51話:一掃
ビルの7階へ移動し、狙撃銃を召喚するとそれを肩に乗せ、銃口を寂れた窓枠から覗かせる。
アナウンスとともに、どこからともなく一斉に湧き出てきたモンスターたち。ドラゴンのような形をしたモノや、顔はライオンなのに身体は熊といったよくわからない融合の仕方をしているモンスターなどがいる。
翔はそれらに素早く狙いをつけ、照準を合わせる。距離、風速、風向き――全て完璧。意識を一点に集中させ――ここだ、と思ったところで引き金を思い切り引く。弾丸は翔の計算を1ミリも狂わせることなく飛んでいき、二足歩行をするウサギのような生物の頭部に命中。耳をつんざくような鳴き声とともに虹色のエフェクトをまき散らし、爆散する。それを見て翔の居場所をある程度特定したのか、彼らは奇妙な声を上げながら逃げ惑うがもう遅い。2発、3発とどんどん撃ち込んでいく。
『こちらはまだ敵側の目立った動きなし。続けて周辺を警護』
「了解」
岳の無線に短く返事をし、再び狙い撃つ。ここまで特に、相手側の動きはないようだ。それに、相手がどこにいるのかさえ見当がつかない。
そのまま次の獲物を、と思い辺りを見回していると、初めに比べて数が減っていることに気づく。位置がバレたか……意外と賢いモンスターたちなんだなぁ……。どうだっていい。いずれにせよここはもうダメだな。
「岳、場所を移る」
『了解。どこへ行くんだい?』
「とりあえずここから2キロ、道中の相手は拳銃で潰そうと思う」
『これは僕も撃ってもいいのかな。応戦するよ』
翔は岳の返事を聞くと狙撃銃を一旦光に戻し、拳銃を二挺召喚してから腰に下げる。地面へ下っている時間が惜しい。それに、今のところからなら屋上の方が圧倒的に近い。翔は屋上へ駆け上がると、キョロキョロと辺りを見渡した。同じくらいの高さのビルがたくさん立ち並ぶ。それも、屋上付きの。――なんて都合がいいのだろうか。
ビルを1つに絞り、少し後退し、助走をつけて一気に跳んだ。距離は決して短いモノではなかったが、それでもなんとか着地に成功する。すると縁の方にのんびりお昼寝しているモンスターがいたので、忘れずに撃っておく。
……それに、先ほどまでは無視を決め込んでいたが……どうやら上空にも翼の生えたモンスターが数体、ふよふよと飛んでいる。こいつらも排除の対象。躊躇はない。
拳銃の安全装置を外し、弾を装填。それを2回行い、準備を整える。左手に握った銃を高く掲げると、上空に向かって発砲した。銃弾はモンスターのうち一体の片翼に命中し、撃たれたそいつは翔の背後へ墜落した。
仲間のピンチを悟ったのか、よりいっそう甲高い声を発するモンスターたち。ギャァギャァと暴れだし、やがて翔を捕捉する。そして、鷲のような鋭い眼光をぎらつかせ、突撃してくるがもう遅い。そいつに銃口を向け、余裕の表情でぶっ放す。脳天を無様に撃ち抜かれたそいつは、身体全体の動きを一瞬止めると、そのまま力なく落ちていった。すぐさま標的を他のモンスターに切り替え、急所を狙いつつ的確に撃ち抜いていく。
――グルギュアァアアアアアアッ!
突如として背後から聞こえる、別のモンスターの声。さっき撃ち落としたやつが復活したのだろう。すぐさま振り返ると、丁度モンスターが翔に向かって、低空飛行をしながら突進してくるところだった。
それをジャンプで躱し、あろう事かその背中に飛び乗る。モンスターは翔を振り落とそうと、がむしゃらに動き回るが意味はない。またしても、その像のような頭に銃口を突きつけ、引き金を絞る。爆散し身体が消えるのと同時に、他のビルへと移る。
その後は飛んで着地を繰り返し、モンスターがいないかを確認する。
それを10回くらい繰り返した頃だろうか――モンスターの群れを発見する。
よし、あそこにしよう。そして次は活動場所を地上に移そう。弾倉を取り替え、翔は数十階はあろうビルの屋上から飛び降りると、そのまま銃を乱射した。次々に炸裂する弾丸と銃声。わめきながらエフェクトを爆散させ消滅していくモンスターの群れ。
やがて地面へと墜落するが、脚に激しい痛みを伴う。しまった……いくら仮想空間とはいえ痛みは現実のものと同じだったんだ、畜生。
それでもこれで……何体だ? 15体くらいの収穫はあったのではないか。うーん、もしかしたら狙撃よりも拳銃を乱射して倒した方が効率がいいのだろうか。どっちなのだろう……。
『翔、応答して。聞こえてたら何でもいいから返事をして』
そのとき、無線から岳の声がした。
「聞こえてるぞ。どうかしたのか?」
彼にしては珍しく、何処か切羽詰まった様子である。何故だ、嫌な予感がする。
『相手側のオブザーバーとエンカウントした。狙撃手が近くにいる可能性もあるから気をつけて……――』
その言葉は最後まで聞き取ることはできなかった。
パァン、という微かな破裂音。
その音は、紛れもなく……――。




