22話 『男』一人二役
「まぁ、奏芽さん。『男』でも『女』でも奏芽さんだったんですね……」
「神指さん――⁉」
いつの間にか鎖で柱にグルグル巻きにされていて身動きが取れない。神指さんはいつもの巫女姿をして俺の前に立っている。
「今まで私を騙していたなんて、酷い事をしましたね?」
「い、いや別に! 騙してたなんて――あいたぁぁぁ⁉」
突然、巫女さまが持つ白いアレを神指さんが俺に対して打ち付けてきた。紙で出来ているはずなのに強烈な破裂音が太腿から響いた。
「かッ――ぐッ――」
「痛いですか? この弊は特別製で革で出来てるんです――だから打ち付けるとっ!」
「痛いぃぃ! いっいっ~ひひっ――」
打ち付けられた後の余韻が長く続く。
涙を流す程の痛みが何回も神指さんの手で打たれる。神指さんはこんなにも酷い仕打ちを考えるとはなんてお人だったんだ、この人に会ったのが運の尽きだった。……出会ってもっと神指さんに早く言ってれば良かった。
「さて――そろそろ本題に」
「はぁ……はぁ……ホン……ダイ……?」
痛みでかすれた目で神指さんの行動を見ると、道具箱から何かを取り出してこちらに持ってくる。……どうせこれを持ち出してきた所で俺に休息は無い。
「これで奏芽さんがどうなるか楽しみですね――」
「な、何を……?」
ギュイィィィィィ――
中心の物が高速に回転して、神指さんは何故か嬉しそうだった。
「大丈夫です、痛みは一瞬です。死にはしませんから」
「や、止めて神指さん――」
「全部、奏芽さんが悪いんですからね」
神指さんは勢いを付けてこっちにやってくる。完全に俺を殺る気で向かってきた。鎖を外そうとしても柱に長くグルグル巻きにされていて身動きが取れない。そもそも足を多くあの鞭みたいなので打ち付けられてボロボロだ。もう間もなく神指さんのその道具が俺の顔までやって来て無事じゃ済まなそうです。
「う、うわあああああああ――」
「――ああああああ⁉」
――夢、夢で良かった。クーラーが付いているのにさっきの夢で体中が汗だらけだ、頭から顎に掛けて汗が垂れる程に。頭に夢の印象が焼けて記憶に残っている。
「……は、はは。神指さんはそんな事する訳ないよな」
とはいいつつも、何故神指さんにバレたのかと夢だけど考えてしまう、その夢まで達するまでの経緯や行程が見えてこない。ただ単に打ち付けられているだけの夢。――俺は隠れM? って、そんな訳無いか。
壁の時計を見るとまだ今日は続いていた。そんなに長く寝た訳でも無く短くも無い、丁度夕飯前ぐらいに起きれた――けど俺を起こしてくれと頼んでおいたあのニカエルは何処に行った? アイツと俺は〈契約の結界〉によって俺がこの家にいる限りアイツもこの家から出れない。
「どうせ下に居るんだろ。飯だし、下に降りるか」
ベッドから立ち上がって一応太腿を確認する。――鞭の後も残ってないな、やっぱり夢だ。扉を開けて階段を下り、リビングの扉を開けた。
「あ、奏芽起きた?」
「ニカエル――」
床に座ってテレビを見ている。ソファがあるのだからそこに座ればいいと思うんだけど。
「奏芽起きたー? 夕飯はもうちょっと待ってね」
「お母さんもお帰り、夕飯ここで待つよ」
もう一度熱された廊下を歩くのは嫌なのでニカエルと一緒にテレビを見る。夏休みの初日に当たる七月下句のニカエルは俺の部屋で過ごす事が多かったが、スマホゲームに飽きてテレビのチャンネルを回す事が多くなった。俺の部屋のクーラーの性能が悪いのと、リビングには家庭用ゲーム機と最新のクーラーが付いてるからなぁ、夜は長く居れないとはいえ最高の環境が揃ってるここはニカエルにとっての天国だろう……ニカエルのこの場合は第二の天国か?
「今日の奏芽は寝ててうるさかったよ、どしたの?」
「結構悪い夢見ててな……」
「大丈夫?」
「今思い返すと吐き気がする」
真面目な人が狂喜乱舞してるのを見てると誰だって吐き気はするだろうな。名胡桃さんでも朱音でもそんな風になってて俺を打ち付けてたら言葉も失う。
「私が傍にいなかったばかりに――ごめんね」
「ニカエルのせいじゃないよ。俺の気持ちの問題だ」
ニカエルの頭を撫でる。それなりの反応を見せるから俺も撫でてて嫌な気分にならない――ニカエルが天使で良かった。
「ふたり~夕飯だよ、今日は肉安かったから生姜焼きね」
「「いただきまーす」」
八月四日、まだ夏休みは長い。
※ ※ ※ ※
相変わらず暑い外に出て神指神社を目指す。――昨日の夢に懲りずに来ると言う事はそんなに俺は気にしていないという身の構え方だ、そうあくまで後衛的。こうでもしなきゃ二度と神指さんとお話が出来なくなる訳でして。昨日は昨日、今日は今日。
「にーしーろーやーとっ……っていいか。そんな事しなくても」
途中で数えるのを止めて石段を上がりきる。
「あっ! 奏芽さん! 来てくれたんですね!」
「おっ……⁉ あ、どうも神指さん」
昨日の夢がやっぱり本人の前でフラッシュバックされてしまった。相当印象に残ってしまった夢で腰が引いた。
「……? 奏芽さんどうしたのですか?」
「い、いや何でもないよ? わたしは別に……」
神指さんが顔を傾けて俺の気持ちを詮索しようとしてるが、そんな神指さんの夢を見たなんて言えるはずがない。しかも内容が「鞭で叩かれてました」なんてもっと言えるはずがない。
という事で昨日言われた通り、奏芽お兄ちゃんに言われて来た事にした。つまり『女』の状態でここまで来た。神指さんも違和感持たずに接してくれている。
「ささ、何もない所ですけどゆっくりしてください」
「どうも――」
定位置のベンチに座ってゆったりとする。
相変わらず、神指さんの仕事は掃除だけのようだが、賽銭箱の中とかは回収をしないのだろうか。……見れば見るほど神指神社の不思議が見えてくる。常に神指さんがグルグルと掃除をするだけで、他に行動を見せようとしない。別に俺がいるからという話でも無いだろう。……間違いない、この神社暇だ。
「ふぅ……奏芽さんはよくお兄さんとお話するのですか?」
「えっ⁉ そんなに話はしないかなー。あっちも話はしないし」
「そうなんですか。一緒屋根の下なのに」
「まぁね……そういう物じゃない?」
実際俺は一人っ子で兄妹なんていうのは設定だ。相変わらず名胡桃さんや朱音には姿でバレた事が無い、つまり完璧に性は別になっている。まぁここで性転換をすれば話は大きく変わっていくのだが。
「それで、家のお兄さんの状態はどうなんですか?」
「ニヤけ顔で言われてもお兄ちゃんはなんとも……」
「何か秘密ぐらいはあるんじゃないんですか?」
「秘密ねぇ……」
別に秘密と言ってもそんな大きい秘密を持った事がない。
「私なら知ってるよー」
「うっ……! ニカエル~……」
ニカエルが口を神指さんの耳元に近づけて耳打ちする。俺自身が秘密を話さないからと言っても普段から付き添っているニカエルが話に行くなんてズルいじゃないのか……。
「……本当ですか? そんな秘密が……」
「本当だよ~。こんどお兄ちゃん来た時に言ってみたら~」
「ふふっ、ですってよ奏芽さん」
「…………」
一体ニカエルは何を話したんだ……。ややこしいかもしれないが神指さんが俺に関する秘密を話しても俺に返ってくるのだから実質上、どう考えても秘密にはならない。というかニカエルも上手く「お兄ちゃん」って返して俺の名前を出さないようにしていたな。……この神指さんとの関係が面倒になってきた……。
朝の散歩と題して神指神社まで来ただけの事なので家に帰っていた。
「本当にあの会話だけで良かったの? 奏芽」
「別に学校で会ういつもどおりの『女』の子の会話をしただけだけど? それよりニカエルは何を言ったのさ」
「別に教えな~い。駅のアイスクリーム買って来てもいい?」
「はぁ――行って来い」
五百円玉を渡してニカエルは行った。俺はその姿を確認してから駅のベンチに座って人間観察をする。――夏休みだからなのか、小学生達や中学生らしき人達が駅に乗り込んでいる。やっぱり夏風町には何も無いから隣町に移動してしまうのだろうか。こうして海街とかの砂浜で楽しんでもいいような町なのに、彼達はどうしても近代的な場所で遊びたいようだ。……暑い中海で遊べ海で! 俺は一回遊んだからもう遊ぶ事はないが。
「ここで何をしているんですか? 貴方は」
「……墨俣さん。お出かけですか? わたしは友達を待ってるだけで」
「有紫亜が貴方に一言話しかけたいと言ってきただけで私は特に用がありません」
「こんにちは……」
墨俣さんの背中からひょっこりと顔を出してきた有紫亜。相変わらず墨俣さんにくっついて移動しているようだ。俺は付かず離れずの関係がちょっと羨ましいと思った、朱音とは常に一緒の関係ではないからな。
「こんにちは、有紫亜」
「……呼び捨てですか?」
「えっ⁉」
険悪な顔を見せ、言葉が思いっきり耳に刺さる。
目の前で襲ってきた小動物を有紫亜を守るためだけに殺すような目をしている。
「詠月、違うの。私が呼び捨てにしていいって言ったの」
「……有紫亜が? そう、ならいいの」
その有紫亜の言葉が無かったら多分俺は死んでいた。
――随分と墨俣さんの手の動きが怪しかったが、まさかぶっ刺しに来るとかそういう戦慄が走るような出来事にはならないであろうな? さっき見た目は相当「殺す」という目を見せていたから何をしでかすか分からない。
「それじゃ、私達は買い物を楽しむので――よい夏休みを」
「ど、どうも……そちらもよい夏休みをぉ~……」
駅の中へと入っていった。
「どうだった? 楽しめた?」
一部始終を見ていたのか、ニカエルが丁度いいタイミングでこっちに帰ってきた。
「全然、むしろヒヤヒヤもんだった……」
「そっか、大丈夫だった?」
「一時的だから……」
と言ってもあの目は忘れられなかった。――昨日といい今日といい脳裏に焼き付く出来事が多すぎる。昨日は夢の中で、今日は現実で。
「帰ろっか、奏芽」
「…………」
首を縦に動かして立ち上がる。
疲労が溜まるばかりだ。
※ ※ ※ ※
八月六日――
神指神社に通い詰める。相変わらず大した用事はないのだが、昨日の秘密とやらを聞きたくて暑い中を歩いてまた辿り着いた、この神社に。
「……どうも、神指さん」
「あ、奏芽のお兄様」
遂に名称が奏芽のお兄さんに変わってしまった。
ただ俺はペコペコと礼をするだけだった。
「あのー昨日奏芽さんから聞いたんですけど……好きなんですよね?」
御札所から何かを持ち出して来るようだ。一体ニカエルは何を言ったのか証明されるようだ。
「これ」
「これは……」
俺の好きなトルティーヤだった。夏はチキンとタルタルソースの入ったサッパリとしたのが好きだ。なるほど、ニカエルはこの事を言ってくれたのか。――もっと酷い秘密をバラしているかと思ったけど、案外まともな秘密で良かった、というよりこれは好きな物を言ってるだけか。
「私、朝から作ってみたんですけど――良かったら」
「ありがとう、こんなに一杯」
一本と言わず五本も作ってくるとは本気が見える。でも朝からこんなには食べきれないから今だけ一本食べて他はお昼に食べるとしよう。ベンチに座って一本を食べようとすると――
「あのー、そんな期待されても困るんですけど……」
「ご、ごめんなさい――人に作った事あんまり無くて、感想だけ」
隣に座ってまで期待をされても俺も反応に困ってしまう。
……大きく口を開けて食べる。
「うん、美味しい。神指さん料理得意なんだね」
「いえっ……そんな……得意じゃ」
耳が赤くなる神指さん、その後はメガネを袖で拭いたり箒をバタンと持ってるのに倒したり何かと挙動不審。……こんなに神指さんって分かりやすかったっけ?
「ふぅ……味どうでした?」
「うん? ……美味しかったよ」
「そうですかぁ」
隣に座ってからまた味の答えを聞いてきてまた仕事に戻った。
それからはぐるり~と回ってからこっちに帰ってきて「味どうでした?」と聞いてきては顔がダレている。――こんなの朱音でもニカエルでも見たことがないぞ。
「……じゃあ帰るかな。トルティーヤありがとう」
「いえいえ、また食べに来て下さい」
――だいぶ来る趣旨が変わってしまった、トルティーヤは好きだけどそんな毎日食べたいという訳でもないんだけど……。
一食一本でも二本残りそうだったのでその残り二本はニカエルが食べた。それぞれに味が変わっていて工夫がなっていた。普段食べているのは裏にあるトルティーヤ屋さんのドッグを食べているだけで、こんなに色とりどりのトルティーヤを食べた事が無い。夏はダレることがあるから、こうして一日ごとに違う味を提供あれると実に嬉しい。
「奏芽、ご飯食べに行こ。ラーメン」
「ラーメンか……」
暑いものを食べない。とは思っていたけど、冬にアイスが食べたくなる現象と一緒でやっぱり夏でも食べたくなるものはある。……ラーメンだ。
「ニカエル、ラーメンよりも俺は今つけ麺って感じだ。どう?」
「美味しいんだったらなんでもいいよ」
「はいはい……じゃああそこだな」
夏風町はラーメン街ではないが、ポツポツと人気店がある。ブラブラと夏風町を歩いたら見つかる位のレベルではあるが、どこも美味しいお店ばかりなのでニカエルのお口には全部合うだろう。
「今日は行くラーメン屋さんはどんなお店?」
「そうだなー、魚介ではあるけど珍しくラーメンとつけ麺が用意されているお店だ」
「魚介~……でへへ」
よだれを垂らして汚いニカエル、久々の汚天使ニカエル。――どうしたらただの言葉でそんなに想像が出来てよだれが出るのやらか。
「お前は何処まで料理を知ってるのやらか」
「料理? 料理だったら世界中の物を知ってるけど」
「……本当にか? 俺が知ってそうなので何かあるか?」
「うーんとね、パンコントマテ」
「……パンコントマテ?」
パンコント・マテなのか、パン・コントマテというのか言葉の切り方が分からない。
「知らないかぁ~知らないよねぇ~」
「あ、そんな事言うと今日のラーメンは家でラーメンになるぞ」
「ごめんって~」
ギュッと二の腕を掴んでくる、こういう時だけ可愛い顔を見せてくるなんてニカエルは憎いやつだ。でも嫌いにはなれない。ラーメンの為にその顔を見せているのか、もしくは――と言ったところか。ここで撫でると超嬉しそうな顔をする。やっぱり俺の事が好きなのだろうか。……こう見えても彼女を予定してる人がいるから止めては欲しいんだが。
「あぁ――」
店員さんが声にならない声で唖然とする。俺はもう日常的に見ているから驚かないが、ニカエルのおかわりが四杯目に入ったからだ。太麺で魚介系だからそれは美味しいだろうな。――財布は薄くなるけど。
「こんにちは~……」
「いらっしゃいませ――どうぞこちらの席に」
「ど、どうも」
隣に女性が座ってきた。
ニカエルのような何でも食う人以外にここのお店に女性が入ってくるとは――
「んぐっ⁉ ごほっごほっ……」
「――⁉」
「し、失礼……」
水を一杯飲んで気持ちを落ち着かせる。まさか松前みちる先生が隣の席に座ってくるとは思わないし、脇が出る程の短い服を来ているとも思っていなかったのだ。先生のプライベートがここで見れてしまうとはこの唯川奏芽『男』ならではの話題になった。
――しかし、横から見ても例の『きゅうじゅうご』は大きいな。そんな姿でラーメンを食べるのは逆に気になる。というかどうしてラーメンなのだろうか、別に問題という訳では無いがこんな美人さんが蒸し暑いこの時にラーメンを食べるという和了に至ったのかが気になる。……うーん、話しかけたい所だけどこんな『男』に話す権利はあるのだろうか?
「今日お暑いですねぇ~。でもこういう時にでも食べたくなっちゃうんですよね」
「え、ええ――美味しいですもんね」
向こうから話しかけられた始末。
「私、この町のラーメン屋さんは色々行ってるんですけど、海街にあるとんこつラーメン屋さんが美味しいかなぁって」
「あそこも美味しいですよね――ラーメン好きなんですか?」
「はい、私学校の先生やってるんですけど帰りによく食べに行くんです」
「ヘーセンセイヤッテルンダー」
まだラーメンも食べてないみちる先生が一番汗掻いているんだけど走ってきたのだろうか。そんなにラーメンに執着心を持ってるとは思っていなかった。他にも女性らしい食べ物はあるのに。……と言っても俺が思っているだけで、らしい物というのは無い。
「奏芽、行こっ」
「あ、うん――それじゃ失礼しま~す」
「はい」
奏芽と言葉を聞いて俺はちょっとマズいと思ったが、別にみちる先生は気にもしていなかったようだ。天然なみちる先生で良かったかもしれない。そそくさとラーメン屋さんを後にした。……俺はみちる先生に対して塩対応してしまったかもだが、ラーメン屋から出てしまったらもう関係なし。普段スーツ姿しか見ていない俺は私服を着たみちる先生を見て地味に嬉しかった。……もしあのラーメン屋に奏芽『女』で入ったら敬遠して入ってこない可能性があり、あの姿を見れなかったかも。――『きゅうじゅうご』恐るべし。
※ ※ ※ ※
「おお、おぅ――ニカエル折れる」
「それぐらい強く押さないとマッサージじゃないよ」
散歩の疲れを夜にニカエルに癒やして貰っている。
「奏芽の夏休み、何かイベントが少ないね」
「うるさい――あだだっ」
ピンポイントに指押しされて声が出る。別に俺はイベントが欲しくて町を出歩いている訳じゃないが、イベントというよりトラブルが勝手にこっちにやって来る。――神指さんの件は俺から来てる訳だけど、他はトラブルだ。
「奏芽ー入るよー。ってマッサージ中? 後でやってもらおうかな」
「お母さん……どうしたの?」
「これ、朱音ちゃんと遊びに行ってきたら」
「朱音と……?」
チラシを渡された。――夏祭り? ああ、毎年恒例の夏祭りか。
俺は行くべきかなぁ。これは商店街の方でやるのだが、誘う相手よりも多分誘われる相手が多いと思われる。
「まぁ、奏芽には朱音ちゃん以外とは縁が無さそうだし。家でゆっくりしてもいいし」
「俺にはちゃんと友達は居るぞ……いたたっ」
またピンポイントに指押し。
その姿を見てお母さんが嬉しそうに見る。
「まぁ夏祭りはちゃんと行きなさいな。ニカエルちゃんお願いねー……小遣いありで」
「は~いっ」
ニカエルはお母さんの後をついて行ってしまった。――小遣いありってどうせニカエルは俺に支払いを全部任せている訳だからそのお金を使う意義が無いはず。……どうせ食べ物に使うんだろうけど、千円ぐらいじゃ間に合わせにもならない。
キリリリリ――
鈴虫達が外で合唱をしている。一夏だけの静かな環境でしか勝負出来ない鈴虫達も恋愛で忙しいようだ。……まだまだ夏は続く。八月の三十一日まで続くから今は八月六日、残りは二十五日……まだまだ夏は続く。俺は一足先に寝させてもらう。




