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あ、人生終わったわ、これ。
カティは父親に生まれ育った村から連れ出された先で、いかにもカタギでない男たちの前に引き出されながら、そう思った。
ずっと干魃続きで畑にろくな収穫もなく、国は長く戦争しているから助けもあてにならない。
口減らしにされるのなら次は自分だろうな、とは薄々感じてはいたが、と脳裏に一月程前強引に冒険者になれと家を出された兄の顔が浮かぶ。
冒険者になれと言っても、元々鍬や鉈しか手にしたことのない村人が1人でやっていけるわけがない。
ただの口減らしに追い出されただけだ。
で、今度はカティの番。
しかも父母は追い出すだけでなく、カティを売って金を得ようとしているらしい。
(まあ、一応覚悟はしてたけどね)
ちょっと早くないか?
と思うのだ。
食い扶持が1人減ってまだ一月なのに。
その一月も環境は改善することなくひどくなるばかりだったから、仕方ないのだろうか。
納得はもちろんできないけど。
父はカティを男たちに引き渡すと金の入っているのだろう小さな布袋を受け取り、いそいそと去って行った。
カティはというと奴隷商の男たちに両手を縄で括られ、馬車に乗せられる。
(ああ、短い人生だったなあ)
ただの田舎の村人であり、16才のカティだって奴隷がどんな扱いを受けるかくらいは知ってる。
ボロボロになるまで働かされて病気になったりケガで動けなくなったら死ぬまで放置されて死んだらその辺の森とかにポイっ。
奴隷の平均寿命は半年あればいいとこだったか。
(半年あるかも微妙なところだよなぁ)
その半年も死んだ方がマシと思うレベルの扱いが待っているのはもはや確定だろう。
ホント、詰んだな。
そんなことを思いながらも馬車に揺られて半日と少し。
どこぞの町に着いた馬車は奴隷商の倉庫に止められ、着くまでに増えた三人の少年少女と共にカティはひとまとめにされて狭い部屋に放り込まれた。
部屋の中には他にも売られてきたばかりらしい少年少女が覇気のない面持ちでそれぞれ座り込んでいる。
まだ奴隷の首輪は付けられておらず、まだ奴隷契約は成されていないのがわかる。
カティは部屋の隅に座ってしばらくぼんやりとしていた。
あれこれ考えてももはやどうしようもないし、未来はすでに終わっている。
こうなったらせめて奴隷商が少しでもまともな買い主に売ってくれることを祈るのみだ。
その日はカティの後に2人の子供が部屋に入れられた。
窓がないので確かな時間はわからないが、多分夕暮れ過ぎに一度パサパサのパンを1つだけ与えられ、身体を横たえるだけの隙間はなかったから座ったまま身体を丸めうとうとする。
乗り慣れない馬車に疲れていたのか、いつの間にか眠っていた。