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『味薄いー。シチューなのに白くないー。これシチューじゃなくて野菜汁だろ。あぁクリームシチューが食べたいー』

(ムリ言うなよ)


 王都の外れの安宿。

 王宮からは離れたものの、村から出たこともないカティに王都付近の地理がわかるはずもなく、王都の露店商で焦げたボーボー鳥の串焼きを買うのと引き換えに東の隣国ペルージに抜ける道を教えてもらった。

 ボーボー鳥は鳥とつくが地球で言う鳥ではなく魔物だ。

 ボーボーと燃える羽根を持ち、鶏よりも一回り小さく討伐は簡単。水をかけると動きがノロノロになるのでそこを狙う。

 羽根の火は触るとぬるま湯程度の熱さで他のものに燃え移ることがなく死ねば消え失せる魔法の火。数が多く討伐が簡単なので味はいまいちだが値段は安く庶民の味として親しまれている。

 そんなボーボー鳥だが、佑樹の評価は最低だった。

 いわく、消しゴムみたいな味。

 散々不味い不味いと文句を垂れる佑樹を宿に着いたら少し豪華な食事にするからとなだめすかして歩くこと半日。

 ひとまず一晩休みを取ろうと宿に入り約束通りカティ的にはごちそうの部類に入るシチューとパン、果物付の定食を頼んだのだが、佑樹のブー垂れは止まらなかった。

 カティとしても記憶の中で見た日本の食と比べたら不味いのはわかる。

 わかるがここは日本ではないのだ。

 シチューといえば今食べているような野菜を僅かな塩を入れて煮詰めたものだし、パンだってはっきり言ってパサパサで硬い。

 でもこれが標準装備なのだ。


(俺だってクリームシチューが食べたいよ)


 記憶を思い出すと食べたことのないクリームシチューの味が思い出される。

 思い出すだけで口の中いっぱいに唾が溢れた。


(けどこの世界にホワイトソースはないんだって)

『・・・・・・』


 はあ、とため息をついてシチューという名の野菜汁をすすり、硬いパンを口に入れた。

 ここまでの道筋で二人は幾つかの検証をしながら歩いた。


 どこまで感覚を共有しているのか。

 佑樹の意志で身体を動かすことはできるのか。

 お互いが見た記憶はそれぞれ齟齬はないのか。


 そういった確認だ。


 ボーボー鳥を食べた時点で味覚を共有していることはわかった。

 歩いていて疲れたという感覚も、足の痛みも。

 試しに頬をつねってみても、佑樹は痛いという感覚をしっかりと感じていた。


 このあたりからして、身体的な感覚や感触はほぼ共有していることがわかった。


 ただ身体は佑樹の意志ではまったく動かないらしい。


 記憶に関しては幾つかお互いに質問をし合った結果、たぶん己の記憶で間違いないと赤面し合った。

 自分しか知らないちょっと恥ずかしい記憶も見られていたから。


『・・・こうなったら自分で作るしかないな!』

(いきなり何?)

『作るんだよ!ホワイトソースにクリームシチュー。あとハンバーグにカレー!』

(またむちゃくちゃな・・・)

『塩も胡椒もバターも牛乳もあるだろ!香辛料も!』

(塩胡椒はバカ高いし、バターと牛乳はブラックバッファローのだけどね)


 ちなみにブラックバッファローもボーボー鳥と同じで魔物である。肉は一部の地域では焼いて食べるらしいが猛烈に臭い。

 カティは昔一度だけ食べて速攻吐いた。


(・・・ちょっと待った。もしかして佑樹がペルージに向かおうって言い出したのってまさか)


 ペルージはカティでも知っている香辛料を多く栽培製作している国だ。食の国としても知られている。

 同時に鍛冶職人の国としても知られ、高い武力を誇る国でもある。

 リューレルートと国境を接しているのは南のウルグ公国、北西のエルジァ、東のペルージ。

 ウルグ公国は今現在リューレルートと戦争の真っ最中。

 ここ数ヶ月大きな戦はないが、国境線は常に小競り合いが続いている。

 そこでエルジァとペルージのどちらかにとなったのだが、佑樹がやたらとペルージ推しだったのである。

 高い武力を持ち、勇者を手にしたリューレルートといえどそうそう手出しはできない国、それはカティも納得できる行き先で、特に異論もなくペルージ行きが決まったのだが。


『どうせ旅すんなら旨いものがあるとこのがいいだろ』


何だか力が抜けるのは何故だろう?




キリが悪い気がしたのでラスト一行だけ付け足しました。

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