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この中に『男』が一人います!  作者: TASH/空野輝
第三章 神指葵
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番外 カフェ・タン・ドゥ・神指

 冷たいカフェオレを一杯店員さんに頼みテーブルに座ってこの時間を楽しむ。外が暑くてもテラスで飲むのはこのカフェでの醍醐味。耳に心地よい商店街の雑音で少しずつグラスを傾けてカフェオレを飲んでいく。たまに手を挙げて背伸びをして、ゆっくり、ゆっくり、過ごしていく。


「あら、神指さんこんにちは。隣良いですか?」

「茉白さん、どうぞ」


 同じ櫻見女に通うクラスメイトの一人、名胡桃茉白さん。


「アイスコーヒー一つお願いします」


 茉白さんが頼むのはアイスコーヒー、私はコーヒーみたいな独特の苦さが好きじゃないのでここのカフェで頼んだことがありません……。茉白さんは大人ですねぇ、私も見習いたいです。特にその大きな胸や綺麗に整った髪等……比例にもなりませぬ……。


「最近の調子は如何ですか?」

「私ですか……? 神社での仕事ばかりで」

「プライベートしっかりしないと駄目ですよ」

「ご、ごめんなさい」


 妥協のない言葉でつい私は縮こまってしまった。確かに土日は神社に徹しているので隣の街に遊びに行ったり、友達と何処かに行ったり……してないですね。夏休み中は土日が休みで奏芽さんと遊んだりしたので思い出作りは出来たのですけども、学校と神社の勤めでプライベートが取れてませんね。これは痛い事。


「たまには私達とも遊びましょ、神指さん」

「はい、お誘いお願いします」


 茉白さんに一礼する。


「……あれ? ザッシー! シロチーン!」


 次にやってきたのは朱音さん。今日は随分とクラスメイトに会いますね……二人目ですけど。断りもせずに座ってくるのが朱音さんらしいです。


「店員さーん、あたしココア!」


 ……朱音さんらしい選択です。私はカフェオレで茉白さんはコーヒー、そして朱音さんはココアと皆頼んだ物が違うのと、イメージに合った飲み物を頼むという私の個人的印象。人と被らないのって意外と私好きです。

 ――朱音さんはいつもポニーテールですけど何か特別なおまじないでもあるのでしょうか。それ意外の髪型を学校でも外でも見たことがありません。しかし視覚的に色んな所が揺れるので男性心くすぐられるんじゃないのでしょうか。揺れるというのは美しいんでしょうね……きっと。


 ……しかし、淡々と三人で飲み続けて一つの事を思い出す。


「皆には俺が『女』になれる事を内緒にしてくれよ」


 奏芽くんの言葉って実は人に教えても問題は無いのでは? 特にこの少人数には。何人かに教えていれば特に秘密にもならず、奏芽くんも安心する事では? ……ひっそりと少しずつ教えても奏芽くん怒らないですよね。


「奏芽く……さんって今何してるんでしょうか」

「カナちゃん? カナちゃんだったらさっき別れたよ。もう家に帰るって」


 家……そういえば奏芽くんの家を知りません。こちらに帰って行ってるのは知ってるのですが商店街の方に帰っているというだけで他は知りません。勿論そうなると朱音さんの家も茉白さんの家も知りません。結構私、知らない事ありますね。


「それで、奏芽さんって家で普段どう過ごしてるんですか? 『男』っぽいとか……」

「『男』っぽいというか……そのもんだよねカナちゃん。どう過ごしてるってかー、えーとー、普段ニカエルちゃんとお風呂入ったりとかしてるんじゃない」

「へ、へー」


 この二人知らないですよね? まさか奏芽くんニカエルさんと『男』の状態で入ってキャッキャしてるのでしょうか……そうなるとなんだか不思議に感じてきました。普段茉白さん達に平然とこういう事を話してるんでしょうか。でも『女』の子として話すなら普通でしょうね、姉妹で入るということも多いでしょうし、奏芽くんもニカエルさんの事を妹の様に可愛がってるようですし……?


「あたしは好きなんだーカナちゃんの事」

「好きっ⁉」


 お、おおお、『女』の子同士ならかなり朱音さんそれは異常な精神なのでは? ……いやいや、多分そういう好きではなく、友達としての好きなんですよね? 朱音さん。


「え、えーと。茉白さんは奏芽さんの何か知ってるんですか?」

「そうですね……私からは特に何も。奏芽さん秘密だらけといえば……だらけですし」


 秘密だらけ……確かに、奏芽くんって色々隠してる事多いですし、第一に『男』ですしね。これが一番の秘密ですし私と奏芽くんだけの秘密ですからね。――ってあれ? 私だけの秘密のはずですけど、まさか茉白さん達は知らないですよね?


「…………」

「あれ? ザッシーどうしたの?」

「い、いいえ。特になんでも無いです」


 グラスを持って唇を隠す。話が合ってるようで私の心の気持ちと二人との会話の歯車が合ってない。


「奏芽さんとはまるで古い時からずっと友達みたいな感覚で――」

「あたしはずっと遊んでるけど変わってないよカナちゃんは――」

「ええっと、優しいですよね。奏芽くんは」


 テラスでの会話が始まって私が出した奏芽というワードでずっとキャッチボールが続いてる。はて、皆さんと奏芽くんとの親交は知ってるのですけどそんなに仲が良い程に遊ぶ機会って少ないんじゃないのでは? 何故なら『男』として普段過ごしてることが多い奏芽くんですし、それ以外の姿と言ったら『女』の子としての姿になる訳ですから――つまり、過ごす時間が少ない。それなのにキャッチボールが続く。


「カフェでなんかやってるなと思ったら」

「あ、えっと……お兄様」


 ようやく本人の登場、唯川奏芽くん。

 それから天使のニカエルさん。


「紹介しますよ、こちら唯川奏芽さんの……」

「あっカナちゃん、家に帰ってたんじゃないの?」

「奏芽さんもこちらどうぞ」

「お、ありがとう。えっと……何頼むかな」


 あれ? あれあれ?

 ついに私の中の歯車が一気に外れ掛かってきたような……。


「いやーさー、ニカエルが小腹空いたってうるさくてさ」

「てへへーごめんね、私ここのカフェ好きだから」


 普通に馴染んでますけどっ⁉


「神指さんどうしたの? 随分顔が真っ赤だけど」

「……皆さん知ってたのですか? 奏芽くんの事」

「うん、カナちゃんが『女』の子になれるっていう魔法でしょ?」

「正確にはニカエルの魔法だけどな」


「えっ」


「私も入学して一ヶ月ぐらいで知って驚きましたけど、今はこうして奏芽さんも馴染んでますよ」


「えっ、えっ」


「カナちゃんもやるよねー、ニカエルちゃんにそういう願い事するなんて」


「えっ、えっ、えっ」


 一時の沈黙――。


「なんだ、その。神指さん以外に知ってるのはこの三人だけだ。もしかして、バラそうとしてた?」

「あっ――いや、その。奏芽くん? 酷いですよ……あれっ、ウソ……」

「神指さぁぁぁん!」


「ご、ごめんなさあああああああああい!」


 茉白さんと朱音さんが私に『男』というのを教える前から既に知っていて、そうして『男』としても夏休み前には朱音さんが楽しみ、その前のゴールデンウィークでも茉白さんは楽しんでたんですって。私はそのような事実も知らずに奏芽くんと私だけの秘密だと思って凄いワクワクして皆さんにドヤ顔で話そうと思ってたのは今思い返してみると凄い恥ずかしいです……。


「いい神指さん? この今いる二人とは俺の大事な秘密を交えて話してもいいけど、他の人にはホンット駄目だからね?」

「はい……以後、気をつけます……」


 奏芽くんに謝る私。でも本当はこれ奏芽くんが他の人にもバラした事があるっていう話をすればこういう私の勘違いも無かったのでは? 矛先が少し奏芽くんに向かってるんですけど……! ――でも私が話そうと思ったのは事実、そこは反省します。


「まぁ……これからも宜しくな、神指さん」

「はい、宜しくお願いしますね……」


 四人とも仲良くなれた私、また一つ思い出が増えました。

 奏芽くんといると思い出がいくらでも刻めますね――。

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