3話:達成困難……?
迷いあぐねていると、胸の内を察したかのように、読書をしたまま岳が意見した。
「そのぬいぐるみ、随分ぼろぼろだし、もうどうやったって無理だと思うよ。まず、普通に裁縫での修繕は無理だね。だからといって、例え星夜があれを使ったところで、完璧に直るとも言いがたい。それに第一、その子は対価を払えそうにないだろう?」
「なっ……確かにそうかもしれないけど。でも、そんな言い方ないよっ!」
もっともな意見だ。どれも全て、的を射ている。
だけど、だけどだけどだけど。やってみないと解らないじゃん。それに、僕としてはなぎさ君の力になりたい。それに何より、”大事な友達”だと言っていたから。どうしても。無理をしても。
「え……じゃ、じゃぁ、おにいさん、この子はもう……なおらないの?」
「そういうことになるね」
震えながら問うなぎさ君に、容赦ない言葉を投げかける岳。なぎさ君が膝に両拳を置き、俯いた。その目には、じんわりと涙が浮かぶ。
「うっ……うわぁぁぁあぁぁぁーーーーんっ!!」
そして、天井を向いて大声で泣き出してしまった。
「な、なぎさ君!?」
慰めようと慌てて彼の背中を擦ってやるが、泣き止みそうにない。そりゃぁそうだ。無理だと、はっきり言われてしまったのだから。断られたと言うことに等しい。しかも、重要な依頼を。僕にその重要さは解らないけど、彼にとったらきっと、そうなのだろう。”大事な友達”なのだから。
「あー……岳のせいで泣いちゃったよー」
ぼやくと、岳は珍しく驚いたような顔をした。
「えっ!? そんな、泣かせるような気はなかったんだけど……ああ、ごめんっ……」
本に栞を挟み、テーブルに置いて席を立つ。そしてなぎさ君の前に屈むが、彼はこれまた泣き止みそうにない。彼の前に屈む岳は、どう対応したらよいのか解らないようで、手を動かしながら、珍しく慌てている。
いつも冷静沈着な岳が。……もしかして、だけど。
「……岳、小さい子苦手なの?」
問うと、これまた珍しく顔を真っ赤にして、こちらを見た。
「うっ……うるさいっ! そんなことは……ああもう! ぼ、僕は上の部屋で待ってるから、頑張ってっ」
そして、逃げるようにしてリビングを出て行く。
「うんー……って、ちょ!! 逃げないでー!!」
止めるも意味はなし。もう上にいるのか、天井、上の階から微かに足音がする。2階は1人ようの部屋が6つほどあり、そのうち2つが僕と岳のそれぞれの部屋になっている。
きっと自室に行ったのだろう。僕が依頼を達成するか、なぎさ君が帰れば降りてくるはず。まぁ、彼の聴力じゃぁここでの会話は聞こえているはずだから。いやー……それにしても、彼のあんな一面は初めて見たなー。
僕と岳は数年の付き合いで、僕から見た岳っていうのは、いつもクールで頭がよく、少し毒舌で表情が乏しいが、ほぼ非の打ち所がなし、というものだった。それがあんな一面があるなんて……。
「ねぇ……おねえさん、これ、もう……なおらないの?」
うるうると瞳を揺らして、こちらを見るなぎさ君。……返答に、困る。
「えっ、うーん……」
「うっ……ふぇえ~」
僕の曖昧な返事を肯定と捉えたのか、再び泣き出す。小さい子はよく泣く。それを考えると、岳が小さい子を苦手とする気持ちがよく解る気がした。
どうやらなぎさ君を満足させるには、このぬいぐるみを直すほかないようだ。
でもー……んー、どうやって直そうかなー……。残念なことに僕は裁縫なんて出来ないし、この縫い目を見る限りでは、相当手を尽くした後。その中にはきっと、なぎさ君のお母さんとか、業者さんとか、様々な人々の努力があるのだろう。僕は、それらを越えることは出来ない。それに、岳にも言われちゃったし。初っ端から、達成困難な依頼である。
あーあー……こんなことなら、裁縫系の魔法でも、持っておくんだったなー。ほぼ戦闘向きじゃないけど。てか選択式じゃないけど。と、後悔やら思考やらが、ぐるぐると頭を巡る。
――だけど、同時に。僕は可能性を感じていた。
もしかしたら、できるかもしれない――って。