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この中に『男』が一人います!  作者: TASH/空野輝
第三章 神指葵
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32話 わたしは『女』、でも『男』だけど泣かないで

 朝の五時から商店街の入口に立ち、櫻見女の夏服を来て生温い風に当たりながら約二時間も友達を待つ人なんているのだろうか。実際にここにいる、夏休みが三十一日で終わり九月に突入。残暑――いや正確にはもう残暑入りしているが、全然同じ暑さでここ夏風町を熱している。そんな中でも水も持たず、肩にバッグをぶら下げ、少し股を開きただ友達を待っている。


 ……ニカエルはどうしたかと言うと、最近分かったのが本人の前でスマホの画面をかざすと本人が寝たままスマホの内部に取り込める事が分かり少し便利に使わせている。いつもなら起こして学校に向かう分、気持ちの余裕が出来て朝の五時に外に出れたという訳だ。――ただ音自体はスマホのマイクから拾う為、ニカエルがもし起きてたら会話も丸聞こえという。徐々にスマホとニカエルの関係性というのが分かってきた。


 しかし、それ以上に気持ちの余裕が無く……朝早く起きてしまって。今商店街の入口に立っている訳だ。

 何を考えているのか。

 俺にも分からない。

 でも余裕がない。

 何故?

 不安。


「おはようございます、奏芽さん」

「おはよう、名胡桃さん」


 そうこう自問自答している内に時間というのは過ぎていく。

 特に時間の流れは残酷。全てを風化させていき、次第に何をしていたのか何を思い出にしていたのかさえ忘れる。特に去年や一昨年の記憶していた出来事さえ消し去ってしまう脅威さもある。流行、ブーム、トレンド、風潮、これらも何れか時の流れで風化……。


「もう学校が始まるんですね……一ヶ月早いです」

「だね。それよりパン屋さんで何か買っていかない?」

「構わないですけど――お腹空いているのですか?」

「朝は何も食べないで来ちゃったから」


 名胡桃さんとの会話により自分が今まで何を思っていたのかも忘れる。意味もない事まで考えていたという事……ここまで言えば分かる。今日は学校が始まる日、それは俺が『女』の子で居られる時、そしてニカエルとの契約条件の期限が始まる。


「御嬢さん方、まだケバブ残ってるよ。買わない?」


 パン屋の店員は夏期限定のケバブの残りを勧めてくる。


「奏芽さん私のも一つプレートに乗せといて貰えません? ケバブ一つ」


 パン屋さんの大きめのケバブ二つでこの店の買物が終わる。




          ※  ※  ※  ※




 二学期初日、とはいえ本番は明日で今日は大した授業も無く、教室に集まった後は体育館に移動してボーッと校長先生の話を聞いた後にまた無意味な教室移動をしてお帰りになる。――俺自身が無意味と言ってるだけで、本当はここまでカバンを持ってきて、みちる先生が体育館で話をして解散すれば一番手っ取り早い。


 その行動が始まる前なので教室で机に顎を付けて待機していると、目の前にやってきて腰を降ろし俺と目を合わせるアホが来た。


「やっほーカナちゃん、昨日はよく眠れた?」

「眠れては……ないな」

「ちゃんと寝ないと駄目だよ? 不健康になっちゃう」

「ありがとう」


 薄ピンク色のジャージを腰に巻き、オーバーブラウスが少し汗で濡れている。という事は相変わらず部活で走り込んだ後らしい。


「もう少し……タオルで体拭いたらどうだ?」

「そう、でもこれぐらいモワモワしてると『男』の子って興奮しない?」

「誰の事を言ってるのか分からないけどいいから終わった後はちゃんと拭け」

「はーい」


 部室には早急にシャワールームを取り付けるべきだと思う。

 俺は汗臭いのはあまり好きではない。朱音はそういう類いに無神経すぎる。……と思ったら隣の席に座ってオーバーブラウスの上ボタン二つを外して制汗スプレーを噴射していた。――最初からやれ。


「おはよう、唯川さん」

「す、墨俣さんおはようございます……」


 毎回墨俣さんは声を掛けてくれるが、それだけで終わってしまうので深い会話をしたことがない。だが今日の墨俣さんは違っていた。


「いつも同じ挨拶なのですね。私何かしましたか?」

「えーっと、ごめんなさい?」


 久々に会話が続いたが、何故か墨俣さんはため息。


「たまには得のある話でもしてくれたら嬉しいのですけどね……」

「ははは……いつも得が無くてすみません……」


 またため息をついて自分の席に座る。いつもというより、普段の絡みが無いから何を話して良いのか分からない。結果的に同じ挨拶で、得の無い会話になってしまうのだろう。――というか得のある会話って何?


「唯川さんもう一つ」

「ん、何?」


 墨俣さんはカバンを机に置いてまたこちらにやってきた。連チャンで来るとはまた珍しい。


「余り有紫亜には私と居る時以外近づかないで貰えませんか? 怖いので」

「あ、はい……」


 変な忠告を受けた。というか俺は日中そんなに有紫亜と会ってない気もするんだけど……。というか普段から墨俣さん有紫亜に付きっきりではないか、この教室以外では常に近くに居て有紫亜が一人という状態の方が少ないのでは?


「奏芽さんおはようございます」

「神指さんおはよう」


 今日はガラケーを片手に何をしているのかと思ったら俺に差し出した。


「どうしたの?」

「今日から私、スマホデビューです!」


 八月に発表されたスマホを取り出してドヤ顔で机に出した。


「お父さんからガラケーはもう古いと言われて数日前に買い替えました? どうです?」

「んー、まぁ良かったね。どう使い心地は?」

「バッチリです、液晶内のボタンの操作がまだ覚束ないですけど」

「そこは慣れだからね」


 そして自分の席に座っていく。……本人はスマホを持って嬉しそうだけど、残念ながらスマホを持つことが普通になってしまったこの時代では今スマホを自慢されても、性能差も皆一緒になって機能差ばかりのスマホ末期で何も言えまい。どれをどう見てもスマホ、デカいインチの液晶がついていれば全部スマホなのだ。

 さて、また頭を下げて寝るか……。


「おはようございま~す」


 いいタイミングで先生が入ってきてもう寝るタイミングを見逃した。俺の唯一寝る時間を皆が奪っていっていくから今日も死にそうな顔で短い時間を過ごさなくてはならない。





 学校での用が済んだら後は帰るだけ、校長の話なんて短くていいのにあの校長は入学式の時もそうだったけど長い。二学期での過ごし方とか、健康に気をつけるようにとか誰もが思ってる普段の事を非常に重要そうに話すから長くなるのだ……大事だけど。教室で腕を組んで座り、みちる先生が来るのを待つ。


「珍しい、カナちゃんが起きてる」

「後みちる先生の話聞いて終わりでしょ、ロクに寝れなかったから」


 そもそも寝れなかったのはお前達のせいだ。


「あたしはこの後部活が残ってるから直ぐに帰れないんだよー」

「放課後に部活あるの珍しいな、普段は女子サッカー部にグラウンド取られるからって暇って」

「夏休み中も学校来てたけど今日はグラウンド空くって」

「へー」


 特にグラウンドに用は無いから興味なし。朱音の部活は朝練のみだから普段通りだと一緒に帰る。でも今回だけは何故かグラウンドが空いているから練習するんだ、と頭の中で復唱。今日ばかりはこういうのは最後だと思っているから復唱してみた。


「はいは~い、皆さんお待たせしました。先生からのお話は特に無いのでちゃっちゃ、と帰って下さい」

「…………」


 無いんだったら直ぐに帰ってきて解散してもいいじゃないのか? という皆の思考が見えた。


「えっと……さようなら」


 クラス全員がバラバラに立ち上がりバッグを持ってとっとと帰る。別にみちる先生が悪いわけじゃないけど、責任を感じているのか汗を掻いている。


「神指さん待って」


 俺は神指さんが教室から出てしまう前に呼び止める。


「どうしました? 奏芽さん」

「この後って神社に居るの?」

「はい……平日中最後ですけど」

「じゃあ行くから、十二時ね」


「えっ、はい」と少し戸惑って承認してくれた。スマホを取り出してまだ午前十一時、後一時間だけだけど約束したからにはもう逃げられない。でもこの逃げられない立場を作ったからこそ自分にトドメを刺せられる。常に逃げられない立場を作るのは必要な事だ、この状態を作る事により隙間を探して逃げる戦略が出来るからだ。


「奏芽さん、用は済みました? 帰りましょう」

「うん、帰ろう」


 行きと同じく名胡桃さんと帰る。




          ※  ※  ※  ※




 お昼ご飯を済ませて外に出ると太陽が一番上に昇っていてギンギンと強く夏風町を熱している。この状態でも朱音は走り込みとかをしてて、名胡桃さんはじっくりと部屋の中で涼んで本を読んでいるだろう。


「奏芽、暑いよぉ……」

「暑いは禁止ワードだ、俺もそういう状態だから」


 散々ドリンクバーに走り込んではコップを満たしてゴクゴクとジュースを飲んでたのに外にでて一言目がそれか、相変わらずウチのお母さんは会社に行ったまま夕方まで帰ってこないのでレストランで食事を済ませるしかない。


「じゃあ私はスマホの中に戻ってるから」

「ああ、じゃあな……」


 スッとスマホの中にニカエルが戻って俺一人の勝負が今始まる。


 ここから神指さんの神社迄は約十五分、戻った時に服に余裕が出来るように『男』の普段着で、スマホは〈831-2929〉で待機させている。準備は怠らないようにした後、一歩ずつ前を歩く。


「胸を張って歩け!」

「張る胸は無いけど、ってね」


 その言葉は余計だけど、確かにAAカップに張る胸は無いから仕方がない。


「魔法を継続するための条件はバラす事」

「簡単のようで簡単じゃないからなぁ……朱音を除いて二度目だけど、不安には感じるな」

「でもバラせばいいんだよ?」

「バラすには気持ちがいるし、相手を混乱させちゃいけない。朱音の時に習った事だ」


 ニカエルと二人でQAをして、一歩ずつまた神指さんの神社へと向かっていく。




          ※  ※  ※  ※




 神指神社の前へと着いた。ここまでは心拍数も何も無かったが、心臓がドクンと強く一波打つ。これから先の事を考えると更に恐怖さえ出てくる。――スマホの時計は十二時少しを回る。神指さんはしっかりと待ってるだろうか? いや、それは考えなくていい。

 石段を上る前に軽く息を吸って吐く、そして二段ずつ階段を上がっていく。


「にーしーろーやーとっ」


 久々に声を出して石段の数を数え、鳥居まで着き真っ直ぐと青い髪を目掛けて歩いて行く。強く風が吹いて少し息を飲み立ち止まりそうになったが、それでも前進を止めず賽銭箱からお金を取り出す作業をする神指さんの下へと近づいた。


「神指さん来たよ」

「奏芽さん――どうぞゆっくりしてください」


 一息付かず次の言葉を出す。


「神指さん、後ろいいかな。二人でゆっくりしたい」

「……いいですけど、どうしました?」

「いいから」


 神指さんの手を掴み、花火を一緒に見たあのベンチまで目指す。神指さんの手の感触を今一度感じ取ってみると柔らかくてとても暖かい。夏祭りの時にも一回は手にとってみたが、あの時は会場の熱気もあり、神指さんの状態もあったから何も思っていなかった。


「……あった、神指さん隣に座って」

「はい……」


 俺の行動に理解が出来ず未だに戸惑っている。

 隣に神指さんに座って、木が一斉に風で揺れる。


「太陽、登りきってるけど涼しい、いつもね」

「はい、神社はいつも涼しいです」


 俺も何から話していいのか分からず、神指さんも次の俺の言葉を待っている。

 ――何を躊躇しているんだ、唯川奏芽。思い出を一個ずつ語ればいいじゃないか。


「……夏休みの始め、冷や汁が美味しくて初めて家で料理ってのをしてみたんだけど、上手く出来なくてさ」

「冷や汁ですか、確かに美味しいですよね」

「武家にては飯に汁かけ参らせ候、僧侶にては冷汁をかけ参らせ候――」

「良く知ってますね。勉強したんですか?」


 …………


「それから数日後に、ニカエルがトルティーヤが好きだって言って、神指さんのトルティーヤ美味しかったよ、あの後は二本ともニカエルに食べられちゃったけど、あの二本も食べれば良かったなって後悔した」

「喜んでくれて良かったです、あの後はニカエルさんが食べたんですか」


 …………


「ケーキ、渡した時に神指さん困っててちょっと可愛かったなって思ったな、写真を撮った時も凄い動揺して、その後くしゃみしてわたしのハンカチ濡らしたりとか」

「恥ずかしい事ありましたね……もう忘れてほしいですよ奏芽さん」


 ……まだ気付いてない。


「その後もお姫様抱っこしたらさ、もっと顔を真っ赤にしたりとかでね、あの一日は一番神指さん困ってた」

「えへへ……凄く恥ずかしい……ですけど……」


 ……気付かないか?


「それから、夏祭りに誘ってくれてさ、その時の神指さん最初は真面目な顔してたのに、困らす行動取らせたらまたいつもの神指さんに戻っちゃってさ」

「え……それって……」


 ……徐々に気付いているようだけど、まだ足りない。


「夏祭りの時、ぬいぐるみを射的で取ったり、輪投げを投げたら勢いよく棒に飛んだり、俺の手元が景品だらけになったりとかさ。楽しい夏祭りになったよ」

「奏芽さん……? それはあなたのお兄様との思い出です……私の……」


 …………


「その後、花火の打ち上げが始まって、神社に移動してさ。その時の神指さんには困ったな、急に泣き出して何を言っても否定しだしちゃって、また可愛さが出てた」

「そんな細かい事まで……奏芽さん見てたの?」


 俺はスマホを用意して発信のボタンを押す。


「そして、ここで二人――」


 神指さんの驚く顔を見ながら『女』から『男』に変わっていく。


「一緒に花火見たよね」

「えっ……待って……」


 思った通りに困惑してしまった。別にここまでは知ってる通りだったが、俺は手に拳を作って次の言葉が出ない。……こういう顔を見てしまったら次の行動への滑りが悪くなってしまって固くなってしまう。


「奏芽さんは『男』……?」

「あの……俺、今まで嘘言ってごめん……なさい。でも、最後まで聞いてもらえませんか?」


 この言葉で神指さんは一回顔を縦に振る。


「俺はニカエルの力で『男』なのに『女』の姿で、櫻見女に向かって過ごしています。だから妹の奏芽っていうのも本当は俺だし、本当は一人っ子でこれ以上の事は無いです。本当は神指さんには黙っていたかったけど、俺の気持ちを使えたくて……謝りたくて今こうして話しています」


 俺は座りながら一礼をする。伏せたままグッと目をつぶって神指さんの返事を待つが……神指さんの頭の中はずっと混乱しているようで言葉が出ていなかった。――少し言い方とかを間違えたのだろうかと思って俺も次の言葉を考える。


「奏芽……くん? 謝らなくていいです」

「え?」


 俺は顔をあげて神指さんの目を見る。


「私、ほんどうはッ……! ちょっとッ……嬉しいですっ」

「な、何で? 俺だって嘘ついて神指さんに近づいたんだよ?」


「本来の……かなめくんのっ……すがたで、私に会ってくれてッ。それだけでも、すごッ、凄いうれしいんです……」

「それってどういう……」


 俺が逆に動揺してしまっている。神指さんは様々な感情を出しているけど、俺はその感情が読み取れず理解が追いつかなくなっている。


「わたじぃ……子供の頃からこういうお仕事でっ、まいにぢの様に通ッてくれる友達が居なくてッ……思い出……無いんですッ……他に……」

「うん」

「そして……奏芽くんは……一杯思い出づくってくれましたよねっ、純粋にッ……」

「そうだね……ちゃんと『男』として神指さんに会ったよ、俺は」


「その言葉をくれるだけでわたじは嬉しいです」と下を俯いて大粒の涙を垂らす。神指さんは神社の仕事があって中々思い出作りというのが出来なかったのだな。段々と理解が出来てきた。


「神指さん、皆には俺が『女』になれる事を内緒にしてくれよ」

「はいぃ……絶対に厳守します……その替わり私も一つお願いしていいですか?」

「いいよ、出来ることならなんでも」

「また……神社に来て下さい……奏芽"くん"で」


 俺は「うん」と一言声に出すと遂に声を上げて泣いてしまった。俺は神指さんが泣き止むまでハンカチを用意して涙を拭き続ける。


「奏芽くんは優しすぎてっ、もっと涙流したくなりますぅ私は……」

「落ち着くまでずっと俺は傍にいるから」


 それを言ったらより泣いてしまって俺は困ってしまう。今日一日ずっと神指さんに向かってさようならと言えなくなってしまったからだ。……仕方ない。




          ※  ※  ※  ※




 涙を流した後はじっくりと時間が進み、また日常へと戻る。ベンチに戻り、神指さんは箒を手に取りゴミを追いやる。


「……あ、そうだ。神指さん俺に聞かせて」

「何をですか?」


 俺が聞きたいのは夏祭りの前にニカエルから何を聞かされたのかだった。


「ニカエルの秘密知ってるんだよね。何処まで知ってる」

「えっと……神通力を持ってる事と、天使って事だけですよ」

「本当にそれだけ?」

「そ、それだけです……」

「…………」


 俺は神指さんの目の前まで近づき赤い眼鏡をヒョイッと持ち上げる。


「わっ⁉ わわっ、返して下さい」

「神指さん嘘付いてるでしょ……」

「ご、ごめんなさい~。本当は奏芽くんのカッコいい所見たくて、奏芽くんに神通力を掛けてって言いました!」


 という訳で、ネタばらしはただ単純に神指さんが個人的欲求を満たしたかった……という事だった。思い出作りとは何だったのか。ただ神指さんの思い出増幅に俺とニカエルが一杯食わされたという。


「他には何も聞いてない?」

「何も……って返して下さいって! もぉー!」

「絶対に他にも聞いてるでしょ」

「意地悪ぅー……分かりました、最後なので秘密にしたかったんですけど……」


 俺は息を飲み、最後という秘密を教えてもらう。


「ニカエルさんから聞いたのは、奏芽くんを困らすと、困らせただけ奏芽くんが行動に出るって聞きました……だからずっとこうして、困らせてたんです」

「…………」


 これはニカエルが悪い。


「おぉ~い! ニカエル! 出てこいッ!」


 俺は懸命にスマホを振って無理矢理ニカエルを呼び出す。


「うっ、えぇ~! 奏芽気持ち悪くなっちゃうでしょ!」

「お前神指さんに変な事教えてるんじゃないよっ! 今日だけは許さない!」

「いいじゃん、奏芽本当にそういう行動に出るんだから教えたって」

「えっ……じゃなくてそんな余計な事は今後話さなくていいって」


 俺は逃げたニカエルを神社内で追いかける。コイツは相変わらず幸せを送るというか俺を困らす事しかやらない。天使とは何だったのか、段々とニカエルを知る度に定理というのがわからなくなる。


「ふっ、あっははははは……」


 俺達の茶番で神指さんも笑っている。人から見れば俺達はいつも茶番をしているようにみえるけど、俺からしたらはた迷惑でニカエルは嫌いな存在だ。ついに捕まえる事もなく俺は息を切らして膝に手を付く。ニカエルは宙を浮く事が出来るから体力無くならないんだ……。


「えっと……奏芽くん、今後もよろしくお願いしますね」


 手を差し伸べて握手を求める。


「はぁ……はぁ……うん、宜しくな」


 俺はその手を掴んで上下に軽く振る。


 朝十二時半――

 神指葵に『男』として正体を表し、ニカエルの条件達成。

 神指葵の感情が大きく揺れ奏芽は困ったが、後に思い出が出来たと嬉し涙を流しながら語り、その後も交際は良好のまま、まだまだ神指葵と奏芽の思い出作りはずっと続く――。

 これにて神指葵の本編は終了になります、10日間空いてしまった事もあってこの三章が長くなって申し訳ないです。夏休みという期間中の奏芽の動きとして書いてみたものの、かなり窮屈に書いてしまった感があります。


 そして31話は一章でいうゴールデンウィークデートに値する本編のおまけの話みたいな風で読んで貰えるといいです。一人十万文字で物語を描くという縛りを入れてのストーリーで神指さんの話が意外にも薄くなってしまったので神指さんは科学が苦手という巫女さんらしい物語を入れてみた……のですが、今後生かされる事も無い設定を入れてしまったのでやっぱりおまけで見て下さい。


 神指葵は巫女、なのですが実際僕自身そんなに巫女様のお仕事というのが解らず、ただ神指さんが箒をぶん回すという文章しかありませんが(笑)。本当は色々なお仕事があるのは知ってますけど……祈祷のシーンを書いて果たして面白いのか? と思いまして、神指さんの仕事の半分を割って頂きました。あんまりリアルに仕事のシーンを書いてしまうと奏芽の物語じゃなくなってしまいますからね。


 さて、次章は奏芽が余りにも早く神指さんに『男』というのをバラしてしまった為、秋を飛ばしていきなり冬の場面まで飛びます。つまり……三学期ですね。奏芽の一年生はもうすぐで終わりですが、その二年生もまだ描いていきますので宜しくお願いします。……ネクストガール特にヒントありません、投稿される時までお楽しみに。

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