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「サイズは大丈夫そうね」
カティが試着したインナーの袖口を弄りながらリリスが言うのにカティは小さく頷いてみせた。
黒いタートルの厚手のインナーは身体にぴったりと吸い付くようで、はっきりと身体のラインがわかってしまう。
一応下半身はインナーの上に店で借りた短パンを履いているものの、それでもリリスにじっくり見られている今の状況はなんだか恥ずかしい。
「軽く動いて見て」
言われるがまま軽く全身を動かしてみる。
リリスに薦められたこのインナーは麝香蜘蛛という魔物の糸を何重にも編み込んで作られたものらしい。
糸の一本一本が非常に細くそれでいて強く、柔らかいこの糸は冒険者が鎧や戦闘義の下に着るインナーや貴族等上流階級のシャツに使われている。
伸縮性も強く、肌に貼り付いていても動き憎さはなく、軽い。
「うん、大丈夫そうね」
リリスは満足そうに頷くと、横で窺っていた店主に「これを上下でとりあえず3枚ずつ」と勝手に注文してしまう。
「ちょっ・・・リリス」
カティは小声で「これ高いよ」と言ってはみたものの、多分意見は通らないだろうなとも思う。
リリス的には決して高過ぎるものではないのだろうから。
「ものがいいんだから高いのはしょうがないわよ」
「けどインナーだろ?」
これだから初心者は、とリリスはこれ見よがしに肩を竦めた。
「あなたが高価で立派な鎧やら盾なんて持っても意味ないんだから、これでいいのよ」
「えーと・・・」
あまりないい様にカティは絶句した。
確かにカティに高価な鎧など文不相応というものではあるが。
ふぅ、とリリスはため息を一つ着くと、子供にいい聞かせるような口調で言葉を続ける。
「あなたの力で鎧を着込んだり盾を持ったりしてまともに動けると思う?まず無理でしょう。あなたの利点は体重が軽くて素早く動けること、魔法で遠距離の攻撃ができること。なのにわざわざ重い物を着込んだりして動きを悪くする必要はないの。攻撃を耐えることではなく避けることを考えなさい」
「はあ」
「だから、あなたの防具はこれとあとは胸当て籠手と、膝当てと、フード付きのマントね。ホントはきちんとした戦闘着もほしいところだけど、そっちはゴルディアに行ってからの方が良い物があるから。しばらくは今のままね」
言いながらリリスはインナー類のの並んだ棚から胸当てや籠手の並んだ棚に移動していく。
「麝香蜘蛛の糸で編まれた布は高いけど昆虫系の魔物の針や牙を通さないし、ある程度衝撃も吸収してくれるのよ。風を通さないから防寒性も高いし。高いだけのことはあるんだから。おじさん、金貨30から40枚くらいでセットになったものってないかしら?出来るだけ軽くて動けるものがいいわ」
後半は揉み手をしながら後をついて来ていた店主に向けてだ。
「それならこっちの箱で並んでいる分がおすすめです。胸当て籠手膝当てが揃いになってまして、これなんかはブラックホーンブルの皮に魔鉱石が挟み込んであってCランクくらいまでの爪や牙なら充分防げますよ」
「ふーん、魔鉱石が使われてるなら魔法防御も少しは出来る?」
「それほど効果は高くはないですがね。マントも購入されるならそちらに魔法防御の高いものを選んでおけばいいと思いますよ」
「そうね。はい、これ着てみて!」
ガシャ!と音を立てて箱を渡され、カティはすごすごとまた試着室へと向かった。




