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この中に『男』が一人います!  作者: TASH/空野輝
第二章 堂ノ庭朱音
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20話 『男』と『女』の二人三脚道

 事の一つが終わった後の朱音は防波堤でガックリと腰が抜けてしまって動けないと言われて俺がおんぶして帰っている所だ。遊び疲れている所で重い朱音をおんぶする事になるとは思わなかった。荷物は全部ニカエルに任せて重い一人を背負っている。


「お前を背負うなんて初めてだな。全く――」

「色々ごめんね……もうガクガクで」

「しかし重いな。何を食べたら子供ん時より大きくなるんだよ」

「し、知らないよ……」


 少しでもなだめてあげようと気を引かせようとするが、対して効果がなく声を詰まらせてまた泣きそうだ。――そもそもこれは誰が原因なのかと言われると、行動した朱音なのか……それとも命令を了解してキスした俺なのか。まあどうせ朱音は俺が命令に従わないだろうが、キスしてるだろうが朱音は泣いていただろう。でも気持ちが頭の中でグルグルしているのは俺も一緒だ、どうしてキスなんて求めたのやらか。


「ねぇ……カナちゃん?」

「ん? どうした?」

「……付き合わない?」

「キスした後にそんな事言われるとか……」

「駄目なの……?」


 ひっくひっくとまた涙が零れそうだ。俺はそんな事を言われてどうすればいいのやらか。


「朱音、卒業した時にまたその言葉をくれないか?」

「……え?」


 朱音の嗚咽が止まった。


「俺は今、櫻見女に通うと同時にある条件が課せられててな。その条件を持って朱音と付き合ってると絶対にお前も気持ち的に損するし嫉妬もするだろうし――だから保留っていう考え」

「恋に保留なんて無いよカナちゃん……」

「んん――だからさ、約束してくれないか? 卒業する時に必ず……さ」


 朱音は俺のシャツをギュッと握って頭を背中に付ける。


「いつもカナちゃんは酷いんだから……」

「悪い」

「謝ってばっかり……」

「悪いってば」

「もう……奏芽の馬鹿」

「…………」


 俺は確かに酷い、『男』というのをバラす度に誰かを裏切っている事にもなるし、それと同時に唯川奏芽『男』として廃っている。


「命令だよ……これも命令」

「何回俺に命令してるんだよ。……じゃあ俺から命令する」

「……何の命令をするの?」


 俺は息を深く吸って――


「また明日から元気な朱音を見せてくれ。俺もなるべく意識したくない事が多いから」

「もー……カナちゃんは酷いね、やっぱり」

「何度でも言え」


 やっと朱音が笑ってくれた。幼馴染に意識したくないとは言ったものの、やっぱり好きと伝えて保留にされる悲壮感は深い。――今だけは答えを待って欲しい。『男』として見苦しいかもしれないが、それは朱音を傷つけたくない一心としての保留だ。……俺に都合がいいだけ、と言われたら反論は出来ない。


「今日、カナちゃんの家に泊まってもいい?」

「泊まってくれ。ニカエルも喜ぶだろうし」


 ピローン♪ 今まで黙ってたスマホがタイミングよく鳴った。ニカエルからの着信で「オッケー」という事だろう。一人泊まろうが二人泊まろうが俺は問題ない、また俺は布団で寝るだけだから。


「今日こそ――一緒にお風呂入ろっか?」

「おいおい、幼馴染同士でお風呂入る事なんて滅多なんだぞ。そんな貴重な経験を何度もしてもいいのか?」

「め、命令だから!」

「はぁ、アホ」


 結局泊まるってなるとこういう事が起きるのか。




          ※  ※  ※  ※




 このお風呂の戸を開けたら朱音が待っている――と信じてすこ~しずつ開けて見てみると、お風呂というのは何かとふざけた場であるという事が分かった。


「「いらっしゃ~い、カーナちゃん」」

「どうして二人でいるんだよ――」


 どうして浴槽にニカエルと朱音が仲良く入っているのやらか。スマホの中にいるのかと思ったらこっちにいるんだからどうりで部屋も静かだ。――この浴槽は三人入れる程余裕は無いんだけど。


「どうしてカナちゃん『女』の子の姿?」

「直接『男』で見たらわたしは恥ずかしいもん……嫌だぁ」

「まぁカナちゃんはカナちゃんだから、ねー?」

「ネー♪」


 お前らは一体何処で仲良くなったんだ……。そんな光景は一こまも無いし見たことも無いのだが精々、光景で言ったら寿司屋でバクバクと寿司を食べて二人がキラキラした目をしてる一齣ぐらいか。

 桶で水をすくって体に掛けて浴槽に入るスペースを探す。


「わたしは、端だな」

「いいや? カナちゃんはここ」


 ニカエルと朱音が同時に動いて真ん中に一人分入る余裕が出来る。……俺は本物の『女』の子に挟まれる程の器があるかどうかを試されているのか? いくら性別が今一緒だとしても、この真ん中に入る勇気はひとつまみぐらいしか無い。大勢が喜ぶシーンではあるが、事実この場面に出会ったら身動き取れない――そう、この浴槽に入ったらまさに身動きが取れなくなるだろう。


「どうしたのカナちゃん?」

「入ればぁ~、幸せ~♪」

「…………」


 俺はその幸せを求めてそのスペースに飛び込んだ。やっぱり溢れ出る"快楽"には勝てないのだ、『男』の状態でも『女』の状態でも。


「三人だと狭いな――」

「足と足がもつれちゃうね」


 左右の二人は少し自由が効くだろうけど、真ん中に挟まれる俺は動くと二人の肌が俺の肌と擦れる。少しでも触れない様に動きを止めているが、二人が動くからスリスリと肌が擦れ合う。「んっ……」とか二人がそれなりに嬉しそうな顔をするからまた不気味だ。……もう早く出たい俺は、部屋に帰りたい。


「そういえばー、朱音ちゃんは大きいよねー」


 ニカエルは朱音のπを見る。確かに浮くほど大きい。


「そういうニカエルちゃんだって、それなりじゃない」


 ニカエルは朱音ほど大きくは無いが身長なりに合う大きさではあると思う。


「「でも――」」


 二人は俺のπを見る。


「見ないでよ……見ないで……」

「カナちゃん目のやりどころが無いねっ」


「どっちのを触ってみたいの~」

「なんでそういう話になるの……」


 徐々に身が小さくなっていく。お湯で身が締まっていくカニやカキの気持ちがこういう感じなのだろうな、周りがやはんぺんで俺だけがそういう海鮮物。水を吸うどころか、出汁になっていく。そうやって吸収されていくのだ、ニカエルはんぺんと朱音麸アカネフに。俺がしじみだったら朱音達はやっぱり味噌なのだろうな。


「おー、美女三人でお風呂ー? みんな仲が良いんだねー」


 洗面所から聞こえたのは俺のお母さんだった。――俺は相変わらずお母さんに『女』になれるのをバラしたというのに声にビビった。どうして慣れないのだか。


「はーい、奏芽ママさーん。奏芽のおっぱいだけが小さいでーす」

「わっ、朱音馬鹿っ! お母さん気にしなくていいからーとっとと出て!」

「別にお母さんは気にしてないからー。……牛乳飲ませないとね……」


 やっぱり気にしてるんじゃないか……。


「はぁ――ニカエル、一回試しで。試しでさ、俺の胸を大きくしてくれない?」

「やーだー、そもそも私の権限じゃないしー」

「権限ってなんだよ……」

「サクシャー」


 サクシャーってなんなんだ。何がともあれ、一つ分かったのが……やっぱり俺の胸はAAカップで固定されたまま、Aが一個減る事も無く、Bになる事も無し。二桁目の数字が8になることもなし。

 つまり絶望だ、絶壁と化したこの胸に膨らむ希望は無くなった。


「はーぁ、いつも俺の胸はネタにされるなぁ……」

「よしよし……小さいカナちゃんや……」

「お前はおばあちゃんか」


 チョップを喰らわせたくても、両手は二人の手によって封じられていて手が出なかった。――本当、いつからこいつらは仲良くなったんだ。





「わあああああああ、サンピーッ! 奏芽サンピーッ! 一人が奏芽の頭に乗って一人が竿を――」

「何でそんなに興奮してるんだよ! 俺が『男』に戻った瞬間に!」


 俺がニカエルの口を止めていなかったら何処までワードを言い続けるのかが不安になっていく。

 ゆっくりと閉ざした手を開くと――


「女体と女体が合わさってその間に竿を……」

「やっぱり駄目だ。誰かガムテープ持ってきてー」


 口をまた押さえる。そのやり取りを見てベッドに座っていた朱音は笑っていた。誰だってこんなシモを言う天使がいたら笑うだろう。――これも偶に本屋に行く十八禁コーナーをニカエルが興味本意に入ってシモ言葉を持ってくるんだから厄介。天使というのはこんなのばっかりなのか。


「それじゃ電気消すぞー、寝る準備はいいかー?」


 リモコンを取り出して皆の様子をみる。朱音も中に潜り、ニカエルはこちらをじっと見ている。


「……はい、消すよー」


 ピッとボタンを押して真っ暗にする。俺も布団に戻ってニカエルの横で寝る。


「むー……カナちゃんこっち来てよ、命令ー」

「はいはい」


 俺は立ち上がって朱音の横に入る。入ったと同時に中で手を繋ぐ……まだ付き合ってる訳じゃないんだからこういう行動は控えて欲しい物だが。――ニカエルが、ニカエルがデーモンみたいな顔になってる、コイツ堕天しやがった。朱音が幸せな顔をしてる中、堕天したニカエルは暗闇の中で顔を顰め、犬歯がいつも以上に飛び出ている。


「ウウぅ、がおー」


 ああ、これ多分。ただの犬だ、堕天ならぬ堕"犬"。気にせずにおやすみなさい。




          ※  ※  ※  ※




 朝はスッと起きれた。足も絡まれず手も絡まれず、簡単に腰を上げられた。

 ――朱音は制服を取りに行ってもう部活に向かっているのだろう、横にはいなかった。……一方でニカエルはまだ寝ていた、まーた足で起こさねばならんのか。


「おーい、ニッ……ガッッ」


 一瞬何が起こったのか分からなかったが、足を掴まれて持ち上げられサソリ固めに以降していた。――久々にプロレス技喰らったなー俺。素早い動きが出来るほどに体が目覚めてるんだったら俺を起こしてくれよ。


「ねぇ? 奏芽、このまま私が腰を降ろすとね――」

「……ッ⁉」


 背骨が限度を越えて曲がる。


「やっ⁉ 止めろッ!」


 この声を聞いてニカエルは手を離してくれた。後もう少し腰を下ろされたら骨折していたかもしれない。毎回毎回ルール無用でキツく締め上げられるし、これが天使のキツイ所。天使の武器は暴力、神が見ていたら怒られるぞ絶対に。


「そ、それで――朱音は……?」

「朱音ちゃん? 朝早くに出ていったよ」

「ああそう」


 俺が思っていた通りに居なかったからそれ以上は聞かなかった。

 体を伸ばして、スマホを持ち出して〈ヤサニク〉に発信して『女』に転換する。オーバーブラウスを着てチェックのスカートを履いてヘアクリップを挟む。


「よいしょっと……ニカエル行くぞ」

「はーい」


 ニカエルは小さくなりスマホの中に入っていく。ドアを開いて玄関まで向かう。





 今日もガヤガヤとした教室。その中でも名胡桃さんは読書をしながら隣の子の会話を静かに聞き、墨俣さんはスマホを触って何かとやり取りをしていて、その中でも本当に静かな人もいる。これでもなぜガヤガヤかと言うと、半端ない朱音の声量のせいだろう。


「カナちゃんはー、暇そうに待つけど何でそんな待ち方をするのー?」

「わたしはただ単に俯いて寝てるだけじゃん、邪魔しないで」

「もー、カーナーちゃーん」


 体を揺らしてくるんじゃない。相変わらず俺は誰かに睡眠の邪魔をしてくるな。


「はーい、み、皆おはようー」


 みちる先生が入ってきた……これでようやく全体が静かになる。が、これで俺の貴重な睡眠時間も終わる。朱音に邪魔されて睡眠時間もへったくれも無いんだが、学校に来てる以上は寝るなんていう動作は要らない物になっているのだから仕方がない。俺もこの重い背中を上げる事にしよう。


「もう六月中旬で夏休みが、近づいていますけど、それまではシッカリと体調管理をしてくださいねー」


 みちる先生は座り、皆の様子を見て出席簿を書き一礼をして教室を出る。他以上に長く無いのはいいのだが、結局授業に入るまでの時間が短いから俺に寝るという行動が出来ないのだ。……この数週間は何かと疲れていて、寝たい所なんだけど……。


「またカナちゃん伏せてるー、どんだけ眠いの?」

「うるさいな――誰だって眠くなるの」

「あたしは全然眠くないよ? カナちゃんと同じ時間に寝てたし、何せ一緒に寝てたじゃん」


「ちょっとその話、聞き捨てならないですね」


 この言葉を聞いて名胡桃さんがやってきた。――あ、これ多分俺が思うに修羅場っていうヤツか? 俺の立場が危うくなる。


「んー? どうしたのシロちん」

「昨日何をしたのですか? メイカクに、セイカクに、テキカクに、教えていただけませんか?」


 名胡桃さんは朱音の手を掴み、凄い顔を真赤にしている。やっぱり本を読んでいる人は創造力遥かになっているのだろうか、それとも朱音の経験が知りたいのか……もしくは嫉妬しているのかのどれかだろう。


「二回目なんだけどー」

「ニカイメ? 奏芽さん、貴方も一緒に来てもらいませんか? 女子トイレに!」

「えっ⁉ ちょっと待って、これから授業が始まるんだけど――」

「もう授業一個分ぐらい暇を貰ったって単位は落ちません、朱音さん奏芽さん、行きましょ」

「うん」

「はーっ⁉ 朱音、お前も賛同してるんじゃないよ。そんな話はお昼でもいいんじゃないの?」

「いいえ、私は気になったので今がいいんです……それで何をしたのですか?」


 名胡桃さんに手を引っ張られて俺もトイレに連れ拐われた。


「おいーす……おい、名胡桃、堂ノ庭、唯川。どうしたんだ?」

「これからトイレです。三人一緒に」

「おー、直ぐ帰ってこい」


 何先生も違和感を感じないの⁉ どうしたんだ、この超無法地帯は⁉ ちょっと、誰か助けてっ、お願い助けてーッ⁉





「まぁ、穏便に終わって……無いですよね? 一日目は」


 結局、廊下でみちる先生に見つかって教室に戻され俺達は話もする事なく昼休みまで引っ張られた。その授業の途中は名胡桃さんは集中出来る事なく頭に湯気が上がっていた事が印象。一方で朱音はと言うと授業内容をノートにも書き写さず真剣な眼差しで笑窪を作りポニーテールが左右に凄い揺れていたのが印象。それで俺は昼休みに何が起こるのかと不安で猫背になっていた。


「一日目は事故だよ、あたしが勝手に脱いじゃってて」

「どうして脱いでいるんですか」

「どうしてだろう……ね? カナちゃん」

「わたしに答えを求めないでくれる。というかそもそも朱音の寝相が悪いだけじゃんそれ」

「まぁ――何あれ、二日目も一日目も穏便だった訳ですね?」

「別に変なことしてないから。もー、シロちんは考えすぎ」


 なんとか俺の罪状認否。


「それでお風呂――」

「お風呂?」

「一緒に入った事とか?」

「一緒に……? さて、奏芽さん。これは事故じゃありませんよね?」


 一難さってまた一難。朱音は相変わらず余計な事しか言わない。


「ほら、その――ここじゃ深く言えないけど『女』の子同士でちゃんと入ったから」

「そう……ですか、なら良いとでも言えませんけど、『女』の子同士で入っているのなら仕方ありません」


 胸を撫で下ろした。

 これにてこの六月も穏便に終わる。ずっと心残りになると言えばこれが条件達成にならない事だけで、後は全部丸く収まった事で済んだ。これで……本当に二学期まで俺は普通の生活に戻れるという事だな。朱音と会う時間が多かったからか、名胡桃さん以上に時間を注いだ感じがする、でもこれが幼馴染との一線を……いや、二線三線を越えた今までに見えてこなかった部分を見た。これが『女』という生活なのだなと思った。


「まぁ、そうだね。『女』同士の幼馴染だっているんだから、普通なんだよね」

「お風呂に一緒に入るのって中々ないと思うよカナちゃん、だってあたしなんだから入れたような物だしー」

「はぁ――」




          ※  ※  ※  ※




「それじゃ、じゃーねーシロちーん」

「はい、また明日」


 いつもの場所で別れる。俺も手を振って帰り道を通る。


「……あれ何?」


 朱音が指差した所を見ると電柱の傍に不審なダンボールが見える。帰り道というのは常にイベントが起こりやすいステージであり、こうして不思議な物を見ると足が止まる。


「カナちゃん爆弾とかだったらどうする? それでも中を見るー?」

「別にそんな危ない物じゃないだろ。それからこんなのは大体ゴミか何かで――っておい、中を勝手に開けるな」

「わー可愛い。猫だ―」


 朱音が持ち上げて小さな猫はニャーと鳴く。


「やれやれ、捨て猫か……」

「可愛いなぁー……でも誰が捨ててったんだろう」


 ダンボールの蓋には「拾ってあげて下さい」と書いてあるだけだった。


「――で、カナちゃんどうする? この子猫ちゃんは」

「え? わたしはどうする事も出来ないし……もう飼いたくないよ」

「あ、そっか……」


 俺の一件は朱音も知っている。ナーコの事だ。もう一度あんな姿がこの猫にも起こると思うと俺も次の猫を飼う事に躊躇してしまうし、第一俺のお母さんがどう思うか……。


「置いて、置いてくれ朱音。わたしはもう猫に興味も無いし、飼う力も時間もない」


 そう言ってもまだ猫を持ち上げてその場で座っている朱音を置いて行こうとする。


「……ねぇ、カナちゃんはそうやってまだ逃げてるの?」

「おい、逃げてる訳じゃないよ。もう責任が持てないってだけだ」

「ちゃんとカナちゃんはナーコの事を最後まで見守ってたんでしょ? そんな経験があるのにこの子猫をほっといて行こうとするの? 生き物を見殺しにするカナちゃんなんておかしいよ」

「…………」


 スマホを開いて電話を掛ける。


「あーお母さん? わたし、猫拾いそうなんだけど飼ってもいい? ――うん、うん。……そっか。いや? 朱音に悟られちゃってさ、別に面倒って訳じゃないけど……お母さんはいいんだね? ……確かに日中は誰も居ないから不安にはなるけど――ご飯は一日二食でも慣れさせれば大丈夫? ああそう……分かった」


 着信を切る。そして深くため息。また朱音と子猫の傍まで寄っていく。


「カナちゃん?」

「全く、全く全く。――今日からお前は俺の家族だ」


 朱音も微笑んで俺にその子猫を渡す。そっと子猫を掴んで顔を見る。――元気な猫だなお前は。


「やっぱりカナちゃんはカナちゃんで馬鹿だね」

「べ、別にわたしは一人で考え事なんてしてないよ」

「ははっ、バーカ、バーカ奏芽!」

「うるさいなっ! ややアホ!」


 この子猫のお陰で俺はまた昔みたいに戻れる気がしていた。小学校から中学校まで何から何まで一緒に遊んでいたあの頃みたいに……。朱音とはこれからも一緒だ。……朱音には感謝しなくてはならない事が多すぎて困る。


「あ、そういえば子猫ちゃんとはキスしないでよ? 二回目も三回目も、四回目もキスしてもらうのはあたしなんだから」

「はいはい――カノジョ(仮)さんよ」


 半ば強制手を繋がされて家まで一緒に帰った。

 ……あの頃のように。

 過去と今を交えた奏芽と朱音の甘酸っぱい青春を書いてみましたが如何だったでしょうか? 皆様にも幼馴染というのは居ると思いますが、僕には小学校二年生の頃に引っ越しと、小学校六年生の頃に引っ越し、中学校は終えて高校の時にまた引っ越しを加えたのでそんな幼馴染と言える人が居ません。精々四年もしくは五年程の付き合いがある友人しか居ません。それが幼馴染と言われるとまぁ含まれるかもしれませんが、僕個人としては一〇年以上で今も付き合いをしている人達が幼馴染だと思っています、という事はやはり奏芽と朱音という事になりますね。

 ……そんな複雑な思いをしながら書いたのが今回堂ノ庭朱音編です。知っているからこそのシリアスな部分と、突然嫌いと言われまた好きと言われ困る奏芽の悩み等を自分ながらに細かい事を大きく書いてみました。

 でもその逆、幼馴染同士でのドキドキするようなのを常に継続させるのも大変でした、何せ誰もが経験が無さそうな事を書くっていうのが僕にとっての大変で、ある意味この章は意欲の塊だったかもしれません(笑)。お風呂やら東京やら海やら、中々幼馴染同士で行けそうで行けない場所を書く。そしてスポーツマンシップな朱音のバランスと、それなりな奏芽のバランスというのが上手く釣り合ったと。


 ……さて、同じく番外と暇があれば戯ノ章の二弾を書くと思います。ネクストヒントは、出てきた登場人物の中で三分の一ですね。……土曜日といえば、よく会う人がいましたね。

 それでは、次回の更新を楽しみに待っていて下さい。ありがとうございました!

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