6話:ここは魔法利用世界
なぎさ君を見送った後、僕はソファに腰掛けた。向かい側には岳がいて、腕を組んで何故か不満げにこちらを見ている。
あー……もしかして、なぎさ君が傍にいたとき、笑ったこと怒ってる?
そう思っていると、岳が口を開いた。
「……ねぇ、星夜。前にも言ったけど。本気なの? 本気で、本気で何でも屋を開業するつもりなの?」
厳しく、鋭く、咎めるように言う彼。彼は、この何でも屋を開くことを、少し前に反対していた。不満げな顔の理由はそれだ。
あー、怒られるんじゃなくてよかった.……じゃなくて。何でも屋について。そんなこと、答えはもうとっくに決まっている。
「うん。本気だよ。本当に、本当に何でも屋を開いていく」
岳の言葉に負けないように、強気に、真剣に答える。
すると岳は、テーブルの上に置いてあったリモコンをとり、テレビの電源を入れた。キィッ……小さな音を立てて、電源が入る。そこに映し出されたのは、何処かの建物を背景にした、女性ニュースキャスター。火事でもあったのか、彼女の後ろにそびえ立つ建物は燃え尽きており、真っ黒になっている。
『今朝未明、グラーの××において、火事か発生しました。火は約一時間後に、消防と水魔法を持つ青年により消し止められました……』
グラー……。ここから少し離れたところで、そんなことがあったなんて知らなかった。
彼女がマイク越しにそこまで言ったとき、岳は勢いよくテレビの電源を落とした。その顔には怒りと、不快の色が浮かんでいる。
「これ、星夜が看板立てているときに流れていたやつ。まだ流れていたんだね……、全く。虫酸が走るよ。今は延焼後の画像だけだったけど、先ほどは消火活動時の映像も流れていたんだ」
僕はその先、岳が言いたいであろうことを悟り、力なく俯いた。
「一見、消防と青年は協力し合っているように見えた。けどね……青年の方が、圧倒的に水量が多かったんだ。消防側が、水をなかなか出さないから。……星夜、言ってる意味、解る?」
……解る。解るよ。痛いほどに、解る。僕は押し黙ったまま、岳の方をちらりと見た。彼は、僕を睨み付けて言う。
「……利用されてるんだよ、魔法は、さ」
そのことに関しては、僕自身よく解っていた。
今から数十年ほど前。僕たちが生まれる前のこと。こんなことがあったらしい。
とある天才科学者により、「魔法」というものが開発された。その人の開発した魔法は、不可能を可能にし、人々の生活を豊かにするという、とても便利、かつすごいものだったらしい。
しかし、魔法は便利すぎる故に、様々な方向に利用された。それは勿論、よい方向にも、悪い方向にも。
魔法が開発され、数年後。魔法を利用した大犯罪が起きたという。秩序は乱れ、街は荒廃し。以降、人々の豊かな笑顔溢れる街は、殺伐とした雰囲気にまで荒れてしまったという。
今でこそ、荒廃した街たちは復興を遂げ、近現代的な街へと変貌したが、例の事件のおかげで、魔法使いは今現在忌み嫌われる。しかし、魔法は便利なので、使うときは利用する。魔法にありがたみを感じない。寧ろ、人々の発展のために、魔法を使うのは当たり前だという――『魔法利用世界』が成り立ってしまった。
岳もその一人だ。過去に忌まわれたことがあるらしく、それ以来、魔法を便利程度にしか思っていない人を嫌っている、と前に言っていたのを思い出す。
「何でも屋と言うことは、どんな以来でも叶えると言うこと。……まぁ、魔法は最終手段とかになると思うけどね。その中にはきっと、そういう考えの人もいると思うんだ。そういうやつらの願いも、本気で叶えていくつもりなの?」
確かに、一理ある。中にはそういう奴らもいることであろう。僕ら魔法使いが、その依頼を叶えるのが、当たり前かのような扱いをする輩が。
だけど。僕の心は、もう決まりきったも同然だった。
「……うん、叶えていくよ。僕は魔法がどう思われていようと、気にしない。寧ろ、それってさ。僕のことを、必要としてくれてるってことでしょ?」
僕を必要としてくれていれば、それでいい。利用されていようと、何だろうと。
そんな僕に対し、岳は諦めたように、観念したように溜息をついた。
「……そっか。僕は不快だけれども。まぁ、僕は星夜について行くって決めたし……。星夜がそう考えるのであれば、いいよ。僕は、星夜を助けるよ」
「岳ッ……!!」
岳の一言に、ウルウルとなりそうになる。というか、少しなってる。嬉しい。
僕はフッと息を吐き出すと、天井に向かって両拳を突き上げた。
「よぉーっし! 何でも屋”テロリスト”、今、ここに開業ーッ!!」
第1章 / 魔法使いの何でも屋 編、完結。
Next! → 第2章 / 危険な依頼人?