66
いよいよ困った。
一晩ダンジョン入口である穴の側で交互に眠りながら見張りをしてみたものの、討伐した魔物は森のものばかり。
ダンジョン入口からは一体足りとも姿を現さず、そのまま朝が来てしまった。
「う~ん、どうしようかしらね?」
『ひとまず時間を決めて入ってみたらどうだ?』
頭に響く声に頷きながら、カティはリリスに向き直る。
「佑樹が時間を決めて入ってみたらどうかって」
『うむ、それが妥当やも知れんの』
本音を言うなら今は旅の、それも期限のある旅の途中であり放置してしまいたい気持ちはある。
偶然見つけたものでもあるし、そもそもガルーダというイレギュラーがあってこそ発見したもので、本来ならこの先ずっと長く発見されなかったはずのものだ。
とはいえ見つけてしまったからには見なかったフリというのも万が一後で大規模化したダンジョンのモンスターに街が襲われました。なんてことになった時にとてつもない罪悪感に苛まれるだろうし。
「そうね。朝食をとったら2時間ほど潜ってみましょうか」
リリスの提案に皆で同意してまずは荷物を確かめる。
ダンジョン内は大抵光苔などで自然の明かりがあることが多いが、中には暗闇もある。
松明や明かりを発する魔石を利用した魔道具は必須。
他にも回復薬はもちろん昆虫系の魔物が嫌がる匂い袋、数日分の食料に水ははぐれた時を考えると個別に一人一人が持つ必要がある。ダンジョン内には数多くの横穴や縦穴が存在するし、規模の大きなものほど巧妙な仕掛けやワナが多い。
例えばある石を踏むと回転して縦穴に落ちる。
が、二度目になるとその石は動かず落ちた者の無事を確認することはおろか助けに行くこともできない。
そのような仕掛けがあることもある。
落とし穴というと人間が良く想像するような底に尖った杭があり串刺しにされるということはなく、ただ下層のどこかに落ちるというだけだが、怪我をすることもあるしそこからは一人きりでダンジョン内を探索しなくてはならなくなる。
下層に潜れば潜るほど複雑化するダンジョンの中で仲間とはぐれるのはよほどの冒険者でなければ死に直径すると言われるほど。
そのような場合に少しでも生存率を上げる準備はダンジョンを探索する冒険者には当たり前のことだという。
ろくにそのようなことを考えずダンジョンに入って結果痛い目を見たカティには耳の痛い話だ。
カティ、リリス、フラウ、テディとそれぞれに分けた荷を渡し、リリスは「当然だけど」と皆を見回した。
「はぐれないように気を付けるのが第一前提だから。ダンジョン内では勝手な行動は厳禁。一人で前には絶対出ない。足下や壁には常に気を付けて。壁には体重を掛けない、歩く時は一歩ずつ床を確かめてから。いいわね?」
真剣な様子で頷くカティたちにリリスは少し頬を緩める。
「もっともそういった仕掛けがあるのはある程度大規模化したダンジョンだけだから、まあ大丈夫だと思うけどね。はっきりした規模がわかっていない以上気を付けておくにこしたことはないわ」
『それもそうだな』
「ああ」
「さ、それじゃ朝ご飯にしましょ。まずはしっかり食べて体力つけないとね。てなわけでよろしく」
まったく手伝う気のないリリスの言葉にカティは苦笑しながら朝食の準備をすべくアイテムボックスを開いた。




