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この中に『男』が一人います!  作者: TASH/空野輝
第六章 唯川奏芽
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67話 黒く染まる友達

 奏芽さんの容態は変わらず“脳波無し植物状態”……だけど、ルリエルさんは言った。

 病気でも怪我でもない、()()だと。


「詳細が分からないなぁ。ホント、天使ムカつくわ~」

「茉莉さん、聞いてるかもしれませんよ」

「知るかっ。体の大事(おおごと)は医者こと人間に任せてるくせに」


 ノートパソコンのキーボードを叩いて奏芽さんのカルテを更新している。茉莉さんだけはあの後も奏芽さんの様子を三時間単位で見ていた。二時間寝ては起き上がり、脈を測り状態を見る。

 ――病院に頼る事をすればいいと思う。だけど皆が奏芽さんに会うことが出来なくなる。それを避ける為に茉莉さんに頼って、自宅で様子を見ている。


「また精密検査するわ、茉白も付き合う?」

「いえ、今日は大丈夫です。あまり痛々しい奏芽さんを見るのも――。今日は出掛けます」

「わかった。いってらっしゃい」


 見たくはないという訳ではない。一日奏芽さんを車椅子で連れて疲れてしまった。

 元々私は体力があるわけではない。38度の炎天下の中を50kgオーバーの奏芽さんを車椅子で押す、この行為が私の体力をジリジリと削る。


 PPPPPPPPPP――


「誰からだろう……?」


 スマートフォンを見ると珍しく神指さんからの連絡。

 出ない訳にもいかず、そのまま出る。


「もしもし?」

〔あ、茉白さん。今って時間大丈夫ですか?〕

「はい、今出先ですけど。散歩だけなので……」

〔神社に来てもらえれば、私居ますので〕

「は……切れちゃった」


 伝えることだけ伝えるなんて神指さんらしくない。もう少しだけ長電話になると思っていたんですが……やっぱり引きずっているんでしょうか。奏芽さんの事を。


 商店街のアーケード内にて……古麓(ふるふもと)さんを発見。カフェでストローをくるくると回して液体状のものを回している。


「古麓さん」

「やぁ茉白くん……()()()()()()

「はい、座らせて頂きます。だけど、まだ用があるので」


 私は古麓さんと対面して座る。


「そんな急ぎ用じゃないんだね」

「あっ、いえ……その……まぁ……えー……」


 言葉を繋ぐ語句しか言えなかった。

 見据えたような言葉で私は何も言い出せなかった。


「そうだねー……()()()()()()()()?」

「これからの用では多分奏芽さんの事ではありませんけど、きっとそうなります」

「そうなんだ……ぼくもクラスメイトの一人として奏芽くんが大怪我で残念に思ってるよ。お見舞いにも行かなかったし」


 古麓さんは奏芽さんと認識があるけど一度も来てませんでしたね。私が知っている一年生の頃の数人が来たとしか覚えがありません。


「……あれ、茉白くんって眼鏡掛ける人だっけ?」

「あ、これですか?」


 私はたまたま胸ポケットに刺していた黒縁眼鏡を掛けてみる。


「人から貰ったんです。似合うんじゃないかって」

「良い人だね。似合ってるよ」

「ありがとうございま、す……………………?」


 眼鏡を掛けて古麓さんを見ると……古麓さんの周りにほんの少し薄黒いモヤが出ている。外してみると、そのモヤは掛かっておらず。眼鏡のレンズを拭いて今一度掛けてみると薄黒いモヤが再出現した。


「どうしたの? 茉白くん」

「……いえ。古麓さんもこの眼鏡掛けてみます?」

「じゃあ遠慮なく。――――」


 掛けて数秒後、古麓さんは直ぐに外した。


「茉白くん。人から貰ったにしては周りが歪む程の強い度が入ってるものを……よく平気で掛けられるね……」

「そんなに強いですか……?」


 古麓さんは目頭を押さえてこの眼鏡を痛感している。

 おかしい、やっばり私はなんとも無いのに他の人が掛けると同じ反応が帰ってくる。


「茉白くんが目悪かったのは意外だよ……まだ痛いや」

「なんかごめんなさい」


 私は立ち上がって、古麓さんに謝罪をする。

 余りにも痛そうにしているから。


「そんな謝る事ないよ、掛けたのはぼくだし……暫くすれば治るから」

「本当ごめんなさい、では次はもっとゆっくり出来ると良いですね。それでは」

「うん、またね」


 ……歩きながらもこの眼鏡をじっくりと見てみる。

 見た目はおかしくない、今掛けてアーケードの看板や通る人を見てみても古麓さんに見えたあの“黒いモヤ”は出ていなかった。

 茉莉さんや古麓さんがこの眼鏡を掛けると度が強く見える……これでこの眼鏡は私専用の眼鏡と分かった。

 一つ()せないのは、効果が未だにわからない。“黒いモヤ”は効果に関係があるでしょう。それに何故“黒いモヤ”が見えるのか。それが見えて一体何が分かるのか。……私に何を伝えているのか。

 シンプルな物程奥が深い、その言葉がそのままこの黒縁眼鏡に当て嵌まる。


「もう少し掛けて移動してみましょう……まだ分かる事があるはず」


 ルリエルさんが帰ってくるまで、いや帰ってきた後もきっと役に立つ。ルリエルさんが出した〈物〉に意味は無い〈物〉は無いはず。

 何か仕掛け……も無く、レンズに薄い膜でも貼って……る訳でもなく。こすってみたり、眼鏡を一回拭いてみたりもする。

 ……反応は無し。

 いや、もっと試してみる――


「ちょい、ちょいー」

「…………」

「ちょいー! ちょいちょい、ちょい……ちょっと」

「わっ、はい⁉」

「ウチが肩に手を置くまで気付かないとか、どんだけ眼鏡気にしてるの。名胡桃茉白さん」


 後ろの席の……撫川……汐璃さんでしたっけ? 余り喋ったことがない人ですから、逆に声を掛けられるなんて思いもしなかった。


「私に……何か用ですか……?」

「いやいや、クラスメイトだし。ウチ的に一言話しておくべきかと思えば冷たーい反応されて、眼鏡だもの」

「冷たい反応……でしたか……」


 私は肩に手を置かれるまで反応出来なかったのですから冷たい反応はしたつもりは……いえ、してましたかね……。


「名胡桃茉白さんってそんな顔するんだね。いつも唯川奏芽といるときは……ってこの話は駄目だった?」

「あ、いえ、奏芽さんの事は別に、その……」

「いやいいよ。ウチも数ヶ月前に唯川奏芽と会って知ったばっかりだしさ、その後の話なんてロクでもない事ばかりで。もっと話せば良かったと思ってるよ」

「そうだったんですか、貴方も奏芽さんと面識が」


 奏芽さん、新しいクラスメイトとも一度は話をしているんですね。古麓さんや撫川さんとまで。


「まぁまぁまぁ、あんまり喋ってないよ。ゲームの話とか先輩の抱きつかれ役……ゔゔん、先輩とリラクゼーションルームで一緒に会話したりぐらいでね」

「――抱き着かれ役というのは?」

「ゔっ⁉ 多分名胡桃茉白さんも一度は唯川奏芽の部屋で見てると思うけど、あの唯川奏芽ぬいぐるみの製作者。三刀屋(みとや)先輩って人」

「あのぬいぐるみの……それで抱きつかれ役とい――」

「あーはっは――さて、私は眠いからこれで」


 抱き着かれ役という言葉でリレーに引っかかりが出来て撫川さんは大量の冷や汗と動揺を生み出して来た道を戻って行く。


「……また、“黒いモヤ”が……撫川さんにも」


 古麓さんだけの“黒いモヤ”だと思っていたのが、撫川さんにも“黒いモヤ”が掛かっていた。しかも古麓さんより若干濃い見え方をした。――この眼鏡は一体何に反応しているのでしょうか。

 三刀屋さん、というのは一回だけ奏芽さんの家へと来ていたあの私よりも長身の方……なのかな。かなり印象の高いお方でしたが、撫川さんが言った抱きつかれ役というのは一体。真面目な雰囲気があって、とても変な行動を起こすような人には見えない。


(どうもどうも、三刀屋碧流でス。奏芽ちゃ――さんのお友達ですカ?)


 玄関先で会っただけですが……。廊下の遠くでも奏芽さんの母もそわそわしてましたし、ひょっとしたら奏芽さんと三刀屋さんとの関係は薄い、けども一方的な好意を三刀屋さんが持たれて抱きつかれ役なんて……撫川さんが名付けた。そう考えるのが妥当、いや決定? とにかく撫川さんがその抱きつかれ役をしていて、奏芽さんがその役に移ったと。


「????」


 奏芽さん、三刀屋さんとは何処で会ったんですか……?

 三刀屋さん、奏芽さんの何が魅力なんですか……?

 撫川さん、関係は……?


 考えてみると色々と謎が深すぎて、次にはもう歩き出してしまっていた。


 珍しく、考えるのを放棄しました。




          ※  ※  ※  ※




 暑い。

 薄着といえども軽い下着や小さいショルダーバッグ等、締め付けられて汗が溜まる。海街は南ですから更に温度が上がって、ジリジリと体力を削る。そして眼鏡もパッドクリングスが無いただのレンズ有り伊達メガネですから鼻に貯まる汗でズレていく。茉莉さんや今から会う神指さんはよく日常的に使えますね――。

 私はこのズレに違和感があって外して胸ポケットに刺す。


 神指さんの神社には幾度がお邪魔したことがありますけど、大したお話もせず涼んで終わることが多かった。今日は久しぶりに長話になるかもしれませんね。


「神指さん」

「あっ、名胡桃さん」


 巫女服姿でまた延々と掃き掃除でもしていたのでしょう。


「……あの時以来ですか?」

「はい、鵯尾さんの事件以来ですね」


 奏芽さんがあの状態になって以降、私達はそんなに会わなくなりほぼ音信不通、SNSのグループも誰も書き込まなくなり、学校の廊下ですれ違っても会釈か「おはよう」しか言わなくなっていた。


「別にクラスになってから、私も茉白さんと会わなくなりましたからね」

「そうですね」

「…………」

「んん……」


 神指さんから誘ってもらったのに、話が繋がらなくなってしまった。


「奏芽くん、どうなったんですか? 茉白さん毎日のように通ってましたよね」

「はい……えっと……今は私の部屋に」

「――どうして? 奏芽くんが茉白さんの部屋に?」

「それは」

「ニカエルさんの奇跡で病院に行かないのは理解出来ます。でもその後に茉白さんの部屋に移動なのはおかしいですよ。いやおかしいですよ」

「だから神指さん」

「“だから”って、そうして自分を正当化して理解を得ようとしていませんか⁉ 自分の物にしようとしていませんか奏芽くんを⁉ 夏休みに入ったからって奏芽くんのお母さんに何か言って鍵も貰ってるし、良いように唯川家ごと我が物にしようとしていませんか⁉ 気をつけなければならない事をあなたは全て犯しているんですよ茉白さ――」


「神指さんッ!!!!」


 今日一番に大きな声を出す。


「ふぅ……落ち着いてください」

「――ごめんなさい」


 神指さんは私の一喝でしょんぼりとする。


「一番、奏芽くんに会ってるのが茉白さんでしたから、夏休みに入って何か知ってるかと思って」

「それで今日呼び出したんですね」

「はい――あの――色々言ってごめんなさい」


 深くお辞儀をして謝罪をする。


「いいんです、はじめに私が話題に出さなければ良かっただけなんです」

「……正直、羨ましかったんです。あの時は私不自由でしたから」


 今じゃ五体満足となっている神指さんも三ヶ月前は歩くのもやっとな状態でしたからね。


「座りましょう神指さん」


 神指さんの手を掴んで無理やりベンチに座らせる。

 その横に私も座る。


「……それで、茉白さんの家にどうして奏芽くんがいるんですか?」

「私の姉が医者なんです。それだけですけど、病院に入れてしまうと面会の時間があったり様々な制約が付くので姉に任せて皆さんが自由に会えるようにしたんです」

「ということは茉白さん達で()()しているんですね。……奏芽くんのお母さんもそちらで?」

「いいえ、ご自宅に戻ってます」

「……一つ嫌に思ったんですが」


 私に噛み付いた時のような目に戻る……。


「ニカエルさんはどうしたんですか。いつも奏芽くんの傍にいたじゃないですか。茉白さん頭が良いですからニカエルさんにも一言都合の良いように言って――」

「神指さん、私が()()()()()()()()()()? 私は逸れた事は絶対にしません」

「……色眼鏡で見てしまいます。何かを隠しているようにしか見えないです。……どうなんですか」

「まだ言えないです」

「言えない、ですか。ハッキリ言われると実は何も考えてないのではとも取れるのですが、奏芽くんを助ける気はあるんですか」

「それも言えないです」


 そう、ルリエルさんの件についても目星が付いていないからノーコメントとしか。神指さんに協力を求める事も出来ない、もしかしたら私一人の戦いになる可能性もあるから。


「――いずれ、奏芽くんに面会を求めます。勿論いいんですよね」

「はい、断りません」

「……茉白さんありがとうございました……」


 突如、肩を掴まれる。

 きゃっと私は小さく声を出しながら、神指さんは言った。


「絶対、一人の物にしないでください」


 今日の神指さんの様子はおかしかった。

 肩を掴まれた衝撃で落とした眼鏡を拾って一度、掛けてみる。

 レンズに傷無し……これはあくまでも借りた物だから壊す訳には行かない。


「その眼鏡は?」

「これは貰ったんで…………⁉⁉」


 眼鏡を通して神指さんを見て背筋が凍る。

 古麓さんや撫川さんの“黒いモヤ”とは比べ物にならないレベルで神指さんの“黒いモヤ”はハッキリ、ドス黒く、神指さんの体から大きく吐き出ている。


「あ……あ……」

「私の体に何か?」


 神指さんに流石に“黒いモヤ”が出ていますよ。とは言えない。理由がわからない物を言って理解が出来るはずがない、私も……この正体が分からないのだから。

 ……もしかして、神指さんの先程の言動、行動にはこの“黒いモヤ”が関係している? 理由の結び付けには合っている。でも、古麓さんや撫川さんの言動には酷な事は無かった。“黒いモヤ”が薄いから? でも影響はあってもおかしくは無いはずだけど……。


「茉白さん、気分が悪そうですよ。レンズって事は度数あるんですよね、慣れない内は休みをとってください」

「お気遣い、ありがとうございます。だ、大丈夫なんで」


 眼鏡を外して、神指さんを見ると“黒いモヤ”も消えた。やはりレンズ越しに見なくてはならないようですね。……ルリエルさん、この眼鏡は一体ナニモノですか。


「……もっと体験しろ。って事ですか、ルリエルさん」


 次に会える人を選ぶのだとしたら……




          ※  ※  ※  ※




「堂ノ庭さん」

「やっほー、シロチン」

「お久しぶりです」


 ふりふりと手を振るその手は元気が無かった。

 流石に家の前とは言わず、さっき古麓さんが居たカフェに集まった。


「元気にしてた、シロチン」

「……気分は優れないです」

「そっか、そうだよね」

「はい……」


 私は最初から眼鏡を掛けていた。

 一番濃いと思っていた神指さんの“黒いモヤ”よりはるかに堂ノ庭さんの方が濃い。


「シロチン、カナちゃんの様子は見に行った? あたし、この後見に行こうと思うんだけど」

「…………」

「シロチン?」

「……今、奏芽さんは私の家で預かってます。姉が見ている中で。私の姉が医者なので」


 一回留まってしまったけど、言ってしまった。


「そっか……シロチンさ――酷いよ、あたし達に何の相談無しに茉白の家に預けるとか」


 ああ、やっぱり言うべきじゃなかった。私に浴びせられるのは非難ばかり。良かれと思った行動は全て裏目に出てしまっている。……本当に私は間違った行動を取ったのでしょうか……。


「4月。茉白さ、知ってたんでしょ。月曜日からカナちゃんが倒れてたの。それで火曜日はあんな平常な顔して、よくカナちゃんの家出られたね」

「そういう風に見えたのなら謝罪します。ですが、言えなかったのは奏芽さんのお母さんの意思もあって――」

「本当は知ってたんじゃないの? カナちゃん血だらけだったのも。絢芽とグルになって事件になった場所まで誘い出して共同でやったんじゃないの? ねぇ」

「そ、そんな⁉ それは堂ノ庭さんの被害妄想です! しっかりして下さい! 私は奏芽さんを助ける方法を――!」

「もう助からないくせに! 偽善者ぶってないでよ茉白! ……酷いよ、どこまでカナちゃん痛めつけるの……? カナちゃんを操り人形にしないでよ……」


 俯いてボタボタと涙をテーブルに溢す。

 私はそっとハンカチを堂ノ庭さんの近くに置く。


「……ごめんね、ストレスなんだ。カナちゃんがいない事にストレス。つい、シロチンにぶつけちゃった……」

「私は……大丈夫です。そういう事は聞き慣れてしまっているので」


 レンズ越しからの“黒いモヤ”は更に濃さを増した。

 ストレスに等しい物に“黒いモヤ”は反応し、それを視覚化している。という解釈で宜しいのでしょうか。


「もう……帰ってこないんでしょ……いつものカナちゃんは……」

「堂ノ庭さん……」


 堂ノ庭さんは空を仰ぐ。


「三ヶ月もあの状態、警察だって未だに犯人を探せてない。じゃあ他の道は?」

「ありま――」


 ドンッとテーブルを叩く。

 その音は目の前。


「そういう妄想でしょ⁉ ――そうだ尊厳死……尊厳死……もうカナちゃんに楽させてあげようよ……ね? ()()()()


 口に力が入っておらず、目にも輝きが無い。

 もう自分を制御出来ておらず、私に“カナちゃんを尊厳死してよ”としか言わなくなっていた。


「……堂ノ庭さん、そんな事奏芽さんが聞いたら、思いっきり怒鳴られますよ。そんな風に考えてたんだって……私は冗談言わずに言えますよ。まだ助かる道は()()()と」

「……茉白、また落ち着いたら会おう。次はその()を歩く方法を教えてもらう、じゃあね」


 次に顔を見た時は眉間にシワを寄せて私を睨み付けていた。

 ……何時になく堂ノ庭さんは熱くなっていた。もう奏芽さんは助からないと思っているのでしょう。私には理解出来ない感情で堂ノ庭さんはいっぱいなんでしょう。


「真っ黒でした、このコーヒーよりも。色が」


 眼鏡から見えた“黒いモヤ”は誰よりも黒かった。

 見るにつれ、私は徐々に得を感じなくなってきました……。ルリエルさん、私に何をみせようと? 疑いが深くなる。

 説明さえしてもらえれば理解出来るものの、その説明無しに人の不幸押し付けられ、誰も聞き入って貰えない。まるで活躍しないから酷な評価ばかり受ける政治家のよう。


「……心が痛くなってきます。ルリエルさん」


 腕時計が指している時間はまだ午後の2時。

 ルリエルさんが次の報告を寄越すのは夕方辺り、まだ時間が有り過ぎる。帰っても奏芽さんの検査は終わってないでしょうし、次にうろついたら、他の奏芽さんを知っている生徒に会うかもしれない。……その時はまた人には言ってはいけない言葉を受けるでしょう、私が。


「…………」


 私も少し落ち着きましょう。

 ここで。深呼吸して、ゆっくりと。

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