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俺たちは皆クズである  作者: 火ノ坂 刃
第一章 踏破すべきは9エリア
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第三話 看破

『マハーカーラの白袋』


 これは教会から貸与される、多くのプレイヤーが狩りの際に携帯する一時的なアイテム保管場所だ。借りる際に刺繍を入れてもらうことも可能だが、別途金を寄付する必要がある。

 

 主にモンスターからドロップした素材、エリアで採取した植物、鉱石などを保管するのに使われるが、生物を入れることは出来ない。


 所有者が白袋から離れても、このアイテムは中身も含めてその場に留まり続ける。


 袋自体に所有権は存在せず、中に収められたアイテムにも所有権は存在しない。


 滲みず破れず重さも殆ど感じないが、袋の口が開いている場合、他プレイヤーによって中身が盗まれる可能性があり、盗難防止のためには袋の口を所有権を持つ紐で縛る必要がある。

 

 貸与されてから二週間で期限が切れ、中身も含めて消滅する。


 期限内であれば絶対に消滅しないという特性から、盾の代用として使うことも可能だが、それをやり過ぎた場合には別の問題が発生する。




 そんな袋を右肩に担ぎ、今俺は走っている。ゴスロリさんを含めた他の五人の姿はもう見えない。


 デグルを倒した後、悠長にその身体を『解体』していたわけではないが、やはりかなり時間を食ってしまったようだ。


 ズラトロクを発見した時、ヤツは崖の上にいた。飛び降りずに回り込んでからこちらを追ってきている可能性が高いが、それでも時間的余裕はほとんどないだろう。


 もしかしたらゴスロリさんを除いた他の四人は既にエリア端で『ラハブの亜麻束』を展開して小休憩を取っているかもしれない。だが、その場合ズラトロクは俺とゴスロリさんに襲い掛かってくることになる。位置的に襲われるとしたら俺が一番最初になるだろう。


 そんなのは御免被るので、スタミナが切れない程度に抑えながらも、今出せる最大速力で森の中を駆けているわけだ。勿論、進行方向にいるかもしれないモンスターの存在に注意を払いながら。




 そうして三分ほど走り続け、東向きに下っていく傾斜のある場所まで辿り付いた時、前方下で白い袋が上下左右にゆっさゆっさ揺れながら動いているのが見えた。おそらくゴスロリさんだろう。あれからモンスターには襲われなかった様だ。


 転ばないように走る速度を少し緩め、坂を下っていく。 


 ちなみにゴスロリさんは『ゴスロリさん』という名前なわけではない。ただ、俺がそう呼んでいるだけだ。


 キャラクター名は『マリー』、そう自己紹介された。


 ありきたりで面白くないので俺は心の中ではゴスロリさんと呼んでいるだけだ。

 

(相変わらず走るのが上手くないな)


 「ハァーっ、ハァーっ」という荒い呼吸が聞こえてきた。学生時代、体育の時間の1500m走で体力のないヤツがこんな呼吸をしていた気がする。「歩いている速度とほとんど変わらないんじゃないか?」と思う緩慢な動きといい、そっくりだ。


 疲れてそこまで余裕がないせいか、こちらに気付いた素振りを全く見せないので、ゴスロリさんから5mほどの距離にまで足を進め、背後から声を掛けた。


「大丈夫ですか?」


「はぎゅっ!? はぎゅう!! へぎゅう!!」


 解読不可能な言葉と共に振り返るゴスロリさん。余程驚いたのか、顔は引き攣っている。静かにしていれば綺麗な顔立ちだと思うが、今はその面影もない。足は縺れて今にもこけそうだ。


 こんな顔を他の人間に見せたくないので、狩りをする女プレイヤーの多くは、スタミナの管理はしっかりしていることが多い。PTメンバーは勿論、そのエリアのどこに人の目があるか分からないからだ。女プレイヤーがそういうところに気を遣うことを城にいる間によく耳にする。中には醜い姿を(特に男性プレイヤーに)見せるぐらいなら、そのままモンスターに殺されることを選ぶ女プレイヤーもいるらしい。その話を聞いた時は「お前は誇り高い戦士か何かなのか」と突っ込みを入れたくなったものだ。


「落ち着いてください、僕です。カケルです」


 肩で息をしているゴスロリさんに、優しく声を掛ける。ちなみに洒落ではない。


「はひゅっ!? はひっ、はひっ、はふぅっ」


 俺の目、胸、腹、腰、足と順に見て、最後にもう一度俺の目を見て、状況が理解出来たのか、軽く頷くゴスロリさん。息はまだ荒いが、段々落ち着いてきている。まぁ、呼吸が静かになっても、それでスタミナが完全に回復したというわけでもないのだが。


「あの犬は倒しました。追ってくることはないです」


 敢えて犬と言う。デグルという名前を知っているかが疑わしいからだ。ゴスロリさんは十中八九、狩り専のプレイヤーではない。どちらかと言うと『生産職』に重きを置くプレイヤーなのだろう。


 先ほどの俺とデグルとのやり取りで分かる通り、プレイヤーの武器や闘い方にもよるが、実際の戦闘はかなり残酷でグロい部分がある。画面の中の勇者を操作して「こうげき」「ぼうぎょ」「まほう」「アイテム」を選んで闘うようなゲームとはそこが全く違う。


 それを嫌って『生産職』しか選ばないプレイヤーもいる。そして、そういう人間は特に珍しくなかったりする。


『残酷なことはしたくない』『グロい部分も見たくない』『醜い化け物に襲われるが怖い』『殺される感覚が好きになれない』と理由は様々だが、そういうプレイヤーは少なくないのだ。


 何より、『生産職』の方が面白いという人間も多い。俺は選んだことがないので分からないが、ハマる人はハマるらしい。


 だが、何かを生産するには素材が必要。そして、その多くは冒険でしか手に入らない。


 そして俺たち『冒険者』も『生産職』のバックアップがないと、碌に冒険など出来たものではないので、俺たちが城の外で手に入れた素材を城に運び込み、それを『生産職』に渡して、冒険に必要な様々な道具を作ってもらうというwin-winの関係が今では成立しているわけだ。


 ちなみに子供プレイヤーは、運営によって視覚を含めて幾つかのフィルターを掛けられているらしい。「精神に悪影響を及ぼさないように」というための措置らしいが、これも俺は子供ではないので、そのフィルターがどんなものなのかは分からない。




「他のモンスターも追ってきていません。今のところズラトロクの姿も見えません。ひとまず大丈夫です」 


 スタミナは精神の動揺でも大きく減少する。ストレスを取り除き、少しでもスタミナの回復をさせるために、安心させるための言葉を掛け続ける。


「はぁはぁ」と多少マシになった呼吸をしながら、ゴスロリさんがもう一度頷いた。


「三回深呼吸してください。その間に何が起ころうとも絶対に俺が守ります」


 ズラトロクが近くまで来れば地面が振動するので、不意を付かれることはない。とはいえ、その予兆が実際に起きた時、ゴスロリさんを絶対に助けるのかと聞かれたら、我ながら怪しいところだが。


「あ、ぁっりがとぅ」


 それがどちらの意味かは分からないが、ゴスロリさんは白袋を枯れ枝の多い土の上に置いて、両目を瞑り、左手を胸に当てながら深呼吸をし始めた。


 坂の上である後ろを振り返る。


 エリアと俺たちの位置関係上、ズラトロクは間違いなくここを通るだろう。正直一分以内に来てもおかしくない。三分も此処で突っ立っていれば間違いなく姿を現す筈だ。


 もし、だが、出現した時の対処は二つ。


 1 ゴスロリさんを囮にして逃げる

 

 2 デグルの時のようにゴスロリさんに先に行かせ、俺が時間を稼ぎ、ゴスロリさんが十分に離れたのを確認してからズラトロクの隙を突いて俺も逃げる


 倒す選択肢は初めからない。可能か不可能かの問題ではない。その選択肢は用意されていなかったのだ。もう少し選択肢を増やせるとすれば、ゴスロリさんを囮にした時、彼女の白袋を奪ってから逃げるくらいか。余り意味はないが。


「ぁ、『赤ポーション1』」


 ゴスロリさんの声がしたので向き直ると、彼女の胸の前方の何もない空間に、理科の実験で使うような細長い試験管がふわふわと浮いていた。中には赤、というよりも半透明なピンクの液体が入っている。


 赤ポーションを左手で掴んだゴスロリさんは、入浴した後にコーヒー牛乳を一気飲みするオッサンのように、右手を腰にそえて豪快に飲み始めた。


 誤解がないよう言っておくが、普通女性プレイヤーは知り合って間もない男性プレイヤーの前でこんな飲み方はしない。


 そんなことを言っていられる余裕がないからか、元々こういう性格なのか――なんとなく後者のような気がした。


「――ぷはぁっ」


 ちなみに赤ポーションはスタミナを実数で回復させるアイテムだ。スタミナの自然回復速度を上げるわけではない。便利ではあるが、これを飲むと『空腹度』が上がる。空腹度が上がるとスタミナの自然回復速度が下がるので、緊急用アイテムの一種と言える。


「『デリート1』」


 ゴスロリさんの『アイテムショートカット』は『言葉』らしい。ちなみに俺は『指』だ。こういうところからも狩り専のプレイヤーでないことが窺える。


 飲み終わった後の容器を消滅させ、目に力が戻ったゴスロリさんが俺を見る。


 彼女が何かを口にする前に、言っておかなければならないことがあった。時間がなくても、済ませておかなければならないということはあるのだ。


「すいませんでした、見捨てようとして」


 一度目はまだ良いとして、二度目の方は「気付けませんでした」と言うのは少し苦しい。目が合っていたからだ。


「気にしてないわ。それより」


 踵をそろえて、ゴスロリさんは綺麗なお辞儀をした。


「ありがとう、助けてくれて」


「や、止めて下さい。一度見捨てようとしたことは確かなんですから」


「それでも助けてくれたわ――そうね、丁度良いから走りながら話しましょうか」


 ゴスロリさんが坂の上の方を一度確認してから、底に短い枯れ枝が数本くっ付いている白袋を左肩に担ぎ直して、足の向きを変え、軽く走り始めた。


 俺も後に続き、並走する形を取る。


「走るのが苦手そうですが、話をしても大丈夫なんですか?」


「えぇ、大丈夫よ。アレは驚いてちょっとパニックになっちゃってただけだから」


 デグルか? いや違うな。


「ズラトロクですか?」


「いいえ、声よ」


 咆哮か? いや、それならズラトロクをここまでハッキリ否定しないだろう。


「……もしかして、俺が叫んだからですか?」


「そう」


 数秒間、走る音だけが辺りを支配した。


 ゴスロリさんの顔を見ると、彼女は前を向いたまま僅かに目を細めていた。


「私、大声苦手なのよね」


「す、すいませんでした」


 一つ前の謝罪のドモりは演技だったが、これはそうではない。素でドモってしまった。俺のせいだったのか。


「知らなかったんだし、私が変わってるだけだから別に気にしてないわ――それより」


 ゴスロリさんが顔の向きは変えないまま、目線だけこちらに向けてこんな言葉を吐いた。




「どうして貴方、そんなに猫を被ってるの?」




 一瞬頭の中が空白になる。


「そん」


「あ、確信しているから取り繕わなくていいわよ」


 再び沈黙が流れる。


 どう答えればこの後「一番得をするか」を頭の中が自動で模索しているのが分かる。


 そして10秒ほど脳からの回答を待っていたが、結局それは一つも得られなかった。


「どうして分かったんですか?」


「確信したのはあの犬の時ね。目が合った時、貴方はとても計算高い人間だと分かったわ。咄嗟のことで素の状態が出てたのね」


 淡々とゴスロリさんは続ける。カマをかけていたという風には見えない。


「確信?」


「一番最初に疑ったのは、私が貴方にトマトを手渡そうと声を掛けた時。貴方、私の声に笑顔で返事してきたじゃない?」


「はい」


 会心の笑みだった筈だ。




「うっさんくさい笑顔のひとー、と思ったわ」




 三度の沈黙。


「……え?」


 西洋人形かと見紛うほどの端正なゴスロリさんの横顔、その彼女の唇が形を変えていたのが分かった。おそらく正面から見たら三日月のようになっているのだろう。


「だって明らかに作り物の笑顔しているんだもの。そりゃあそう思うわよ」


「ひ、酷くないですか?」


 そんなに下手だったか?


「騙そうとしていた貴方に言われたくないわ」


「だ、騙すって」


 そこまで言うか。というか、この女性はこういう性格だったのか。お淑やかとは言わずとも、こうも突っ込んでくる人だとは思っていなかった。


 前に視線を向けたまま、ゴスロリさんはこう言った。


「私はね、目を合わせたら大体その人の性質が分かるのよ」


 一目見たら、というヤツだろうか。


 俺が尋ねるより先に、ゴスロリさんが言葉を続けた。


「遠くから見るだけじゃダメ。例えばTVとか、駅前での誰かの演説とか、そういう向こうと目が合わない状態じゃ分からないのよ。向こうの意識がこっちに向いている状態になって初めてその人のことが分かるの」


「……なるほど。じゃあ俺と目が合った時、俺のことをどう思いましたか?」


「悪」




 四度目の沈黙




「……え?」


「――かもしれないわ」


 どっちだよ。


「あとSっぽいわね」


「え、えす……」


「それから、何時の間にか『俺』って言葉になってることから考えても、貴方が猫を被るような計算高い人間なのは間違いないわ」


 それは当たっている。天然と呼ばれる人間の対極にいる人間だろう、俺は。


「あと甘い物好き。和菓子より洋菓子の方が好みな人間ね」


 ――――なぜ分かる?


「……目が合っただけで、そこまで分かるものなのか?」


 本性を見破られたのだ。もう丁寧な言葉を使う必要はない。


「冗談よ冗談、なに、当たってたの?」


 ゴスロリさんがこちらを見上げるようにして悪戯っぽく笑った。俺が言葉遣いを変えたことにも驚いた様子はない。 


 走る速度は既に全速力の時の六割近くになっているが、ゴスロリさんが疲れている様子はない。十分ほど前のアレは、本当に俺の大声が原因だったのだろう。


 目を合わせるのが少し気恥ずかしくなり、視線を前方に戻すと、見覚えのある大木が左手前方に見えた。もう少しで北東端に到達する筈だ。


「もう少し――このペースなら六、七分で辿り着ける筈だ。おそらく、先行した四人が『亜麻束』を展開していると思う。俺たちもそこで休憩させてもらおう」


「そう。助かるわ」


 ゴスロリさんから悪戯っぽさの雰囲気がなくなった。色々思うところがあるのかもしれない。


 と、ここで少し前のゴスロリさんの言った気になることを思い出し、尋ねてみた。


「そういえば、丁度良いと言ってたが、どういうことだ?」


「あぁ、そのことね」


 進行方向10mほど先にある大きな切り株を俺は左に、ゴスロリさんは右に避け、再び互いに近付いたところで話を続けた。


「互いに協力出来るのかを確かめたかったのよ」


「協力? 城へ辿り着くための?」


 ゴスロリさんは、右前方の赤褐色の木から伸びた長い枝を、首を横に振って回避してから言葉を返した。


「仮初の意味じゃないわ。『本当に』協力して城まで一緒に行けるかどうかよ」


「本当に、ねぇ」


「そう、『本当』に」


 五度目の沈黙。


 左前方にモンスターが見える。俺は手の動きでゴスロリさんを促し、進行方向をズラした。そして索敵範囲から抜けたのを確認し、再び足を北東に向ける。


「……貴方はどうして盗みに来たの?」


 沈黙を破ったのはゴスロリさんの方だった。


「それは、欲しい物があったからだ」


「そう、そうでしょうね――私もそうよ」


 ズラトロクの巣には武器・防具などの装備品からポーションなどの薬品、スキルを覚えるためのジェム、金貨を含めた貨幣など、種々諸々の宝が言葉通り山のように積まれていた。だが、その全てを調べきる時間はなかった。事実、俺は欲しかった物の幾つかを発見出来なかったのだ。もしかしたら、同じように宝を漁っていた他のプレイヤーが――という可能性はあるが。


「お目当ての物は見つかったの?」


「全てではないが、一応は。ご――マリーさんはどうなんだ?」


 危なかった。


 少し怪訝な表情を向けてきたゴスロリさんだったが、直ぐに顔を前に戻してハッキリと言った。


「見つかったわ。一つだけね」


 一つか、それは運がなかったな、と思っているとゴスロリさんが続けて言った。


「私はその一つだけでいいのよ。極端に言えば他の物はどうでもいいの」


 宝の中には金目の物も多く含まれていた。金貨などの直接的な物から、売り払えば一財産になるような物も数多く。ジェムは中にどんなスキルが入っているかは冒険者が一目見て分かるようなモノではないが、それでも小さいので沢山持ち帰ればこれも金になる。実際、俺もジェムは多く袋に入れている。


 ゴスロリさんは、そういう『オマケの品』はどうでもいいと言っているわけだ。


 逆に、その手に入れた一品とやらに興味が出てきた。


「何ていうアイテムなんだ?」


 素直に答えてくれるとは思えない。信頼関係が築けていない相手に、自分の目当てだった品を教えることは、メリットよりもデメリットの方が大きいからだ。


 だが、そんな俺の考えとは裏腹に、ゴスロリさんは全く意に介さない様子で『それ』を答えた。


「『エイルマーの王冠』」


 ――――なるほどな。ゴスロリさんの目的の方向性が大体理解出来た。




『エイルマーの王冠』。


 城の王、エイルマーが眠る寝室の元に、毒が塗られた短刀を手にした一人の盗賊が現れた。


 盗賊は言った。


「怠惰の足、色欲の股、暴食の腹、強欲の手、憤怒の口、妬みの目、傲慢の心、どれかを寄越せ」


 王は返した。


「一つたりとも欠けては私が私ではなくなってしまう。そ、そうだ。コレでどうだ」


「支配を放棄するというわけか、いいだろう」


 エイルマーが差し出したのは、自身の王冠だった。


 これを受け取った盗賊は姿を消し、王は王冠が奪われたことを民に知られるのを防ぐために、城深くに引き篭もるのと同時に、民に知られぬよう、一部の優秀な冒険者にそれを取り戻すよう内密に奪還命令を下した――。


 


 色々突っ込みどころは残るが、要はその盗賊を倒せば極低確率で手に入るレアアイテムだ。


 このクエストの受注Lvは35、つまりプレイヤーのLvが35以上でなければこのクエストを受けることは出来ない。また、盗賊の住処では共に挑む人間が多ければ多いほど、盗賊にその気配を察知され、逃走される確率が上がる。逃げられれば勿論クエスト失敗だ。しかもこのクエストは一週間に一回しか受けることが出来ない。必然的にソロ、しかも気配を隠すのが上手いプレイヤーがクリアしやすくなっている。というより、俺はこのクエストを3人以上でクリアした話を聞いたことがない。


 ちなみにこの王冠を民が見ている位置で取り出したり、民がいない場所でも兵士が近くにいる状態で自分が被ったりすれば、すぐさま兵士NPCと敵対状態になる。


 装備しても防御力はほぼ0であり、特性は存在するには存在するが、冒険者にとってはマイナス特性と言ってもいいものなので、わざわざ装備する必要はない。


 これだけ見ればゴミのようなアイテムだが、これを王に返すことで、あるモノがもらえる。


「爵位が欲しいのか?」


「そこまでではないわ――土地が欲しいの。もう一度あの作物を育てるための『あの土地』がね」


 大量の『貢献値』、王に返すことでもらえる物はコレだ。


 『貢献値』は簡単に言えば金で買えない物を買うために必要なモノ。それは土地だったり爵位だったり、エリアの特定の場所に特定の物を作り、維持するためだったり、利用方法は多岐に渡る。


「作物?」


「貴方も食べたでしょう。トマトよ」


「トマト――」


 トマトを育てる人間、しかも『こんなコト』をしてでも、それを成し遂げたいプレイヤー。


 頭の中で関連した単語が繋がっていき、一つの絵を描いた。


「アンタまさか……」


 この人だったのか。


「そう、あれは私よ。薄々感づいてたけど、今まで私のことを知らなかったのね。貴方、あまり城に帰還しないプレイヤーでしょう?」


 そう言って苦笑するゴスロリさんに、俺はこう言った。




「どうしてあんなことをしたんだ?」と。

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