転生ヒロインが逆ハーレムを築くなんて、私の予想通りですわ。
2015/10/19 少し内容を加え、誤字を訂正致しました。
「セシリア・アルバートン、お前との婚約破棄をここで宣言する!!」
…あら、やっぱりこの世界は“乙女ゲーム”だったのね?
一年に一回ある学園の数ある行事の中で最大規模のダンスパーティー。
今年も全校生徒が集まり、さあ始まるという時間に、私の婚約者であり、この国の王太子であるフィリップ・ディズレーリ様は宣言なさりました。
私との婚約を破棄にする、と。
「あら、そうですの?」
私は動揺なんてしませんよ?
だって私はこうなる事を“予想”していたのですから。
私、セシリア・アルバートンはアルバートン侯爵家の長女としてこのディズレーリ王国に産まれました。幼いことから私はある事を知っていた。
これは私が転生者であることを意味します。
あぁ、頭がおかしくなった……、なんてことはございません。
私はセシリア・アルバートンと他にもう一人の女性“本庄秋桜”という方の記憶があるのです。
そうですね、このことに気づいたのは私がまだ三歳の頃だったでしょうか?
いつもの生活をしている筈なのになにか言いようのない違和感を感じたのです。
深く深く考えるほどその違和感は確かなものとして私の頭の中に流れてきたのです。
私は“ニホン”という国で至って普通の、そうですね。今で言う庶民の生活を送っていました。
その頃にハマっていたのはネット小説。
数多くあるネット小説の中で私が一番好んで読んでいたジャンルは“ヒロインぷぎゃーもの”でした。
悪役令嬢が転生ヒロインをぷぎゃーする、あの時では一種の王道だったのではなかったでしょうか?
その記憶がある私は、目が覚めて一番に感じたことはここは“乙女ゲーム”の世界ではないか、ということです。
生憎私は“乙女ゲーム”をやった事はなく、ネット小説で“乙女ゲーム”を基盤とした小説を読んだ程度です。
ですから、私の名前や顔を見ても私が“乙女ゲーム”のキャラクターなのかはわかりませんでした。
しかし、この世界に“ニホンジン”であった私の記憶がある、そしてあの世界では考えられなかった貴族社会であることに、私は幼いながらもここが“乙女ゲーム”の世界ではないかと疑ったのです。
しかしそのような事を周りの人間が知っているはずもなく、もちろん私がモブなのかヒロインなのか、はたまた悪役令嬢なのかも分かりません。
また、誰が攻略対象者なのかもわからない段階では、私には何もすることはございません。
ですから私はどんな立ち位置であってもいいように教養を身につけることにしたのです。
礼儀作法に学問や流行、侯爵令嬢として必要な知識、これら全てを学ぶことを決意しました。
この世界では、子供が学び出すのは六歳を過ぎてからというのが一般的でした。
もちろん私の家もそうだったのかもしれません。
ですが私は一刻でも早く身につけることにしたのです。
もしかしたら、私はとても不器用で人一倍頑張らなければダメかもしれないという危機感が働いたからです。
実際、私は自分で言うのもなんですがとても優秀でした。
干からびた大地のように、知識を水のように吸い込んでいき、気づけば周りからは神童だと言われるほどに。
ですが私はここでは辞めません。もちろんまだ私には全てが学び終えたわけではありませんので、推測される“乙女ゲーム”の世界である学園に入学するまで学び続けました。
前世の私ではこんなことは出来なかったでしょう。人並み以上に知識欲はありましたし、勉強も嫌いではありませんでしたが、それでも程々に力を抜いていました。
ですがこれから先、何が起こるかわからない。もしかすると私は断罪され、地獄の人生を味わうかと思えば、この様な勉強は苦にならず、むしろもっともっとと、意欲が湧いたくらいです。
しかも礼儀作法に学問など、“ニホン”では得られなかった新しい事を知れると言うことだけで、とても魅力的に写ったのです。
そして、私が学園に入る前に“乙女ゲーム”の伏線のような出来事が二つ、私の日常に投下されるのです。
一つは“婚約者”の誕生。
侯爵家とは貴族の中でも高位貴族としてとても格式が高いのです。
そして、我が国に誕生なされた第一王子と年齢が近いということで、私は八歳の頃に既に決まってしまいました。
もちろん、顔見せもなく婚約が決まった訳ではありません。
王宮で行われたお茶会にて、候補である令嬢たちが集まり、その中から私が選ばれたというわけです。
先ほど申しましたが、八歳の頃はすでに私は神童として噂に廻っていたし、家柄や容姿の良さなどから見て私が一番の最適者であることがこの婚約の決め手となったのでしょう。
そこで私の婚約者であるフィリップ・ディズレーリ様と正式に婚約をしたのです。
私がこの婚約が決定してまず始めに思ったことはもしかしたら私は“悪役令嬢”で、フィリップ様は“攻略対象者”ではないかという疑いです。
“ヒロインぷぎゃーもの”の小説にはよくある話の流れでしょう?
二つは“優秀な弟”の誕生です。
我がアルバートン侯爵家には私と歳が八歳ほど離れた兄がいました。
兄は侯爵家の跡取りとして日々お忙しく過ごされ、跡取りとして必要な知識をつけていかれました。
しかし、私の一歳下に産まれた弟は、そんな兄を嘲笑うかのような天賦の才能を持っていました。
私以上に優れた頭脳、そして彫刻品のように美しい容姿。
これはまさしく弟が“攻略対象者”として相応しいと太鼓判を押しているようなものではありませんか?
以上二つの事より、私はここが“乙女ゲーム”の世界で、私が“悪役令嬢”であるという仮定が確固たるものとなったのです。
私はこの仮定が確信に変わっていく間に様々な事をしました。
まずは婚約者であるフィリップ様の観察と、弟のヴァーノンと仲を深めることです。
フィリップ様ががどのような性格であるかどうか、どのような人生を歩んでいるのかどうか。
ヴァーノンという弟の性格からどう仲良くなるか、日々打算を重ね過ごしてきました。
そして十五歳のころ学園に入学し、そのまた一年後ヴァーノンが学園に入学した時、私は“乙女ゲーム”の世界がスタートしたと確信しました。
日に日にに疎遠になっていくフィリップ様との仲やヴァーノンとの仲。
そして彼らと彼らと同じような“攻略対象者”でありそうなご子息に近づく、特待生で庶民である“ヒロイン(仮)”の姿。
そこから私は考えました。
あからさまに“ヒロイン(仮)”から向けられる謂れのないイジメの主犯格という噂を覆すために動くのは、“ヒロイン(仮)”である多分私と同じく転生者に疑われてしまいます。
もしかしたら彼女もネット小説にて“ヒロインぷぎゃーもの”を知っているかもしれません。
それを考えますと、私は犯罪にならない範囲で“悪役令嬢”の役割を果たしました。
いえ、本当に犯罪は犯していませんよ?
だって私がしたことと言えば、“ヒロイン(仮)”の学園での無礼な振る舞いに注意したり、婚約者持ちであるご子息に遠慮なく付きまとう無礼な振る舞い。
……あら、彼女は無礼な振る舞いをし過ぎではありません?
ですから、私は噂に流れている階段から突き落とした、など、トイレの上から水をかけた、など一切行っておりません。
さぁさぁ、この舞台、どうしましょうか?
「おい、聞いているのか!」
「はい、フィリップ様。もちろんです。」
私は婚約破棄を言い渡された身でありながら一切の動揺も悲しみもみせてないことが、とても不気味に映ることでしょう。
しかし、私はそのことを“予想”していた身でしたし、特にこれといってフィリップ様に愛情を持っていた訳ではないのでダメージなどありません。
「お前はこのミシェルに数々のイジメをしたのだ!そのような悪女にこの国の王太子妃になることなど、わたしがさせぬ!よってこれからはこの優しく常識のあるミシェルを私の婚約者とする!」
「姉さん、自分が殿下に好かれてないからってやりすぎじゃない?見損なったよ。」
「ま、待ってください!セ、セシリア様…、貴女に謝っていただけるだけでいいのです。早くご自分の罪をお認めください!」
「そうですねぇ、そう言われましても私はやってないのが真実なので……。何を謝れと言うのでしょう。」
「素直に罪を認めることもできないのか!ミシェルが罪を認めれば許してやると言っているのだぞ!」
フィリップ様の背中に隠れ、とてもか弱そうにしかし正義を胸に発言なさるミシェル様。
そして彼女を守るように周りを固める我が弟のヴァーノン、そしてほかの“攻略対象者”の方々。
彼らは私を親の敵の如く、ものすごい眼力で睨みつけていらっしゃいます。
そしてミシェル様は目に涙を浮かべこちらを見ています。
ですが皆様、周りをご覧になりましたか?
フィリップ様が婚約破棄を宣言なされた時は、会場中の皆様は何事かとこちらに視線を向けていましたが、話が進むにつれ興味をなくしたのか、私たちそっちのけでダンスパーティーを楽しまれておりますよ?
ふぅ、と私は自分の不運さにため息が出てしまいました。
そしてこれから告げる最後の勧告のため口を開こうとした、その時……。
「あら、ここで皆様は何をなされているのかしら?」
「……王妃様。」
私の肩にそっと手を置かれ、フィリップ様方に見せる笑顔はとても美しいもの。
しかし、聞こえる声はとてもそのお美しいお顔からだされた声だとは思えないほどの底冷えとした声でした。
「な、母上!?」
フィリップ様は驚かれてらっしゃいますが、この学園での最大規模のダンスパーティーは、御家族の方々招待されているのをお忘れですか?
まぁ王族の方がこられるとは思われませんでしたかもしれませんが。
「フィリップ、お前は何をしているのです?」
「あ、あの!私はセシリアの悪事を正そうと…!」
「それで、婚約破棄ですか?我が王族と侯爵家との契りを、王太子であるお前が独断で行えることですか?」
王妃様は最初浮かべられていた笑みを消し、目を細められておられます。
そのような顔をされても美しさは失われないとは、罪な方ですわ。
「ねぇ、セシリア嬢?」
「はい、王妃様。」
「先程から聞いていたのだけど、貴方はあそこのお嬢さんにイジメをされていたのかしら?」
「いえ、そのような事はしておりません。」
「セ、セシリア様!」
王妃様のご質問にお答えすると、いつの間にか顔面が青ざめていたミシェル様が私の名を呼び、叫ばれておりました。
「いかがしました?ミシェル様」
「な、なんでこんなことが!シナリオと違うじゃない!」
ミシェル様は混乱され、この世界ではわからない言葉を連発なさいます。
ですがこの場にその言葉を理解できる人間はいるのですよ?
ほら、私とか……、王妃様とか?
「やはり其方は転生者であったか。」
ぼそりと発せられた言葉は王妃様のもので、近くにいた私は聞こえておりました。
しかし、私は聞こえていても特に疑問を持ちません。
だって私は、王妃様も転生者であることを“予想”していたのですから。
私が初めて王妃様とお会いしたのは、フィリップ様との婚姻が決定した時です。
私は“乙女ゲーム”をやったことの無い身ですから、フィリップ様の設定が違ったとしても分からないのです。
しかしその時、王妃様は私に言われました。
“フィリップを見て何も感じないのか?”と。
私はこの質問で、王妃様が私と同じ転生者であると予想しました。
普通のご令嬢が聞けば、フィリップ様のご容姿についてかと思われるかもしれませんが、私にはこの質問は、キャラ設定と異なるフィリップ様の事を聞いたのではないかと、予想したのです。
もちろん確信なんてございませんので、私も転生者であることは隠しました。
もしかしたら王妃様は“ヒロイン”派かも知れませんからね。
「驚かないのですね?セシリア嬢。」
「ええ、王妃様がそうだと予想はしていましたから。」
「やはり、貴方は優秀な方ですね。もっと早くフィリップを止めていれば良かったかしら?」
「いえ、その必要はありませんわ。私は特にフィリップ様と絶対に結婚したいとは思ってませんので。」
「!……はは、やはり面白い方ですわ。」
そこからの展開は早かったです。
王妃様によってミシェル様の自作自演が公にされ、フィリップ様たちの処罰もたんたんと行われていました。
気づくとダンスパーティーは終わっており、私は寮にある自室に戻りました。
「……ねぇ、アル。もしかして貴方が王妃様をダンスパーティーに連れてこられたの?」
「私はただの従者でありますれば、そのようなことは出来ませんよ。」
私がソファーに座るとすぐに出された紅茶と私の後ろに仕えたままの私の幼い頃からの従者のアルフォード。
「何を言ってるの。貴方はただの従者なんかではないでしょう?」
「さぁ、どうでございましょう。ただ、私は主であるセシリア様の身の安全ため、出来ることをしたまでのこと。」
「ふふ、本当に頼もしいわ。」
「恐れ入ります。」
幼い頃から私に仕えたアルは、私の考えなんか最初からお見通しだったのです。
それに、もしかしたら私がよそ者だと言うことも分かっているのではないでしょうか?
しかし、彼の忠誠は主である私だけに注がれているので、問題ありません。
だから、今回の件もきっとアルが何かをしていると思って聞いたのだけど、やはり予想通りの言葉が返ってきました。
そんなアルだからこそ、私の従者であるのだけど。
「して、今日はセシリア様の“予想通り”に事は進みましたでしょうか?」
「……ええ、全て私の“予想通り”よ。」
私の“予想”は最後まで“現実”として降りかかりました。
まぁそれも一つ、勉強になりましたわ。
では、私はこれからの婚約者がいなくなった身として自由を謳歌しましょうかね。
お疲れ様でした、皆様方。
突発てきに書いた作品なので出来栄えはとても大丈夫ではありません。
少しこんなものも書いてみたいなーなんて思ったくらいですから。
だれかこの設定で小説書いてくれませんかね...?