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「さあ、あたしにかしずきなさい」
慣れてきたとはいえ、さすがに20頭以上のベビーパンサーに追いかけられ囲まれるのは肝が冷えたが、カティたちはなんとかボスらしいキラーパンサー1頭を除いた全ての魔物を討伐した。
残る1頭の前にはリリスが一人立ち、すでに5分程もどちらも動かないまま相対している。
テイムというのはカティも始めて見るが不思議なものだ。
本来ならすぐにも襲いかかってくるはずの魔物が不可視の鎖にでも縛られているように動かない。
時折身動ぎはするが、4本の足は地に縫い付けられたように一歩足りとも前に出ない。
「さあ!」
ピシリと叩きつけるようなリリスの声。
真剣な瞳は相対したキラーパンサーのそれと絡み合い離れない。
しばらくはカティたちも息を飲んで見守っていたが、いっこうにただ見つめ合うだけの両者に飽きたのか、フラウとテディは討伐した魔物の解体に向かった。
カティもどうしようか、と焦れ始めたその時。
変化があった。
抵抗するように身動ぎし呻いていたキラーパンサーの身体が力が抜け落ちたようにくずおれる。
ペタリと地に腹をつけ、頭を垂れた。
ふっとリリスの肩からも力が抜けたのが見て取れた。
「いいコね」
にこっと笑ってリリスはおもむろにキラーパンサーに近づいていくとその頭を撫でる。
「呼ぶまで中に入ってなさい」
リリスがそう告げると、キラーパンサーはその場から姿を消した。おそらく従魔ボックスに入れられたのだろう。
「おまたせ」
「上手くいったみたいだな」
「当然よ」
リリスらしいセリフにカティも思わず笑みをこぼす。
「ご主人さまー!きらきらしたもの見つけたですー!」
解体をしていたフラウがなにやら手に握りしめて走ってくる。
ほら、と手を開いて見せてきたものはどうやらキラーパンサーの魔石のようだ。
「ずいぶんデカイな」
「そうね。これならかなり高く売れるはずよ」
ニコニコとリリスは上機嫌だ。
キラーパンサーはBランクの魔物である。
従魔としてもかなりいい部類に入るのかもしれない。
「さて、とりあえず集落にもう心配ないと伝えにいきますか」
「はいです!」
「ああ」
カティも頷いて慌ててフラウが解体したものをアイテムボックスに放り込んだ。
口々に礼を言われて、何度も頭を下げられながら集落を後にする。家に閉じ籠りきりだった子供たちがさっそく外を走り回っていた。
「いや、本当に助かりました。存亡の危機でしたからな」
散々引き止められて、豪快に笑う村長に見送られて集落を出た頃には急がなくては町に着いた頃には日が暮れる時間になった。
「マズイわね」
悪気かないことは分かるので文句は言えないが、予定外に時間を取られてしまったのは、確かだ。
村長にはぜひ泊まっていって歓待させてくれとも言われたが、ギルドへの依頼料も少なくなかったはずで、カティたちは遠慮させてもらった。
なにより明日もまたクエストを受ける予定だから今日のうちに町に帰っておきたい。
「休憩はなしで山を下りたら馬車を使うか?」
行きは徒歩だったがそれでは町に着くまでに暗くなってしまうかもしれない。
夜は魔物も活発になるし、なにより町の門が閉まってしまう。
「・・・んー、でもギルドにも寄りたいし」
『いや、それはいくら頑張っても厳しいだろ』
(だよな)
「ガルーダに乗せてもらいましょうか」
「でも誰かに見られないか?」
「山を越える手前で降りたら大丈夫でしょ」
『わしは構わんぞー』
「そう?じゃお願いね」
「いや、ちょっと待って・・・」
「なによ、もしかして怖いの?」
「え?いや、別に・・・」
本音を言うとちょっと怖い。
カティはそう思いながらも語尾を濁した。
鞍もない状態で巨鳥に股がって空を飛ぶと想像したら、正直ゾッとする。
(いきなり怖すぎるって・・・)
近いうちにやることになるのはわかっているが、いきなりは勘弁してほしい。
だがリリスはそんなカティの様子に目を細め意地悪く笑った。
「練習にちょうどいいじゃない」
『・・・諦めるしかないな』
「わーい!お空を飛ぶです!」
フラウまで喜び出したらもうカティだけでは止められない。
カティは蒼白になりながら、必死に悲鳴をこらえて始めての空の旅を経験することになった。




