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この中に『男』が一人います!  作者: TASH/空野輝
第三章 神指葵
29/91

24話 神指さん、『女』のお誘い大作戦

 ピーンポーン――


 『女』の状態で神指さんの家まできた。

 時間を聞かされてなく、とりあえず朝から家に来てしまったんだけど、インターホンを何回押しても誰も出てくる気配が無い。また出直すかな……。後ろを振り向いて帰ろうと思った矢先、家の中を駆け巡る足音、こっちに近づいてくるのがわかる。


「ご、ごめんなさい! ちょっと準備不足でっ!」


 神指さんが玄関のドアを音立てて出てきた。


 …………。


 髪ボサボサ。

 眼鏡傾いている。

 下がまだパジャマ。

 口元に歯磨き粉付いてる。

 シャツ中途半端に着ててへそ出てる。


 これで準備不足と言われても、ちょっとどころか大幅な準備不足……。


「神指さん、一つずつ直していこう? ね?」

「え……はいっ!」


 神指さんは絶対に何の事やらかと理解をしていないな、これだと。どっからどう見たって直すべき所が五個程見つかっている。





 初めて神指さんの家に入るけど、神指さんのお部屋は畳なのね。そして中途半端に広がった布団と、焦って片付けたのだろう、ゴミ箱の横にゴミが落ちていた。八畳間で羨ましい部屋なのに神指さんの残念っぷりが部屋に出ていた。――これは俺が朝から来たのが悪かったか。


「とりあえず、指摘された事は全部直してきました~。朝からバタバタしててすみません」

「い、いいえ~……」


 直し切ってお茶とお菓子を持ってきて余裕っぷりを見せる。その余裕っぷりは俺が来る前に見せるのが基本なんだけど、良い顔を見せてるから何も言わないでおこう。


「…………」


 座布団に座ってお茶をすする俺。そしてそれをただ笑顔でみる神指さん。


「はぁー……冷たいお茶美味しいです」

「でしょ? 私が()したんです」

「御馳走様です……ってじゃなくて」

「はい?」

「はいでもない……わたしに何か話があったんじゃなかったっけ?」

「そうでしたっけ?」


 …………。

 俺も湯のみを持ったまま固まる。昨日は俺何か聞き間違えたっけ? 確かにスケジュール帳にも「大事な話」とタイトル付けて予定が入っているのに、目の前の神指さんは「何ぞや」と眉をしかめて考えている。


「えーっと、神指さんが大事な話があるって。その、お兄ちゃんから……」

「……あーっ⁉ そうでした⁉ 忘れてました⁉」

「はぁ――」


 どうして言った本人が忘れているのやらか。もっとしっかりしてる人だと思ってたのにこうも有り得ないドジを踏まれると府抜けてしまう。

 神指さんは咳払いをして落ち着きを取り戻す。


「では……あの、ちゃんと聞いて下さいね?」

「うん……」


 大事な話と聞かされてここまで来てるのだから聞き逃す訳には行かない。


「実は……」

「実は……?」


「お兄様の事が好きになっちゃって」

「うんう……ん?」


 神指さんは顔を真っ赤にしているけど、俺はもう一度言った言葉を頭の中で繰り返させる。好きになっちゃって……兄の事を好きになった……俺が好きになった……なった?


「え、えええ、えええええ⁉」


 一体何処で何がそうなって、どういう経緯で何の風が向いてそういう気分になった⁉ ひたすらに困惑。でも神指さんの顔は変わらず(とろ)けていた。


「それで! 結構お兄様口の固そうな人で、自分の素性を余り話した事が無くて、それで――」

「ま、まってまって。まずどうしてお兄ちゃんが好きになったの?」

「どうしてかと言われると――これはお兄様には内緒ですよ?」

「うん黙っておく!」


 本人は前にいるけど。


「お姫様だっこするあの直球な性格と、いつも私を見てくれているあの真剣な眼差しを見ていたら私、惚れてしまって……」


 聞く限り完全に自分の余計な行動でやらかした。毎日通っていたら神指さんを惚れさせてしまった俺にこれは全責任が行く。――俺にとって大問題。何やってるんだ俺。


「それで!」

「う、うん」

「夏祭りのお誘いをしたいと思ってるんですけど、お兄様は暇でしょうか!」

「そうきたかー……」


 神指さんは俺の言葉で「はい?」と言っているけど、俺はつい言ってしまっただけで悩んでいるのは俺だけだ。夏祭り、他のメンバーの確認を取ってみた所、名胡桃さんは東京に行っていてこの夏祭りの時間帯には居ない。朱音は相変わらず合宿中、つまり邪魔されずに神指さんとは行動出来る訳だ。――だが俺、よく考えて見るとこれは親好が深まっておかしな方向に進んでいく危険性もあるんだぞ。一体俺はどうすれば――


「あの奏芽さんどうされました?」

「ううん何でもない!」

「そうですか。なら奏芽さんの口からお兄様を夏祭りに誘って下さいませんか? 私平日中忙しくて」

「なんでわたしの口から? 神指さんの口から誘えばいいのに」

「えっ⁉ いや、それは、えっと……」


 言葉が詰まって出しにくいようだ。というか夏祭りに誘うぐらいだったら俺が『男』の時に言い出せば容易い物を、どうして『女』の俺に言って経由させなくてはならないのか。


「私、恥ずかしくって……」

「んん……それじゃ一緒に夏祭り行きたいっていう気持ち伝わらないじゃん。神指さん本人から直接言わないと……」

「そっ、そぅですよね! やっぱり……私自身から言わないと……駄目ですよね……」


 これは駄目そうだ。次に会った時に多分言ってくれない。これは神指さんに何のアドバイスをしたらいいのか。


「神指さん、あんまり意識しないで。普通に接して「夏祭り一緒に行きませんか?」って言うだけでいいと思うよ。多分お兄ちゃんオッケーって言うから」

「……普通に?」

「うん、普通に」


 神指さんはかなりの緊張状態だけど、なんとか揉みほぐして奏芽『男』とのデートぐらいは成立させたい。それは神指さんの口に掛かっている。自ら促しに行くとはかなり謎だけど、期待を裏切らせたく無いからだ。――二つの性別の使い訳はツラい。


「とりあえず、お兄様には月曜日に神社に来るようには言ってください。私いつまでも待ってますので」

「言っておく。……頑張ってね?」

「あ、葵。頑張りますっ」


 立ち上がって神指さんの家を後にする。手を振って見送られたけど、あの調子で大丈夫なのやらか。俺の問題なのに、逆に俺が緊張してきた。――月曜日は必ず来よう。





「ゲッ……どうしたの、奏芽。もうちょっと遅く帰ってくると思ってた」

「お母さん、家の中で煙草吸うの止めたんじゃないの」


 家に帰ったらお母さんがソファに座って煙草を吸っていたが俺が帰ってきたのを見て、急いでポケット灰皿に煙草を押し込んでいる。臭いが部屋中に付くのが嫌だと言ってたお母さんがその部屋の中で吸っていたのを目撃してしまった。


「外暑いからさ~、今だけ部屋の中で吸っちゃダメ……?」

「別にいいんだけどさ……そうだ、浴衣買ってもらえる? 浴衣っつーか、甚平じんべい?」

「甚平は家で着る物だから浴衣で合ってるよ。いいよ、隣町まで付き合ってあげる」

「ありがとう」


 たまにお母さんと外出するのも悪くない。もう支度は出来ていたので玄関を出て車庫に向かう。普段はお母さんが会社に出向くのに使っていて無い事が多いが、今回は休みという事で白の軽自動車が停車している。――世はやっぱり軽自動車らしい、母曰く。


「シートベルト付けた? 出発するよ」

「あい~」


 適当に相槌を噛まして車が出発する。

 久々の車に乗車とはいえお母さんの運転は安定していた。


「『男』で夏祭りに行くことになったの? 唯川奏芽くん」

「なんでフルネーム……まぁ、野暮っていうかね」

「野暮って言わないの。デートでしょ? 誰? 朱音ちゃん?」

「いや、朱音は合宿行ってるから」

「お~? 櫻見女の誰か? 知らないよ~後から朱音ちゃんに何言われても」

「別に言うつもりも無いからいいんだけどさ」


 誰とデートするとかでお母さんは随分と気になっているようだ。ついつい沢山の質問をしたがるのが親っていうものだ。でも俺にもプライベートというものがあるのだから突っ込んだ話はしてほしくないものだ。


「それで、下手にたぶらかしてゲットしちゃった訳?」

「そんな訳無いだろ。普通に接してお誘いが来ただけ」

「あんらっ。お誘いが来る程奏芽はイケメンだったかな?」

「どうかなー」

「あ……やっぱりたぶらかして」

「どうしてそうなる」


 本当にたぶらかした訳じゃないのだが、よくよく考えたら実質的にはそうなってしまう事に気付いてしまった。……神指さんには絶対にバレない嘘と言ったものか。――相変わらずこの性転換には困る事が多いな、常に人の気持ちというのを考えて行動しなきゃならないのだから。


「まぁまぁ、夏祭りに予定が出来ただけ。お母さんは良しとするけどね」

「はぁ――」


 相変わらずお母さんはしっかりしているのか、だらしがないのかが分からない。





 隣町のデパートまで来て夏限定で売っているであろう、メンズ向けの浴衣を見ている。

 見ているのだが……見ているのは俺だけだった。


「昔もお母さんは浴衣を来て彼氏とワイワイしてたけどねー。四十二にもなるとそうもいかないよね~」

「ママ四十二だったの⁉ 私は三十六かと思ってたー!」

「おー私はまだ若く見えるか! 今日はもうちょっとお買い物して帰ろうかな。……デザートとか」

「やったー!」


 レディース向けの浴衣を見て雑談しているニカエルとウチのお母さん。

 俺の買い物をしに来たはずなのにどうして向こうでお話し合いが決まってるのやらか。――本当だったら名胡桃さんと一緒に来て買い物をしてると思うが、俺が『男』の状態で名胡桃さんと服の買い物なんてした事がないからいくらファッションに強い名胡桃さんとはいえ選ぶのは大変だろう。……それとも綺麗にまとめてくれるのだろうか。


「奏芽決まった? ニカエルちゃんも決まったみたいだけど」

「はーっ⁉ アイツも決まったってどういう事⁉」

「いいじゃない、許嫁してるんだから嫁と一緒に行ったって」

「許嫁で「嫁」ってどういう事だよ!」


 そうこうグチグチお母さんと言い合ってたらニカエルが試着室から出てきて俺の下に向かってくる。


「……くそっ、結構可愛いじゃねぇか」

「やっぱりーじゃあママお願い♪」


 絶対に食べ物目当てだとは思うが致し方がない。

 結局一緒に付いて行く事にはなるのだから。





 買い物終了、食品コーナーを見てデザートを買い、また車に乗車している。ニカエルは楽しんだのか、後部座席で寝ている。――車内は涼しいだろうな。


「聞いてなかったけど、相手は誰なの?」

「相手ぇ~? 別に聞かなくたっていいだろ」

「お母さんとしては気になってるのよ。朱音ちゃん以外にも『女』の子の友達がいるなんてさ」

「そりゃ女子校通ってればいくらでも出来るでしょうに……」

「それで、誰なの?」

「――神指葵さんっていう人」

「へー、神社やってる人?」

「ん、よく知ってるね」

「そりゃ数十年も夏風町にいれば知ってるよ」

「まぁね……」


 夏風町の神社の数は三つ程だから名前を聞いてしまえば場所が何処だか分かるだろう。神指という名字も神社も珍しい方に入るから聞いてしまえば分かってしまうだろう。……俺はつい最近まで知らなかったが、理由があって海街の方にはあまり行かないからだ。お母さんは普段として休みの時には市場の方で買い物をしたりとかするから、神指神社というのも知っているのだろう。


「あそこに娘さんいたんだ……へぇ、そう」

「な、なんだよ……」


 赤信号で停止をしてお母さんは俺の顔をじっくりと見て不敵な笑みを浮かべている。俺にとってはその顔は凄く不安に感じる顔だ。


「あちらの家で変な事したり……とか」

「ばっ、馬鹿! そんな関係を崩すような事するわけ無いでしょ」

「関係を崩すどころか、逆に結ばれちゃったりとか」

「してないって。何で急に変な事考えるようになった⁉」

「別に? それだったらいいんだけど」


 安心して一息入れる。


「ワッ!」

「おわあっ⁉ ……びっくりさせるなよ」


 その後のお母さんも、家に帰るまで偶に不敵な笑みを浮かべては俺の気持ちをもて遊んでいた。そんなに邪魔されるような事お母さんにしていないのだけど……。夏祭りに何かしでかさないかと不安になってくるではないか。




          ※  ※  ※  ※




 八月十一日、月曜日――

 夏祭りまで残り六日――


「規模が大きくなって海の通りで夏祭りを行う? 商店の方は随分とお金がありますね」

「おまけに花火とか屋台が多く出すようにするって」


 昼飯後にニカエルが例のケーキ屋さんに行きたいと言い出して聞かなかったのでケーキを買い、店のテーブルでお姉さんと雑談をする。今話している事は今回の夏祭りが大規模になること、三十周年の感謝祭とかなんとやらで会費も色々と出してくれて「大きくやってくれ」とお願いが出たそうだ。――十六年夏風町に住んでてそんな事は初めてなのだがどういう風の吹き回しだ?


「まぁワタシもこの商店街のオサが何を考えてるのか分かんないけどさ、ウチの店も屋台出せるようになったから奏芽くんサクラ宜しくね~」

「サクラって……何を屋台で出すんですか?」

「ほら、前に試作で出したあのマカロン」

「……アレ、ですか」


 確かに前回に試作でマカロンを出してくれた事があったが俺は食べていなかった。でも腕に自身があるようだし、夏祭りに出せばウケはいいのでは? と勝手に俺は思っている。


「それでいくらぐらいで?」

「五個入りで三五〇円」

「あれ……無理して――」

「ないから。ちょっと高くしてる」

「それ俺だったから話聞けるものの、他の人には言っちゃ駄目ですよ……」

「まままま、でも焼きそばよりも女子はこっちに食いつくんじゃない?」

「確かに……」

「ね?」


 何故か上手く言いくるめられた気がするが、食べ物の料金策略なんていくらでも考えられるのだからこれでいいのだろう。一個七〇円だし、五〇〇円出しても一五〇円のお釣りでまた何か屋台で買い物出来ると考えてしまうからこの三〇〇と五〇円のマジックは恐ろしい。――このお姉さん意外と出来る。


「それで、また友達にケーキ買っとく?」

「あ、お願いします」


 お願いしますと言ったのが間違いで追加でケーキ三個と試作のマカロンを入れられた。五百玉と野口さんがお姉さんの下へと行った。


「おまけが単価七〇円のマカロンと一個三八〇円のケーキ買わされた」

「人聞き悪い、買わされたじゃなくてご購入致しました。でしょうよ、また来てね~♪」

「あ、保冷剤お願いできます?」

「あいよ~時間は?」

「……六時間位?」

「追加料金ね」


 ケーキ戦略って怖い。





 踏切を越えて右に行く、毎日が猛暑で何処を歩いてもジリジリと体力を奪われる。そんな中で保冷剤入りのケーキ箱と、クソ暑い中アイス屋に通いすぎてニカエル限定メニューの「エンジェルスペシャル」とやらも出来てしまって内容がカップの下にそれぞれ味が違う丸のアイスが二つと、その上にソフトクリームを乗せ、夏の果物が周りに配置されているまさにスペシャルなメニューになってしまった。常連になると恐ろしいのが出来る物だな。


「あー着いた。神指神社」


 相変わらず商店街で色々あったが、今回も目的の場所である神指神社に着いた。


「お昼は過ぎてるし、神指さんが冷や汁を食べてる事も無いだろうし、忙しくもないだろう……」

「時間ぐらい気にしなくたっていいのに」

「土曜日もそうだったし、色々と俺はタイミング悪いんだよ」

「まぁ私はいつもどおりベンチでゆっくりしてるから」


 そうしてくれるとありがたい。

 早速石段を上がる。


 ……神指さんがもし夏祭りの事を言い出さなかったら俺はなんて言えばいいのだろうか? やっぱり王道に「夏祭りどう?」なんて言ったら神指さんはそれで気が楽で嬉しいのだろうけど、せっかく奏芽『女』としてアドバイスを伝授させたのだから神指さんが帰るまでに実行はしてほしいものだ。そして二人で夏祭りを楽しむと――。石段を上がりながら思う。


 風が吹いて涼しい中、拝殿の前で相変わらず巫女服をなびかせて掃除をしている神指さんの姿があった。……平日中は常に居ると話していたが、こう連勤続きでも落ち着きはあるようだ。


「こんにちは――神指さん」

「お兄様……お待ちしてました」


 思わず息を飲んでしまった。ドジな部分しか見ていないせいか、こんなにも冷徹な神指さんを初めてみた。――アドバイスが効きすぎたか。


「これ、ケーキ貰ってくれる?」

「ありがとうございます。有難く頂きます」


 一糸乱れる事のない行動、ケーキの箱を両手で受け取った後は拝殿の影に置いておくようだ。


「今回保冷剤入れてあるから家に帰るまで長く持つよ」

「お気遣いまで……お夜食に頂きますね」

「うん、受け取ってもらえるとありがたいよ」

「はい」


 どうしたどうした。

 いつもの神指さんっぽくない。


「……じゃあ俺はこれで」

「はい……えっ⁉ あっ⁉」


 俺は帰ろうとする。意外な行動を取り、神指さんを困らせようと思ってこの帰る行動を取ったけど、さっきの冷徹な神指さんから面食らっていつもの神指さんに戻った。――流石にシナリオ通りじゃなかったら神指さんも困るわな。


「えっ、その、お兄様。は、ははは、話がありゅまして――わっ⁉」


 引き留めようと急いで俺に近づこうとしてか、下駄に足を引っ掛けて転びそうな所を俺は神指さんをキャッチする。


「おっと! 大丈夫?」

「だいじょう――わぁぁぁ⁉」


 顔が近かったからか神指さんの顔が真っ赤になって急にボルテージが上がったようだ。神指さんに想定外の事が一気に襲い掛かる!


「あああ、あのあのあの…………あれ? なんだっけ?」

「俺に何か用があるんじゃなかった?」

「そ、しょうでしゅ! わたしゅからはなしがありまして……」

「話って何? とりあえず神指さんの眼鏡ズレてるから直してあげる」

「う、うえぇ⁉」


 ズレている眼鏡を指で直してあげたらまた頭の中が爆発したようだ。目が回っていて状況が掴めていない。――困らせたくなるけど、そろそろ本心を聞かなくては。


「落ち着こう? 神指さん」

「は、はいぃ~」


 ベンチに座らせて顔真っ赤頭ボンボン目クルクル状態の神指さんの落ち着きを待つ。――少々やりすぎた感、俺の事が好きだから神指さんもこういう状態なのだろう。


「ふぅ――落ち着きました……ごめんなさい、取り乱して」

「大丈夫、それで話は?」

「はい……お話します……えっと、その。十七日に夏祭りありますよね?」

「あるね?」

「それで……一緒に、行きませ――」

「いいよ」

「だ、駄目ですよね……そうですよね」


 …………。


「――あれ? オッケー?」


 俺は手でグッドマークを作ってオッケーの合図を神指さんに送る。


「えええええ⁉ いいんですか⁉ こんな巫女三流の私と一緒に夏祭りなんて!」

「俺は全然いいけど、なんで?」

「なんでって……他にその、友達とかいないんですか」

「だって俺は神指さんと一緒に行きたいからオッケーなんだけど……」

「私と一緒に……ひゅぅぅぅ――」


 ベンチで横になって気絶してしまったようだ……。こんなに気が弱い人だとは思わなくて頭を掻く。神指さんのドジにも程がある。


 その後も神指さんの膝枕になって起き上がるのを待っていて、いざ神指さんが起き上がったら


「ま、まくらぁぁ⁉ お兄様、膝枕っていいものなんですか⁉ あああ、はうっ――」


 とか訳の分からない事を言ってまた気絶をしてしまった。……名胡桃さんの気絶とは違って一時的な物だから安心とはいえ連続して気絶するとは俺も思わなかった。

 ――本当に『女』の子というのは分かりやすい子ばかりだ。とりあえず、神指さんの口からデートのお誘いは聞けたから後は十七日を待つだけ……神指さん、楽しい一日にしましょうね。今はそう聞かせても無理そうだが。





「それじゃ、気をつけて――」

「はい、気をつけます。度々すみませんでした……」


 神指さんと別れて家に帰る。


「なんか……葵ちゃんて凄いね……」

「ああ――俺も今日凄いと思った」


 ニカエルはエンジェルスペシャルを食べ終わり、神指さんの行動について感想を述べる俺とニカエル。


「でもわざわざ葵ちゃんの口からお誘いの話を出そうとしたのはなんで?」

「なんでかって? 俺から言うより気持ちが入るじゃん? あっちから持ち出した話なんだから」

「そう……それで、妹設定どうするの?」

「ちゃんと考えてる。大丈夫だ」


 バラす時の事はしっかりと考えているから心配は要らない。なるべく驚かさないように、動揺させないようにと心掛けるつもりでいる。……相手が神指さんっていうのもあるかな。

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