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佑樹と共に召喚された居残り組のお話です。
ちょいエロあり暗いです。
苦手な方すみません。
こちらの話もたまーに挟んでいく予定です。
居残りside 藤堂茜
私は小さい頃『特別』になりたかった。
父親はサラリーマン、母親は週に3回近所のスーパーでパートをしている兼業主婦。
弟は地元の公立中学でサッカー部に入っていて別に強くもない部の中でぎりぎりレギュラーに引っ掛かっている感じ。
そんなごく普通の、平均的な日本の家庭の中で、私もまたごく普通の高校生だった。
見た目は悪くはないけど、特にこれといって特徴があるわけでも目立って綺麗とか可愛いとかいうのではない。
成績は中の中。
運動神経も普通。
得意、と他人に言えるようなものもない。
そんな私が趣味と言えるものは本を読むことだろうか。
読書という程のものでもなく、幼い頃からマンガ好きの母親の影響で人気マンガはひととおり読んだという程度。
その中の一つに私がほんの少し影響を受けたものがある。
アニメ化はしてないけど、少女マンガの中ではわりと人気のあったもので全20巻続いていた。
普通の高校生が過去の世界に行きいくつもの出会いや冒険、事件を経ていつしか『特別』な存在になっていく。
最後には王子様と結ばれ皆に祝福されて国母になる。
最初は何でもない普通の女子高生。
特別な力があるわけでもない女の子がたくさんの人の『特別』になっていく。
私は子供心に彼女に憧れて、自分も皆に『特別』と思われる存在になりたいと思った。
5才とかの時の話だ。
8才くらいになったあたりにはすでに諦めた。
家庭も見た目も能力も普通でしかない私には多少頑張ったところでたかが知れている。
そもそもマンガの中の彼女は過去に行った時点で普通ではなかったのだ。『特別』だったのである。
高校生になった私はそんな事思っていたことも忘れかけていた。
なのにある日突然、私は『特別』になった。
ギシ・・・ギシ・・・。
ベットが軋んだ音を立てる。
私の部屋の安物のベットよりももっと安っぽい、けどこの世界のものからすると上質な位に入るそれ。
ざらつく麻の感触が素肌を擦る。
曲がりなりにもここは王宮で国の救世主である勇者の部屋なのたから絹のシーツくらい用意してほしいものだが、この世界において絹というのは非常に数も少なく高価なもので、王族といえど舞踏会のドレスにも毎回は使えない。
ましてシーツのような日用品に使うものではないらしい。
「・・・んっ」
耳たぶを甘噛みされて、思わず声が漏れる。
耳許で小さないやらしい笑い声。
勇者、と呼ばれる男の荒い息が首筋に触れる。
両足を大きく開かされて、身体の奥底に男の肉を受け入れる。
これで何度目だったか。
初めて男の部屋を訪れたのはこの世界に召喚されて一月経たない頃のこと。
レベルを上げるためだとか言われて強引にダンジョンに挑まされた日の夜だ。
逃げられないように周りを武器を持った兵士に囲まれて襲ってくる魔物を殺して歩いて。
私自身は戦闘には関与していない。
それでも後ろで怪我をして下がってくる勇者や兵士たちを必死に回復魔法で治療して、見たこともない血の量を目にして、血走った目で牙を剥き出しにして襲ってくる魔物を目にして。
怖かった。
恐ろしかった。
どうしようもなく恐ろしくて、同時に聖女と呼ばれる自分が自分自身で戦う力を持たないのだと自覚した。
守ってもらわなくてはならない。
誰か強い人に守ってもらわなくては。
それ以前から男には言い寄られていたが、正直あまり好きなタイプでもなく相手をするつもりはなかった。
けれどその日の夜。
私は保身のために男に自分の肉体を与えた。
保証もない信用もできない「勇者の俺が守ってやるから」という言葉を少しでも真実に近付けるために。
どうせなら聖女、なんて『特別』でなく私にも男のように自身が戦える『特別』を与えてくれていれば良かったのに。
勝手に他人を召喚したこのフザケた国も、世界も、この大嫌いな男も、全部むちゃくちゃにできる『特別』を力をくれたら良かったのに。
朝までいればいいとひき止める男を適当にあしらって、私はいつものように終わるなりすぐ部屋を出る。
自身の与えられた部屋に戻って魔法で作られた水でシャワーを浴びて眠るのだけれど、今夜はいつもと少しだけ違った。
男の部屋を出たところで、他人と行き逢った。
散歩でもしていたのだろうか。
彼はよく夜中に散歩と証して王宮の庭をうろうろしているらしい。
相変わらず俯きがちで、長い髪に隠された目許は窺えない。
私が聖女であり先程まで共にいた男が勇者なら彼は『魔術師』であり『錬金術師』だ。
一緒に異世界に召喚されてきた仲だと言うのにまともに話したことはない。
というより彼は非常に無口でほとんど口を開くことさえない。
特に話すこともなし、まして話しかけられたいとも思わない。
私は無言のまま彼の横を通り過ぎようとした。
「違うと思うよ」
何が?
まず思ったのはそんなこと。
今のは彼の言葉だろうか。
だとすれば、私に言った言葉なのか。
「あの人は違うと思うよ」
「・・・なによっ!」
頭に血が上った私は振り向き様に怒鳴った。
何が違うというのか。
彼にいったい何がわかるというのか。
「あの人は違うよ」
同じことを繰り返す彼の表情はわからない。
「だったら!」
自分が正しいとでもいうつもりか?
勇者である男ではなく彼に、自分に媚びを売れとでもいいたいのか。
「間違えないでね」
何を。
「俺はもっと違うから。俺だったらあの人の方がマシ。だけどあの人も所詮使い捨てだし、それ以上になれる人でもないでしょ?保身のためにしても、もっと『特別』になりたいにしても、取り入るなら別の人間がいいんじゃないかな?」
「なによ、それ・・・」
笑ってる。
彼の僅かに覗いた口許。
ほんの少し。
だけど確かに。
彼は笑っていた。
それ以上何も言わずに彼は歩み去って行く。
自分にあてがわれた部屋ではなく、別の方向へ。
私はしばらく彼の背を見送ってから、自分の部屋のドアを開けた。
頭の中には彼に告げられた言葉。
「違う人、か」
誰のことを言ったのか、浮かぶ人物はさして多くはない。
私はゆっくりと部屋へ入ると、後ろ手にドアを閉める。
「・・・・・・どこが『聖女』なんだか」
勇者といい、聖女といい、魔術師といい、ろくな人間が揃っていない。
だがこの国だってろくでもないのは同じだ。
そんなこと、すでに気付いている。
ならば似合いというものだろう。
「ふん」
笑ってしまう。
私は着ていた服を脱ぎ去ると、床に放ったままシャワーを浴びに浴室へと向かった。
新作始めました。
ポンコツ女神様とオデブちゃんのお話です。
お暇があればこちらも覗いて見て下さい。
『女神様の世界救済計画』です。
http://ncode.syosetu.com/n5884dl/
巻き込まれ~の続きもしっかり書いていきます!




