9
(ムリムリムリムリムぜーったいムリ!もう確実に死ぬから!)
かれこれ10回目くらいの同じセリフ。
それをカティはカレロナの町に馬車が着いた後もまだ繰返していた。
(だいたいなんで皆が金出して護衛を雇ってると思う?護衛なしじゃ行けないからだろ!)
『それは商人とか家族連れとかだろ。冒険者は自分たちだけで行ってるだろ?』
(俺は冒険者じゃないし!)
何度も言えばわかってくれるのか。
カティは頭を抱えた。
カレロナの町は国境に向かう中継地らしく道行く人は冒険者らしい腰に剣や槍を下げた集団や旅装に身を包んだ人が多い。
家族連れや従業員たちを何人も連れた商人の姿も多いのはこの国に見切りをつけて逃げ出そうとする者が多いということだろう。
馬車の中で聞いた話でも特に商人は逃げ出している者が多いとのことだった。
土地に根付いて生活している町や村の人間よりも元々国と国を行き来して商売をすることもある商人の方が見切りをつけるのが早いということか。
単に逃げ出そうにもその術がないというのもあるだろうが。
お金の問題とか。
その話をしていた商人もカレロナのギルドで冒険者を雇うと言っていた。
今はペルージに向かう人間が多くて、冒険者を雇うのも以前よりずいぶん高くなっているようだと愚痴ってもいたから側で聞いていた家族連れは心配そうに顔を見合わせていたけど。
カティには王宮でもらったお金があり、冒険者を雇うことはできると思う。
だけど馬車の中には着の身着のまま逃げ出して来たっぽい人たちもたくさんいて、あの人たちの中にはカレロナに着いたはいいがそこで足踏みする人も多いのかもしれなかった。
カティは冒険者を雇うことはできる。
王都で結構な散財をしてしまったけれど、それでもまだ金貨6枚以上残っているのだ。
以前より高くなっているといっても、3日もあれば関所につく道筋である。金貨二枚もあれば充分だと思うのだ。
だというのに。
(なんで護衛なしとか考えるわけ?散々買い物に金使っといて今さらもったいないとかあり得ないだろ)
そう、佑樹は護衛なしで国境へ向かおうというのである。
なに?自殺願望?死にたいの?
いやでもそれこっちも巻き込まれるから!
ということで、カティは猛烈に反対しているのだが。
『別に金はどうでもいいっての。ちょうどいい修行になるっしょ?関所までの道は山っていっても大したことはないっていうし?魔物も定期的に狩られてるから数も多くはないし?馬車で聞いた話だと出るのはゴブリンとかスライムだって言ってたし。ほら初心者向けだろ?それにこの先護衛なしでもっとヤバい場所に行くことだってあるかもだし?』
(だからっていきなり過ぎだろ)
人の多い通りを宿を探して歩きながら、頭の中で話し続ける。
先程から何軒か宿屋自体は見かけているのだが、どれも入口の横に満室の札が吊るされていた。
カティの想像以上にこの国から逃げ出そうとしている人間は多いのかも知れない。
宿屋が埋まっているというのはそれだけ国境に、ペルージに向かっている人間が多いということだ。
『だから数日はここに止まって付近で修行する。大丈夫、レベルが1になってただろ?いくらなんでも16年生きててお前のレベルが1ってことはなかったはずだから、たぶんリセットされたんだと思うんだよ』
(リセット?)
『そ、たぶん勇者は皆1からなんだよ。そのかわり上がるのが早い。ゲームとかラノベでもそうだろ?ある程度まではすぐに上がると思う。ま、とにかく一度町の外に出て試してみよう。せっかく魔法も一つだけどあるんだし』
な?と気軽な口調で言うのに、ため息で答える。
とはいえ身体を動かせるのはカティだけなのだから、いざとなれば無視して護衛を雇えばいいか、とこっそり考えたつもりだったのだが。
『オメー勝手に護衛雇って行こうととかしたら1日中頭ん中でカラオケしてやるからな』
(勘弁して・・・)
げっそりして、またため息が出た。
なんだかため息ばかりついてる気がするのは気のせいだろうか。
その日、夕方近くになってやっと見つかった宿はボロくて高くてしかも町の外れだった。
10分もかからず外に行ける。
『修行に行きやすくていい場所だな』
次の朝、さっそくスライムと戦闘するのはまだ少し先の話。