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(・・・マジっすか)


 あ、佑樹言葉出た。

 用は済んだとばかりに背を向けて立ち去っていく兵士2人を唖然と見送りながらカティが思っていると、頭の中でツッコミが入った。


『なんだよ、佑樹言葉って』

(佑樹が使ってたこっちだと使わない言い回しとか言葉?)


 さん付けやめろと言われたので、遠慮なく呼び捨てにさせてもらっている。

 まあ、これから長い付き合いになるんだろうし、いいよねってことで。


 しかしびっくりだ。

 何がってこんなに佑樹の思惑通りに事が進んだこと。

 人間、何かに気を取られていると少し離れた所で突っ立っている人がいても気が付かないものらしい。

 実際カティは自分から声をかけるまでまったく気付かれないまま、物事は先に進んで行った。


 まずは勇者としてのお力の確認を、ということで、カティが奴隷商の元で行ったと同じステータス鑑定が始まり。


「おお、さすがは勇者さま!」

「ふむ、まさしく聖女様ですな!素晴らしい!」


 散々褒め称えられて、未だ硬い表情ながらも満更でもない様子のサラリーマンと女子高生。

 男子高生だけはずっとうつむいて表情が読めない。


 聞こえてきた話によると、勇者たちには皆佑樹の世界で言うとチート的な能力を身に付けているらしい。

 単純な体力や魔力はだいたいこの世界の平均の5倍近く。

 スキルも鑑定や言語補正、アイテムボックスといった補助的なものから聖剣だの全属性魔法だの特級回復魔法だの死霊術だの勇者スキルという特有のスキルがあるようだ。


 カティはできるだけ気づかれないようにじっとしてろと言われているのでただ聞いていたが、頭の中では佑樹がなにやら『ステータスか。んーヤバいかなー。先に確認とか・・・お、これか。ふんふんよしよし。・・・いけるな。えーっとこれをこうして、こっちは隠して、これはこんな感じか?』

 ぶつぶつ言いながらなにやらしている気配。


『よし、いいぞ』

(へ?)

『声かけて気づかせてくれ。いいか、お前は異世界から召喚された勇者。この世界の記憶は何もない。今気が付いたばかりだからな。そういう顔してくれよ』

(・・・どんな顔だよそれ)


 戸惑いつつ「あのー」と声をかけたカティに部屋中の視線が驚きと共に突き刺さった。


 それからはカティは完全に佑樹の操り人形だった。

 佑樹が言ったセリフをそのまま繰り返す。


 白い光に包まれて気がつけば自分のものではない身体でここに立っていた、と。


 当然ながら場は騒然。

 王様が「どういうことだ!」と白ローブの1人に問い詰め、首根っこを引っ捕まれた白ローブは冷や汗たらたらで「おそらく召喚に失敗し、魂だけが召喚されてしまったのだと・・・」と白状させられた。


「生け贄・・・いえ、召喚に必要な魔力の量が少なかったのやも知れません。こちらの世界にくる前に肉体と魂が分離してしまい魂だけがその身体に宿ったということでしょう。その身体と魂の波長があったのでしょうな」

「ふうむ、では元の持ち主は・・・」

「おそらくその者の魂はすでに肉体を離れていたのでしょう。一つの肉体に2つの魂が宿るとは考えられませぬ」

『おお、おっさんナイスアシスト!』

(まあ、普通はそう思うか)


 あたふたバタバタしながらも、ひとまずステータス鑑定をという流れになり、水晶に手をかざす。

 現れたステータス画面にあからさまに意気消沈する王様たち。

 カティは簡単な文字や数字くらいしか読めない。

 その為文字が日本語に見えるという佑樹に簡単に解説してもらったのだが。


 すごく残念な結果だった。


 体力はこの世界の平均と比べても下の下。

 魔力は村人にしては相当だが、あくまでも村人のわりには。

 スキルは鑑定、言語補正、アイテムボックス。

 勇者スキルは一つだけ。


 ガチャ。


 ノーマルガチャとレアガチャがあるらしく、ノーマルガチャは魔物を倒すとポイントがたまり10ポイントで一回回せる。

 レアガチャは、お金をとるらしい。

 1回、大金貨10枚。

 この世界の貨幣を日本円に直すと、


 鉄貨1枚 10円

 銅貨1枚 100円

 銀貨1枚 1000円

 金貨1枚 10000円

 大金貨1枚 100000円


 多少の誤差はあるが、概ねこんな感じだと思う。

 つまりレアガチャは一回100万円。

 高い。


(高すぎだろ!ムリだし、回せないし!)

『あー、ホントは金貨一枚だけど、ちょっといじって高く見せてんの。万が一回して見ろって言われていいのでちゃったら困るからさ。スキルもまだあるよ、後で日本語で見せるから』


 金貨一枚でもカティの感覚からすれば充分に高過ぎるのだが。

 なにやらしていると思っていたら、佑樹はステータスを偽装していたらしい。

 勇者スキルの中にそういったものがあったのだとか。


「こ・・・これは?」

「やはり召喚に失敗してしまったせいかと・・・」


 王様に睨み付けられて、白ローブがまたもへこへこと頭を下げながらモゴモゴと言っている。


『今だな』


 頭の中で佑樹がニヤリと笑ったような気がした。


「あの、俺召喚失敗したんですよね」

「あぁいやそれはその・・・」

「いいんです。もうどうしようもないし」


 できるだけ落ち込んだ様子で塞ぎ込んで見せる。


「・・・俺、役立たずですよね」

「い、いやその・・・」

「この身体じゃあ元の世界に戻ってもしょうがないし」

「・・・も、申し訳ない!」

「俺、旅に出てもいいですか?」

「・・・は?」


 このまま役にも立たないのに勇者というだけでここに置いてもらうのは申し訳ないし、他の勇者と自分を比べてしまってきっといたたまれなくなる。

 だったらいっそせっかくの異世界を見て回りたい。。

 その上でこれからどう生きていくかを1人で考えたい。


 云々。


 カティは佑樹のセリフを繰り返す。

 あくまでも下手に。

 でも今自分がこうなってるのはあんたらが召喚失敗したからだよね?と、言い含めるのも忘れない。


 結果、カティは布袋一つ分のお金と、皮の鞄一つ分の食糧と、小さなナイフ一つをもらって、城の兵士に王宮の外まで送ってもらって、兵士は立ち去って行った。


『おら、早くここから離れてくれ』

(・・・あ、うん)

『できるだけ急いで王都を離れようぜ。でないといつ追っ手がくるか知れないからな』

(そうなの!)

『当たり前だろ。あの場は他の勇者がいたからこっちの要求を飲んだだけ。一応ただの役立たずって思っただろうから捨て置いてもいいってのもあっただろうし、厄介者を放り出せるってのもあったんだろうけど、いつ気が変わってやっぱり殺しておこうってなっても不思議じゃないね。あの王様ロクな人間じゃないし』


 カティは思わず追っ手はいないかと辺りを見回す。


『できれば国からも早めに出ておきたいけど。まずはここから離れて落ち着ける場所を探そうぜ』


 早く早く、と追い立てられて、カティはその場を離れた。


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