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「ご主人様っ!ご主人様!すっごい建物が見えるのです!」
列車の窓に凭れ、半分夢の中でうとうとしていたカティの肩を、誰かが激しく揺すった。
「・・・んん?」
薄く開けた視界にまず写るのは鮮やかなピンクの髪。
フラウのツインテールに括った髪の束が顔面をモゾモゾと擽る。
「ふわあ!でっかいのです!!まあるいのです!」
「屋根がありませんね?雨の日に困らないのですか?」
窓に張り付いて口々に言い合うフラウとクリスの様子にいったいどんな建物か、と首を傾げて自身も窓の外に顔を向けた。
「あ、もしかしてあれって?」
「そう。立派なものでしょ?コロシアムよ」
カティは「あれが」と小さくつぶやいて巨大な円形状の建物に見入った。
「と、いうことはそろそろ駅に着くのかな?」
「コロシアムは街からは少し離れてるから、後10分程ってところじゃないかしら?」
「そっか」
カティは立ち上がって軽く伸びをした。
ずっと座っていて腰も痛いし身体全体がダルい。
「さすがに肩が凝ったな。・・・と、ここ片付けないと」
個室に備え付けられたテーブルの上には山盛りの菓子の包み紙や飲み物の入ったコップがところ狭しと置かれている。
(・・・しかし皆牛乳が好きだよなぁ)
『ああ』
中身はカティ以外皆牛乳だ。
リリスは紅茶なども飲んでいる時があるが、フラウとクリスの二人はほぼ飲み物といえば牛乳である。
確かにこの世界、牛乳は濃くておいしい。
ただカティには合わないのか、少し飲み過ぎると腹が緩む。
二人はそう言ったこともないようだ。
コップは食堂車に用意されていたものなのですべて手に持って返しにいく。
ゴミは各車輌の連結部に置かれたゴミ箱に棄てて、と忙しく片している間に10分などすぐに過ぎるもので。
ちょうど片付け終わって座席に落ち着こうという頃に、魔導列車に到着を告げるベルの音が鳴り響いた。
「ほおう」
「ウサギさんがいるよ!」
「フモっ!」
こんなにも従魔連れの乗客がいたのかと驚くほど、プラットホームには人間だけでなく魔物の姿が多くあった。
「すでにここから戦いは始まってるのよ」
リリスが妙に厳かに告げる。
皆自身の従魔たちを敢えてボックスに収納せず従えていることで周りのテイマーたちに見せているのだと。
自慢したいだけの者もいるし、従魔のレベルを見せつけて牽制している者もいる。
なかにはわざとさして強くない従魔だけを出して油断を誘おうという者もいる。
「・・・ってかこれ皆コロシアムに出るのか」
目に入る数だけで数十人。
これらが続々と列車で到着するのであろう。
もちろん列車以外もいて。
「なんか想像してたよりかなり規模がヤバイんだけど」
予選突破とか、ちょっぴり軽々しく口にしちゃったけど大丈夫かな?
カティはこっそりそんなことを思ってしまった。




