7話:情報屋の友人
「さようならー」
とある公立高校、放課後のチャイムと共に響いた、無気力な生徒達の挨拶。それに担任教師が返事をすれば、皆は開放感に満ちあふれたような顔をする。……まぁ、無理もないよね。これで、今日の“学校”と言う名の、不可視の鎖から放たれるのだから。
僕も例外なく、そのうちの1人。授業は本当退屈で、眠いったらありゃしない。お経のような教師の解説を聞いたって、理解できるわけないじゃないか。伸び、をしながら、くうあ、と欠伸をする。
とにかく、今日はとっとと帰って寝よう。依頼も、なぎさ君が来て以来、ないし。
鞄を持って、帰路につこうとするところを、誰かに肩を掴まれ引き留められた。
……誰だ、一体。僕の下校を邪魔する不届き者は。不満げに振り返ると、そこには黒髪をショートカットにした少女が、僕の気なんて知らずに、ニッコリ微笑んでいた。
「……瀬音? どうしたの?」
気怠さを含みながら、彼女の名を呼ぶ。僕の友人である少女、舞野瀬音。
「やぁ。何でも屋を開いたんだってね。どう? 順調かい?」
そのセリフに、僕は驚いた。彼女の話すのが、これが今日初めてではないが、このことを話題として出したことはない。教えてもないことを知っているなんて。僕は息を吐くと、観念したように首を振った。
「まぁねー。早速昨日、依頼人が来たところだよ。……相変わらず情報早いねー……」
瀬音は、驚くほど情報通な人物である。生徒間の恋愛事情や人間関係、他クラスでの出来事。はたまた、教師の裏事情までも握っているのだとか。その辺は友人の僕にもよく解らないんだけど。
そのことから、ついたあだ名が「情報屋」。……まぁあながち、間違いではないでしょ。
僕が褒めると、瀬音は人差し指を振って、得意げな顔をしながら言った。
「情報屋をなめないことだな。依頼人が早速か? それはよかったじゃないか。とりあえず、出だしは順調ということか」
……何で偉そうに言うのさ。そんな僕の気にも触れずに、瀬音は腕を組み続けた。
「つかぬ事を聞くが、依頼が来なかったらどうする気なんだい?」
「そ、その時はその時だよ。ボランティアとかして、地道に僕らの名を広めていくよ」
似たようなことを岳にも言われたような気がする……と思い返しながら、事前に用意しておいた答えを返す。
「ほぉっ……すっごく地道、だな……」
「し、仕方ないでしょ!? ってか何がそんなに面白いの!? 笑わないでよ!?」
肩を震わせ、笑っている瀬音を咎める。……だってさ、仕方ないじゃん。それ以外考えつかないんだからさ。だったら、瀬音は何か案があるの!?
心の中で問ったが、口には出さないでおいた。どうせ、また馬鹿にされるんだろうから。
暫く笑った瀬音は、深呼吸をする。……にしてもさ、笑いすぎじゃない? 何がそんなに面白いのよ、ねえ。
「そうだ、星夜。実は私も武器屋を開こうと思っていてね。テロリストの開業に合わせね。 どうだ、この際だ。武器の1つや2つは所持したらどうだろう? 星夜の魔法は、戦闘向きではないのだろう?」
瀬音は友人でありながら、僕が魔法使いであることを知る唯一の人物でもある。
僕は他の人に、自信が魔法使いであることを話していない。話すとややこしいことなるし、なにより、忌み嫌われるから。
自身が使える魔法を思い返してみた。……確かに、戦闘向きではない。グットアイディアだ。……え、だけどお願い、一カ所ツッコませて。
「武器屋を開くの!? ……情報屋じゃなくて?」
情報屋の異名を持つ瀬音なんだから、後者の方が適していると思うんだけど。
「いいところに気がついたな、星夜。今のは、真っ赤な嘘だ」
「ええ!!?」
驚くと、瀬音はケラケラと笑う。……瀬音はよく、こうやって人をからかうのが大好きなのだ。
「なんだよー……それ」
唇をとがらすと、彼女は「ゴメンゴメン」と笑った。