EX‐1 耳掻きの好きな天使さま
ある日の下校日に耳の中が痒くなった。理由が分からないけど小指で掻き出そうとしたり擦ったりするけどいつものようにいかない。――これはムカつく、何かを差し込んでやろうかとも思ったけどシャー芯で鼓膜を破るような事をして大事を取ったらこれはこれでマズいので今日は耳掻きをする事にしよう。商店街のドラッグストアで耳掻きを買ってきた所だ。
ドラッグストアの袋をぶら下げて帰って俺の部屋の扉を開けたら先回りをしてニカエルがベッドで待っていた――スマホから瞬間移動みたいな事も出来るとは予想外だ。
「奏芽ぇ~奏芽奏芽~♪」
俺の名前をいやらしそうに連呼してくる。何を喜んでいるのか分からず気持ち悪い。
「何だよ、こっちに這い寄ってくるな」
「奏芽~耳掻きしてあげよっか?」
「いいよ、自分でやるから」
椅子に座ってその耳掻きの道具を使おうとしたがニカエルがその手を掴む。
「奏芽ぇ~やるから~♪」
「何でだよ、これぐらい自分でやるって」
「やらせてよ~♪」
自分の耳をあまり人に任せたくないのだけど――今日のニカエルはしつこかった。その押しに俺は負けて渋々やってもらうことにした。
「……ほら、横にならないとやれないよ?」
ニカエルは膝頭をトントンと叩いて自分の膝を枕にしてここで寝てくれと要求している。そんな気楽に膝を奪って大丈夫なのか? そもそも太腿に寝るのだから太腿枕が正しいのではと考えているがニュアンス的には膝枕なのだろう。
俺は嫌々ながらもニカエルの膝を枕にして寝た。
「この竹で出来てる白いポンポンの付いた耳掻きが定番だよね~」
「分かったからさっさとやってくれ、さっきからムズムズしてるんだ」
「はいは~い♪」
ニカエルは俺の耳の穴の周り、複雑な部分をまずは綿棒で擦る。
――さっきまで竹製の耳掻きの話をしてたのにどうして綿棒を持っているのやらか。
どうして耳が複雑な形をしているのか。それは音を集める形になってるそうな、これに関してはまだ明確な部分が無いから専門家には究明して欲しい所だ。これも遺伝で形が変わるけど皆音を集める形をしてるのに変わりは無い。
「奏芽はこの部分優しく擦るのと強く擦るのどっちがいいの?」
「――強く擦る方かな」
「強い方がいいんだ~じゃあもうちょっと強く擦るね」
ニカエルは強くと言いながら実際は少し早く擦っていただけだった。耳の先の湾曲でへり返している所もなぞるように擦っている、何度も。
「――ニカエルもどかしいぞ」
俺は顔を上に向けて視線を合わせようとしたがぐいっと手で顔を押し戻される。
――下乳、ワルクナイ。
「もういいの? もっとこういう所は遊ぶべきだと思うんだけど」
「いや、奥が本当に痒いんだ……外側は後でやってくれ」
「は~い」
前座は終わりそ~っと棒状の物が耳の穴に入っていくのを感じた。
まずは綿棒で耳の中の壁をコシコシと擦る。
「奏芽、痛くない? 気持ちいい?」
「大丈夫、続けて」
ニカエルはその言葉を聞いてもう少し奥に綿棒を差し込んでいく。穴の限界を試しているのだろう。実際は奥まで突っ込んではいけないのだが。
……そう、そこらへんだ。俺が痒かった部分まで到達した。
「ニカエル、そこだ。ちょっと――続けて擦って」
「んっ……」
言われた通りに連続で擦ってくれる。何分も続いていた違和感が徐々に擦れ消え、快感になっていく。ガサゴソと俺の耳の中の壁と綿棒が擦れる音も気持ちがいい。デリケートな部分なだけあって快感指数も上がっていく。そしてニカエルは綿棒を抜く。
「ふぅ……ありがとう」
「うん、次はこれね」
ニカエルは綿棒をゴミ箱に投げ捨て、次に取り出したのはあの竹製で頭に白いポンポンが付いた耳掻きだ。そのポンポンの逆、ヘラの付いた方を穴に差し込んでいく。いよいよ真打登場と言った所だろうか。
「痛かったら言ってね?」
「分かった」
優しめに耳の壁をなぞられる。ニカエルの耳掻きは意外にも上手くて恐怖を感じない。穴の奥から外へ一直線に往復して何度もなぞる。もどかしくも感じるけどこれが丁度いい。ニカエルは横に置いたティッシュの箱から一枚ペーパーを取り出して耳の奥から出てきた耳垢を拭き取っていた。
「……ふふ、いっぱい出たね」
「痒かったからね、時期だったかもしれん」
ニカエルはティッシュペーパーを丸めてゴミ箱にまた投げ捨てた。――もう一回やるんだから別に捨てなくてもいいのだがこれは性格の問題だから言わない事にしよう。
「ポンポン入れるね~……」
キュッとポンポンで耳の穴を閉鎖される。そして出したり抜いたり、またその耳の周りを軽くなぞったりして細かい耳垢を拭き取られる。因みにポンポンと言っているが実際は「ぼんてん」と言うらしい。漢字では「梵天」、検索してもこの白いポンポンの方の「梵天」は出ない。『梵天袈裟』と検索すれば理由が分かるだろう。
「はい終わり、クルッと回って片方の耳ね」
もう一回出来るニカエルの楽しみは続く――と言った所か。俺は体を回してまだ処方されてない耳を出す。ニカエルの白いワンピースが見えた。夏になったら白いキャミワンピに変えるそうな。
「――あれ、こっちはあんまり垢無いみたい。軽くやっちゃうね」
ニカエルは新しい綿棒を取り出して同じように擦っていく。壁側を本当に軽くやっただけで終わってしまった。もうちょっと引っ張ってやってもいいとは思ったけど、またやり過ぎても耳を痛めてしまうだけだからこれぐらいが丁度いいのだろう。
「ありがとう……」
「ふっ――」
「おわっ」
最後に一息耳に吹きかけられてニカエルの作業が終わる。
――耳掃除が終わった後はニカエルの太腿を感触を味わう。意外と膝枕というのも悪くはないな。ニカエルの太腿は硬さを感じずこれも丁度いい感じなのだな。
「――どうするの? 私の耳もやる?」
「は――」
俺は聞き返してしまった。ニカエルの耳掃除をやる権利をこんな俺に分け与えると?
「ほらほら、早くイエスと答えないと――」
ニカエルは自分の耳に綿棒を入れる素振りを見せる。それを見て俺は反応してしまって立ち上がる。
「やるやる、分かったから」
俺は綿棒を一本取り出してやる素振りを見せる。
ニカエルの嬉しそうな顔が見えた。どちらかというよりニヤけ顔だが。
立場が変わった。俺が座ってニカエルが俺の太腿に頭を付ける。――これが逆膝枕と言ったやつか。負担がかかるものだと思ったが意外にも軽く感じてこれだったら作業がしやすい。
「それでニカエル、まずは外か? 中か?」
「――外からでいいかな?」
外から、まずは耳の周りということだな。まずは耳に掛かっている髪の毛を耳の外側に退ける。ニカエルの耳全体が見える……悪戯がしたくなってまずは先制攻撃で息を吹きかける。
「うわっ⁉ ――もー奏芽。止めてよね」
「さっきのお返しだ」
頬を膨らませて見てきたがこっちから見るその表情は最高だった。悪戯をしたからにはそういう取れ高の高い顔をしてもらわなくては仕掛けた側も嬉しくはない。
――さて、この複雑な耳にこの硬い綿棒を付ける。まずは穴の上を優しくなぞる。
「っ――奏芽くすぐったい、もうちょっと強くてもいいよ?」
言われて少し強めにキュッと擦ると垢がまとまって綿棒にくっつく。なるほど、ここは外に干渉しやすい所だからこびりつきやすいのか。コツが分かって湾曲した部分の隅から隅まで全部やっていく。かなり上手かったからかニカエルの息も何故か荒かった。
「はーっ……はーっ……奏芽、上手すぎ……」
「なんでそんな顔を見せてるのやらか――」
「いいの……奏芽っ、続けて――」
再び耳の湾曲部分を擦る度にニカエルの体が嬉しそうに跳ねる。
「本当に大丈夫か?」
「だっ……大丈夫だかっらっ……はーっ……続けて」
もしかして――ニカエルは耳が性感帯の一つになってるのでは。なんて馬鹿馬鹿しい、何を考えているのやらか。
自分は暫くその反応を見てからまずは外側をやり終わった。
「ニカエル少し休憩するか? 息が荒いぞ」
「だ、大丈夫――次は中お願い」
顔もやる前と全然違うし休憩を求めたがアッサリ断られる。続けるなら仕方がない、自分は綿棒を逆にして綿棒をゆっくりと中に入れた。
「入ってきたぁ……」
やってみないと分からないが、ゆっくりと入れると耳の毛がわさわさと綿棒で揺れるから意外とくすぐったい。そんな声に出して言わなくてもいいと思うんだけど。まずは耳の中の壁をさわさわと擦る。そして擦りながら徐々に奥に入れていく。
「痛っ――」
「あっ、悪い……大丈夫か?」
自分はその言葉を聞いて直ぐに綿棒を耳から引き抜く。
「ううん――実は人にやってもらうの"初めて"だから、優しくね?」
「俺も人のをともかく天使のをやるのは"初めて"だし、もうちょっと丁寧にやるよ」
何を意識して言ってるんだか。自分は再び綿棒をニカエルの耳の中に入れる。次は痛めつけないようにもっとゆっくりと擦る。あまりにもゆっくり過ぎてくすぐったいのかニカエルは体をビクンッと跳ねらせる。それでも俺は遠慮せずに擦る。
「……大丈夫か?」
「奏芽、心配しすぎ。もっと来ていいよ……」
「分かった」
もう少しだけ綿棒を前進させて擦る。ある部分でニカエルが大幅に体が跳ねる。
「ああぁ――!! そこ! そこいいっ! もっとやって!」
「んん……」
その反応に俺は困る。でも俺にも痒い部分があってそこが気持ちいい部分だったのだからそこがスポットなのだろう。自分はスッスッとそこの部分も集中して擦る。それも、長くなぞるように擦るのでは無く、短く早く擦る。
「あっ、あっあっあっあっ――そんな早く、ダメだってっ――か、奏芽! イッちゃうから!」
「うるさいな、俺の好きにやらせろ」
逆にこのニカエルの反応が楽しく、自分も更にイジり倒したくなる。
「かっ、ひっ……あっはぁ――――!!」
ニカエルが最後に跳ねた瞬間にニカエルの体全体の力が抜ける。
――俺はやったみたいだな。勝利条件を達成したようだ。……何の勝利条件なのかは分からないけど、何かをやったのは確かだ。
「あ、熱っ――体熱いっ――」
「綿棒だけでもこんなにいっぱい出たぞ、ほら」
俺は綿棒をニカエルに見せる。
「本当だ――いっぱいだね……」
ニカエルは綿棒を手に取ってマジマジと見る。白い綿棒でもしっかりと手にとって見える程だった。
「次は竹製の耳掻きなんだけど――どうだ、大丈夫か?」
「うん……大丈夫、お願い――入れて?」
何らかの拍子で出た生唾を飲み込んで二回戦を始める。次は綿棒よりも軽く耳掻きが入ってあっさりと奥まで入ってしまった。そしてへらの部分を壁に付けて沿うように耳掻きを徐々に穴から出す。
「これも凄いッ――やっ……」
これまたさっきと同じ反応をするニカエル。
そんなに耳の中が弱いのか、意外な弱点を発見してしまった。
最後まで耳掻きを沿わせて出して耳掻きのへらを確認したら貯まるくらいの量が上に乗っていた。――ただ耳を上に向けるだけでこんなにも出るものなのだな。
「こっちもいっぱいだ――さっきもいっぱいだったのに」
「貯まってるんだね……さ、続けて」
俺は同じく耳掻きを穴に入れては外に出すという作業をしてある程度耳垢を取ってポンポンで周りを掃除して終わった。もうニカエルも限界らしい、息も乱れていて擦る度に手で俺のズボンを握って来るし、何よりも汗だくだった。こんなに耳掻きだけで乱れるニカエルとは――今後もまた耳掻きをやりたくなる。
「ほらニカエル終わったぞ。立ってくれ」
「うん――またしようね……」
トロンとした目つきしていて、火照ったそんな顔で見られてまたやろうねとは相当気持ちよかったようだな。自分は頷くだけで言葉には何も出さなかった。ニカエルはこれだけで汗だくだったから部屋を出て一階に降りていった、シャワーでも浴びるようだな。俺も一つの事が終わったみたいで空虚感が出ていた。
――あ、ニカエルのもう片方の耳やってないや。




