今日から『女』になります
俺が行く学校は女子校だった。
どうしてそうなった。俺が一番知りたい、学校に近いからという理由に数ヶ月前に受験をしてその時は女子が多いなと思っていたし、なんなく面接も受けてしまって――その時の先生は寝ぼけていたのか? 全く分からないけど、俺は合格してしまった。
別に見た目も男だし、ズボンも履いて学ランそのまま。ありのままの姿で行ったハズなのに誰からも指摘無く合格通知を貰った。
その合格を蹴ろうにしても受ける高校も無い時期で、俺はこの女子校に行くしか無い状態になった。そして女子校と知ったのがその数日前。そして行くのが数日後。
一応覚悟してその女子校の制服……そう、スカートの制服を用意した訳なんだけど、親にお金を貰って俺自身が制服屋まで走って用意した。店員からは「あなたの丈でその人は大丈夫なんですか?」と心配されたけど覚悟の上、自分は首を縦に振った。
実際に着てみると店員が若干心配したのか腰回りが少しキツめだけど合うし、女子になった気分になる――だが男だ。店員から心配された通りバリバリの男だから、本当に受験をそのまま合格してしまった訳だ。
しかし、スカートっていうのは履くとスースーするものだな、春だけどこれは肌寒い。
「奏芽? 居るの? 入るわよ」
「は、はーい! ちょっと待って!」
母親に呼ばれた、こんな姿を見られる訳にはいかない。自分は急いでスカートを脱いで中学のズボンに着替える。
「奏芽、そろそろ学校に行くみたいだけど――あら、いい制服じゃない」
「で、でしょ? このリボンとか俺初めて付けるよ」
「可愛らしいわね、それからお母さん入学式来れないけど大丈夫?」
「お、おん。ダイジョウブだよ」
安心からか、カミカミ。お母さんは俺の部屋から出ていく。――安心したけど、不安なのは俺だよ。既に入学式からバレたらどうするんだ俺。ニュースにもなるだろうし、バッシング受けそうだし。はーぁ、最悪だ。もっと前から気づいていればこういうことにはならなかったと思うに、既に遅い。
――合格した時は嬉しかったのに今は気が沈んでいる。女子校初の男性とか前代未聞だ。せめて男のモツが取れれば……そう考えても痛いだけだろうな。気分を換えに外でも出ようかな。
「ピロピロ……」
携帯が鳴った、机に置いてある携帯を取って電話に出ようとする――。
「ピロピロ……」
「あれ?」
電話に出ようとするのだが、何度着信のボタンを押しても電話に出れない。どうしたものか、タッチミスしてる訳じゃないし、確認しても確かに携帯は鳴ってるし番号は……見ようとしたけど、画面が徐々に真っ白になっていく。着信の音も早くなっていく。
「やばいこれは……爆発する!」
ベッドに携帯を投げ、俺は地面に伏せて音が鳴り止むのを待つ。携帯でこんな怖い思いをするのは初めてだ。何かのいたずら電話だったら止めてくれ!
「ど~~~~ん!」
やっぱり爆発はしなかったけど何処からか声が聞こえた、俺は伏せるの止めて恐る恐る部屋を見回す。特に変わった様子は無い。
「こっちこっち、ここだって」
「ん……はーっ⁉」
俺の携帯から白いワンピースを着た小さい女の子が浮き出ていた。これは今流行りのVR? の割にはかなり立体的に見える。
「1%の確率で誰かの携帯に住み着く私! 天使ニカエルです!」
「ああ、新手のスパムか何かか、消しとかないと」
とりあえず携帯の電源を消そうとする。最近のスパムはVR風なのかぁ。これを作る人に俺は少し感心してしまった。
「ま、まってまって! 住み着いたからには条件付きで何でも願い事を叶えるから」
「へー」
そんな事を言われても信用が出来なかった。何でもねぇ。
「じゃあ俺が『女』の子になりたい――って言ったら」
「もちろん! 『女』の子にしてあげるよ」
「ふーん」
嘘は付いてないようだけどやっぱり急に出てきて信用が出来ない。ニカエルと言ったか、あの大天使をもじったような名前からにしてパチもん集がする。しかも1%の確率で誰かの携帯に住み着く――その1%に俺は当選してしまった訳か。確率的には確かに何でも叶えてあげる感はあるけど。
「試しになってみる?」
「やれるもんなら」
俺は信じていなかった。こんな現実味のない偽物っぽい天使に何でもと言われても……大体何でもと言っても何でもじゃないのが何でもだ。偽天使とでも呼ぶか。
この偽天使ニカエルは、手のひらを俺のおでこに付けて唱える。
「チチンプイプイ♪ 『女』の子になーれっ♪」
古いな、俺が小学生ぐらいに聞いた言葉だぞ。チチンプイプイいたいのいたいのとんでけー……だったっけ? 懐かしいなぁ、今はもう全然聞かないけど。
「…………」
だが、何も起きなかった。
ハッタリ?
「なんだ、何もならないじゃん。アホらしい」
「ふふ、それはどうかな。もう変わってるよ」
――え? 変わっている? 俺はそう言われて部屋の鏡で姿を見てみる。
「うわっ、何これ⁉ これが俺⁉」
……驚いた、確かに変わっていた。
姿が完全に『女』の子、違和感に感じなかったが『男』のモツも無かった。うわー『女』の子ってこんな感じなのか。――身の丈が少し下がった気もする、下に着ていた中学のズボンが大きく感じたからだ。でも上着のサイズはピッタリと今の状態に合っていた、これは偶然の一致だがサイズを少し小さくしてくれた店員に感謝。
「どう? 信じてくれた?」
「うん! これだったら女子校に行ける!」
「よかった! これからよろしくね!」
「おう!」
改めて鏡で俺の姿を見てみる。これからの生活が大変になるな。
そして――あれ? ボンキュッボン……じゃなくてこれキュッキュッボンじゃないかこれ? 女性としてのステータスが少しどころか大幅に低い。
「あの、ニカエル。もうちょっとおまけでこう。山を付けてくれない? おっぱいを」
「ごめんね、おまけでおっぱいは付けられないの」
「そんな! お願いだって!」
俺は手を合わせて一生のお願いのポーズを取る。
この言葉は便利だが――
「貧乳だってステータスだと思えばいいとおもうよ」
貧乳は価値あり、そう言われて断られてしまった。
「くそー……でも、いいか。それで、さっき言ってた条件っていうのは?」
「条件、そうだね~……女子校に行くから、一学期毎にクラスの誰かに『男』って事を教える事!」
「それならかんた……⁉ 難しいよ!」
厳しい条件を突き付けられた。一学期毎に入る学校の誰かに『男』っていうことを教える。共学校なら簡単だろうけど、俺が今から行こうとしてる学校は女子校。
つまり命取り。俺の素性を出す事になるし、最悪の場合退学の可能性もあるということだ。せっかく『女』の子になれたのに条件に厳しさが滲み出ている――
「これを守れなかったらどうなるの?」
「二度と『女』の子になれませーん、そして……どうしてくれよっか?」
不敵な笑みをして笑っている、俺はどうなってしまうのやらか。
不安だけど俺は承諾をする。
「じゃあその条件で……宜しくお願いします」
「はーい、よろしくね~。私を呼び出す時は携帯のアプリで呼び出せるから。たまに出てきちゃう時もあるけど」
「あ、うん」
アプリで呼び出せるとか現代的。確認をしてみると名前が「ニカエル」とお前の名前でアプリが作り出されて登録されているのがちょっと癪に障る。
「それから、また『男』の子に戻れるから」
「どうやって?」
スマホをニカエルの手で操作されて電話番号が入力される。
入力された番号は831-2929。
「ヤサイニクニク……でいいの?」
「うん、これに電話すればこれで『男』の子になれるし、『女』の子にもなるから」
ただの語呂合わせに電話するだけで性転換出来るとは便利な……。
でもこれなら都合が付くからいい。特定の『女』の子の前でこれに電話すれば条件が達成してその一学期は安牌で終わるんだから。
〈ヤサイニクニク〉に発信をして『男』に戻るのを試みる。別にヒーローのバンクシーンとかそんなのも無く、元の性別に戻った。おかえり、俺のモツよ。
「そういえば、名前を聞いてなかったね。私はニカエルだけど君の名前は?」
「俺は唯川奏芽。よろしく」
名前を聞いただけだと『女』の子と間違われやすいこの名字と名前。
中学校の事は気にならなかったけど、小学校の時はよくからかわれた。
――病院で呼ばれる時はよく驚かれるけど、そういう経験が多くなるにつれやっぱり気にならなくなるんだよね。
「それじゃ、『女』の子の姿で外に出てみよー!」
「外出るのか~……」
ニカエルにそう言われてまた『女』の子に転換。また制服の上着がピッタリ合う。
早速、部屋の扉を開けて外に出ようとすると――
「奏芽……『女』の子になって制服でズボンは無いんじゃないのかなー?」
「ああそうだった。いっけねぇ、スカートに変えないとな」
「後、言葉遣いも」
「はい――大変だなこれ」
ニカエルに指摘を貰う事が今後多くなるだろう……。
――服も女性服を何種類か用意しなくちゃならないのか、向かう場所は決まったな。
※ ※ ※ ※
俺はスキップで近所の商店街を歩く。ここはよく通るけど誰も俺と気づいてくれない。ただ陽気な『女』の子が歩いてるだけにしか見えないのだろう。
「お嬢さんお嬢さん。コロッケ揚げたてだよ」
「お、本当! おばちゃん一つ貰える? でもメンチカツがいいなぁ」
「やだー、太っちゃうわよ」
美味しいコロッケ屋さん、いつもなら言葉の通りメンチカツを貰うけど早速違いが出てきた。食べられる食べ物もちょっと変わってくるのかな。『女』の子っていうのはよく分からない。
「はい、コロッケ。いつもなら八十円だけど、お嬢さん可愛いから五十円でいいよ」
「本当! ありがとう! はい、五十円」
財布から五十円玉を取り出しおばちゃんに渡す、俺はアツアツのコロッケを貰う。通常価格八十円で可愛かったからという理由で三十円の得をした。
可愛いかぁ――だが! 『男』なんだけどな。俺は唯川奏芽なんだけどな、おばちゃん!
俺はコロッケ屋に設置されてる丸椅子で早速、コロッケを食べる。おばちゃんもその姿にニッコリ笑顔を見せる。
「いい食べっぷりだねぇ! お嬢さん初めて見るけど、ここに住み始めたの?」
「いや、もう数十年前から住んでるけど美味しいなぁ、やっぱり」
おばちゃんは俺の言動を聞いて挙動不審になる、上げたコロッケをあっちにおいたりこっちにおいたり。何が悪いことしたかと思ったが、俺は完全に『男』の口調で今喋った事に気づいて訂正し直す。
「う、ううん! 最近引っ越してきたの! だからお試しに歩いてみようかなって!」
「そ、そうなのね――またここに来る? 名前、聞いとくよ」
名前……か。第二の関門が早くもやって来た。でも考える時間も無く俺はありのままの名前で言った。
「唯川奏芽です。次来た時また宜しくお願いします」
「あら、私がよく知ってる『男』の子と一緒の名前だわ……えっと、奏芽ちゃんよろしくね」
まぁおばちゃんがよく知っている『男』の子と同一人物なんだけどね。俺自身は奏芽ちゃんに違和感を感じる。いつもこのおばちゃんから言われるのは奏芽くんのほうだから。
俺はコロッケを食べ終わって手を振る。親しくしてる人でも分からないものは分からない――か。
「ピロン♪」
携帯に聞いたこともないSNS着信音が鳴る。確認してみるとアプリ『ニカエル』からの伝言だった。
「いい調子じゃない」
やっぱり無理に携帯に入ってきただけ携帯の制御も難なくやるのか、流石ニカエル。邪魔にしか思えない。でもこの偽天使がいなかったら俺は『女』の子にもなれないからオプションの一つとでも思う事にしよう。
服屋さんにたどり着いた。誰にも俺が唯川奏芽と気付かれずに服屋に着いた。商店街なんてちょろいもんよ。ここは小さい街で顔見知りしか通らないような場所なんだから。
学生服での入店。女物といえばこれしかないから仕方が無い、いつもの服で入っても良かったけどサイズが合わないからダボダボ。別に悪趣味という訳ではない。
さてと、左右でメンズとレディースが別れてる訳だけど今回は右、レディースの方へと入っていく。今は『女』なんだから躊躇は要らない。
まずは下着コーナーへ――
ブラジャーといっても数が多すぎる。そしてカップ数毎にまた別れてる訳か。
今俺自身の問題は……何カップなのか。これは行く前に測るべきだった。――スッと胸に手を添える。
「Aカップ以下……?」
横になれば魚もさばける板になりそうなほど胸ぺったん。ブラジャーなんて買ったことがないからよくわからない。まぁそれっぽいサイズを買うことにしよう。――いや、ここはニカエルに聞いてみる事にしよう。
早速アプリを開くとニカエルが出てきた。
「サイズねぇ……設定だとAAサイズだからここらへんじゃないのかな」
「設定とか言うなよ……だったらもっと豊かな実にしてくれよ」
「ごめんねーそこはサクシャさんが考える事だから」
サクシャとかなんだそれは。俺にはその第三者が見えない。
今のニカエルの言葉で分かった事はAAサイズという事、別にAサイズのブラジャーでもいいか。Aサイズの棚でも胸の悩みがある人が多いのか、種類が沢山あった。
イマドキの可愛いブラジャーがいいかな。別に高校生なんだから。
「ショーツセットの方がいいよ」
ニカエルからセットのすゝめ。なるほど、一緒の方が見た目もキッチリしてるからオススメという事か。こういう事はやっぱり女性だからよくわかってるのかな。天使は何処まで知っている?
「……高い! 下着だけでこんな値段するのか!」
値札を見ると五〇〇〇円とか学生が買える値段じゃない! 俺のお母さんとか女の友達はこんな高い値段の物を買ってたのか。『男』の下着が如何に安く買えるのかが分かる――。
買うのは次回にして今はタンクトップとかでも中に着て過ごそう。別にぺったんだから垂れる事も無いし――本当に俺は魅力があるのかも分からなくなってしまった。
そのまま俺は帰る事にした。お店をそのまま冷やかす俺は店員に冷ややかな目で見られる。温厚な店員さんもそんな顔を見せるとはね。
なんで外に出たかなーと思って空を仰ぐ。『女』の子っていうのも疲れるな、そして案外『男』の人は顔より下を見る人が多いな。でも俺はつるぺただから「チッ」って舌打ちする人もいるけどそれは失礼だと思うぞ。悲しき事かな。
ドンッ――
「あっと……ごめんなさい」
上を向いて歩いていたから気付かぬまま誰かにぶつかってしまった。
「いえ、大丈夫です。お怪我は無いですか? 私も本に夢中になってて」
「あ――」
白髪の『女』の子。その『女』の子の後ろの夕日で一層その姿が可憐に見えて息を呑む。
手には厚いブックカバーが付いた本、文学少女といった感じのオーラが出ている。年は俺と変わらないくらい? もっと話したかった気がするが俺は申し訳無さがいっぱいで
「余所見してて、すみませんでしたっ」
俺は一礼をした後に走ってその子から離れる。呼び止めるような声も聞こえたがそんな事も気にも留めずに家路につこうとしていた。――『女』の子になっても気持ちは『男』の子だから『女』の子の前でも緊張が走る。――可愛かったな、あの子。俺が今さっきした行動に後悔する、名前を聞けば良かったと。
※ ※ ※ ※
ようやく家に着いた。
初めてが多すぎて大した事もしてないのに疲れた。
そういえば、何か足が重く歩きづらいなと思っていたが靴のサイズも合っていなかったんだな。これも新しい物に変えなくてはならないな。シューズボックスの中に靴を納める。
玄関を上がって廊下の先のリビングの扉を開ける。これが誤算だった。
「ただいま」
「――どなた?」
いつものように、ただいまを言ってしまった。そう、『女』の姿で。癖だろうか、慣れてないからか電話番号の『ヤサイニクニク』に電話を掛け忘れてそのままの姿でお母さんに会ってしまった。
――このリビングで戦慄が走る。何処かで知った選択肢が頭から出てきた。
一、正体をバラす
二、友達だと言い切る
三、言い訳無用。現実は非情である。
……別にどれをとってもお母さんの頭の中では「間違えて他人が入ってきた」としか思ってないだろう。と言うことは二の友達だと言い切る事を選択する事が正しいのか……それで行ってみる。
「あの……奏芽くん……いますか?」
『女』の子らしく少し体を左右に揺らして手を後ろで組みながらお母さんに問いた。
「――お友達? 今は上に居るんじゃないのかしら」
「そ、そうですか……じゃあお邪魔します」
ゆっくりと扉を閉める。一息付いた。俺は唯川奏芽の友達の唯川奏芽となってしまった。ややこしい事かもしれないけど、お母さんはそれで納得してしまった。友達じゃなくて彼女として見ているかもしれないが、それなら最も都合のいい――
「そう、奏芽にこれ持っていってもらえる?」
突然扉を開けてお母さんが話しかけてきた。手に持っていたのは盆に乗ったオレンジジュースとクッキー、そしてコップは二つ分。
「奏芽、ああ見えて『女』の子の友達少ないから。丁重にね? あと変なことはしないでね」
「は、はい……」
友達が少ないとは失礼な。俺にもちゃんと友達は、友達は……少ないかもしれない。結構分かってる事多いのね、お母さん。後一人二役の状態なんで変な事は出来ません、安心を。
「奏芽! 降りてきなさい! お友達来てるわよ!」
「い、いいですから! 俺自身で上行きますから!」
「ん? 俺……?」
「い、いや僕――」
「僕⁉」
「わ、わたし……」
第一人者の言葉を間違えてお母さんは疑心暗鬼。俺自身もまだこの性に慣れてないから何度も間違えてしまった。普段「私」なんて言わないから言い間違いが生じる。
「んーまぁいいや、じゃあよろしくね。えーっと……」
「カナデです! それじゃ!」
とっとと走って階段を登って扉を開ける! もう恥ずかしい! 奏芽だからって"カナデ"は無いだろう!
「危ない所だったねーカナデ」
開放されたようにニカエルが出てくる。
「ケーキだケーキ」と言ってニカエルはお母さんが用意してくれたケーキをその小さな手で食べる。VR的な何かと思っていたがちゃんと現実に存在してるんだな。
「その名前で言わないでくれる?」
「因みにお母さんに言っても条件外だからねー、無駄に教えると自滅するかもよー?」
――ということは、先生とか中学の友達に言っても条件外か、でも疑問が一つ残った。
「その判定基準はいいとして、判定結果は誰がやってるの?」
「もちろん、あたしだけど?」
クリームが口に付いてる状態で当たり前のように答えた。まぁ携帯に住み着いているだけ判定するのは簡単なのか。ということで少しヒネリを入れて質問してみる。誘導質問的な感じで。
「じゃあ、学校でも他のクラスに『男』っていうのをバラしたら判定的には――」
「それはバツでしょ。範囲が広くなっちゃうから」
範囲が広くなるという理由だけで限定するのはどうかと思う、そして誘導失敗。でもこの偽天使の事は今のところ絶対。いわゆる神みたいな存在だ、天使なのに。
結構厳しめな条件だけあって今後四苦八苦しそうだ。
――自分はこう思った。もっとよく学校を探せば良かったと。
今日初めて『女』の子になった訳だけど、性転換して女子校に合法的に侵入するとは俺の人生初の事。更にこの偽天使ニカエルのせいで非日常になることに、これから何が起ころうとも受け入れるつもりだ。俺の、わたしの、学校生活を。
全ては俺が女子校に合格したことから始まった――