか?」

「き、た、ただのきいた情報じゃん……」

「果たしてそうでしょうか? 貴方の爪噛み、止まると良いですね。たかが指とはいえ出血多量で病院に行きますよ」

「こ、これは癖だから……なんなの……」


 もはや爪を噛んでるとは言えず、最終的には肉を噛んでいく所まで癖が進んでいった。結局のところ新発田さんは私に何を言いたかったのか、分からないまま数秒が過ぎていく。


「新発田さん」

「なに……まだ何か言うの……」

「私、新発田さんに何か因縁付けられていますが、私の何が気に食わないかだけ聞かせて貰えませんか?」

「簡単に奏芽くんに近づいてるからよ! それで全員が嫉妬して襲ってきてるぐらい知ってるでしょ⁉」

「……はぁ。そうですか」


 嫉妬。というより“黒度”の影響下で襲ってきてるというより心の拠り所であった人がいなくなってしまったからなのですが。私は白だから何も無いのですが……。


「皆、嫉妬して……あれ……」

「どうしましたか。貴方のそのスマホに情報が乗っていませんか?」

「別に……貴方に言うべきじゃないと思うし……」

「?」


 突然、新発田さんは言葉を詰まらせた。聞いた見た事より以上に情報が浅かった。或いは無かったのでしょうか。


「もういいですか……? 私、怪我に対する治療の持ち合わせが無いんです……このまま薬局行くんで……」

「え、はい。どうぞ」


 煩労したのか、体を揺らしながら背を向けて歩いていく。

 私は奏芽さんの人脈の広さを改めて思い知りました。流石のニカエルさんの能力に見合ったコミュニケーション能力というべきでしょうか。しかし新発田さん以上の訳が通用しない人とは会話はしたくありません。いくら"黒度"の影響下があるとはいえ、会話が通用しない点は……。


「あれ」


 私、〈黒度の眼鏡〉の起動をしていませんでした。ですが、目表として解決するには難しい度合いと考えます。

 一応、新発田さんはこちらの事情も深く知っているようなので、何れにせよ古麓さんと同様にそのままでも大丈夫な気がします。

 ……気分が悪くなってきました。私もつい周りを気にせず怒号を上げてしまいました。帰って多少の事柄を纏めて――


「纏め……たかった……」


 やっぱり、体に負担に掛かる怒り方はするべきではなかった。そう後悔しながら、体から力が抜けていく。

 遠くに私の名前を呼ぶ声を耳に掠めさせながら、ゆっくり体が倒れていく。……あと、5日しか……ないのに……。

余りにも遅くなりました。気付いたら3年も投稿していませんでした。パソコンも新しくなりプロットもnami2000で書いており、わざわざ窓の杜からDLして解凍してプロットを蘇らせました。色々と環境が変わりましたが、暇ある時は時々開いては書いて、あれよあれよとしていたらとりあえず一話完成出来て良かったです。……とにかくや、また何時になるかは分かりませんが、作品を作る事自体は楽しいので、次話もゆっくり書いていきます。

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