1話 私、転生しました。(本編4話裏話)
本編の方が進みまして、サラの前世が明らかになりましたので大幅に加筆修正させて頂きました。内容自体の変更はありません。
最後に覚えているのは、照りつける太陽
周りの喧騒
赤く染まる視界
全身の痛み
目の前にある、少し前まではトラックであっただろう鉄の塊
左隣にいる弟の、苦しそうな呼吸
そして、次第に暗くなっていく視界
…ごめんね……悠馬……おねえちゃんがドライブになんて誘わなければ…そうすればこんな事にはならなかったね…ごめんね…大切な私の弟……あんただけは助かって…そして次の生では…またお姉ちゃんの弟に産まれてきてね…ごめんね……
……待って。まだ死にたくない!まだ死ねない!!
だってまだエンディング見てない!!
やっと落としたあの人の最後のエンディング、今日のドライブが終わったら見るはずだったの!
楽しみにしてたの!!
死ねない!!
まだ…あの人のエンディングを見るまでは!!!!
―――そうして私、桐谷悠里は18歳の生の幕を閉じた―――
◆◆◆◆◆
さて。これはどうしたことかしら?
『私』は死んだはずよね?
ふと周りを見渡すと、見慣れない一室にいた。
ふんわりとしたAラインの菫色のワンピースを着て、ベッドに横たわっている。
見慣れないと思った部屋ではあったが、良く見渡してみるとなんとなく見たような気もしないでもない部屋だったが、悠里の部屋とは完全に違う。
そして身体も、悠里のそれとは違う身体だとすぐに気付く。
ショートヘアだった黒髪は赤に近い茶色で長く、高校の頃の部活で日に焼けた小麦色の肌は、真っ白なシミ一つない可憐な手をしている。
そして何より、胸が違う。
成長期に運動部をしていたせいか、悠里のソレはAで、ぺたんとしていた。
それが、ワンピースから見える二つの膨らみは、確実にD以上あると判るくらい盛り上がっている。
悠里はゆっくりと身体を起こして、ベッドから降りると、無意識にベッド横にある鏡へ移動した。
ベッドに横になった状態では見えなかった場所なのに、何故かそこに鏡があると『知っていた』
「あ…」
鏡の中に写った自分は良く知る『桐谷悠里』ではなかった。
鏡の自分は、茶色の瞳で自分を見返している。その容姿を、悠里は知っていた。
これ…サラだ…!!
鏡のサラの口角がどんどん上がっていく。
サラだ!!サラ・リーバスだ!!
鏡に映った満面の笑顔は、良く見知った顔だった。
それは悠里の死の直前に思っていたゲーム『愛と友情の円舞曲』の主人公、リーバス男爵令嬢のサラだった。
実際は少し違うかもしれない。
ゲームは2Dでイラストだったから。
けれど、今は3D…というか実在の人物になっているが、イラストの特徴が顕著に出ていて、はっきりと「サラ・リーバス」だと判る。
ペタペタとサラの顔を撫で、悠里は自分がサラだと自覚する。
困惑はしない。何故なら、ネット小説で「異世界転生物」で、その中でも「乙女ゲームの中に転生しました系」が流行りだったから、乙女ゲーム好きの悠里は良く読んでいた。
まぁ、そのほとんどが悪役令嬢視点だったわけだが、それはそれで面白かった。
そして、夢にまで見たその小説のような出来事が自分に起きたのだから、困惑より歓喜が強かった。
!!
今日何日!?
悠里…サラはふと『ある事』を思い出して腰まであるロンスグトレートを振り乱しながらカレンダーを見る。
中世風のその世界なのに、何故かカレンダーがあったり現代様式が入っているのはゲームの中だからなのだが、この世界にそれを『おかしい』と思う者はいない。
8月12日…今日だ!!
太陽は…丁度真上あたり…間に合うか!?
服は…この服だったはず。このままでいける!
「出かけます!馬車を出して頂戴!」
バタバタと令嬢らしからぬ足音を響かせながらサラは支度を整えると、部屋を勢い良く出てホールに向かう。
いつもと違うサラの様子に、いつものお淑やかなサラを知る侍女達が何事かとサラを振り返るも、サラは止まらずにその横をヒールを履いた足で、まるでスニーカーででも走るかの如く異常な速さで駆け抜けた。
「お嬢様、本日は夕方からお出掛けのご予定でしたからすでに馬車の準備は整えて御座いますが、走らずともまだ予定の時までは余裕がございますが?」
ホールで待機していた老齢の執事が慌てた素振りのサラを訝しげに見ながら伝えると、正面玄関のドアを手袋のした手で開いた。
元々のサラの今日の予定は、夕方から始まる友人の子爵令嬢の家でのお茶会だった為、まだ早いその時間に慌てるサラは周囲にいた侍女や執事にはおかしいと思わせるには十分だった。
「えっと…お家に伺う前に、街で手土産のお菓子を買おうと思っていたのよ!」
「手土産用のお菓子でしたら、準備してございます」
焦っている理由をごまかしたくて悠里は適当に思いついた言い訳を伝えると、優秀な男爵家の家人達はすでに準備をしていたらしい。
が、ここで引き下がるわけにはいかない理由が悠里にはあった。
「手土産にお願いされた物があるのよ。午後から売り出す限定の…だから手土産を購入したらそのまま子爵家に行きますわ。せっかく準備して貰っていたお菓子は、もったいないし、みんなで食べて貰えるかしら?」
以前、子爵令嬢が「食べたいわ」と言っていたお菓子の存在を思い出し、そう伝えるとサラは玄関に準備をしてあった馬車に飛び乗ると、業者に「街へ急いで。街の南口ね」と声を掛けて椅子に身体を預ける。
慌てていたサラは気付いていない。
まだ早い時間だった為、いつもなら一緒にいる護衛を置いてきてしまった事に。
そして悠里は気付いていない。
『サラ』の記憶と、『悠里』の記憶の両方がある事に。
こちらの更新は本編と同じ流れでと思っていますので、不定期となります。宜しくお願いいたします。




