20話:ルフリア島
いつの間にか閉じていた瞼の奥が、赤から黒へと変化した。まばゆい光が消失し、転移が完了した証だ。
「んっ……」
薄く目を開け、辺りを渡す。ギラギラと、照りつける太陽。荒れ地、荒野。乾いた空気。そこには、緑は一つも存在しなかった。地面はオレンジを混ぜたような褐色。木は枯れ果て、葉を一枚だってつけていない。巨大な岩がごろごろ転がり、挙げ句の果てには、数十メートルを余裕で超すであろう崖まで。
「うわぁ……ルフリア島って結構地味なのね」
雅華が嫌悪感を露わにしながら呟いた。
「ねー」
僕もそれに同意する。ルフリア……意味はよく解らないけれど、もっと自然豊かなところだと思っていたのに。例えば、この荒れ地は広大な草原で、枯れた木は巨大な果樹。果実はどんなに食べてもなくならなくて……寧ろ食べることによって増えて……という理想世界を作り上げていたのだが、実際は全く逆、180°回転させたような世界だった。オアシスが見えそうな世界。雅華も同じようなこと、考えてたのかなぁ。
僕の理想がビシッと音を立てて風化し、パラパラと砕け散っていく。心がやられなかったのはまぁよかった。
あーあ、こんなことならば、瀬音にどんな場所なのかを聞いておけばよかった。
「どんなのを想像していたのかは解らないけれど。ゾンビが出るくらいなんだから、そういい土地ではないと思うけどね」
そんな僕たちに対し、岳が呆れたように言う。どうやら、ここがこのような状態であることを想像していたらしい。流石、頭いい人は違うなぁ。あ、それとも、僕が単に理想を大きくしすぎただけ?
立ち止まっているのも難なので、その辺りを散策することにした。ザッ、地面の固く、力強さがスニーカーの底越しに伝わってくる。所々ひび割れたりしているが、それなりに固い地面なのだろう。
というかここ、日差しは強いわ乾燥しているわで、雨が降っているのか心配になる。もしやここ……今や段々規模が小さくなりつつある、”乾燥帯”なのか……?
いや、でもそれはない。今こそ昔、関東だの近畿だの呼ばれていた場所はアケーディアなどと横文字に名前を変えているが、国の区分的には変わらない。だとしたら、ここは同じ温帯のはずなのだが。
「でも、どうしてこうも砂漠のような場所なのかしらね……」
「ここは昔、近隣地域であるエンヴィティアと戦争をしていたらしいよ。今は休戦中らしいけどね」
雅華の素朴な疑問に答える岳の声が耳に入る。そこまで知っていると逆にすごい。んじゃぁ、その戦争が原因で乾燥しているのかな。
彼女は「ふぅーん……」と興味なさげに答えると、傘を開き、差した。
その傘の正体は、鋭い刃を兼ね備えた仕込み傘。その鋭利さと彼女の巧みな剣捌きで、岳を追い込んだことがある代物だ。普段は日傘や雨傘として使っているらしい。
「……ん?」
そのとき、普通視力の僕の目がとあるものを捉えた。数十メートル先に、何かが転がっている。ボロ雑巾のような何か。それにしては、少し……いやかなりでかい。なんだありゃ。
駆け足で近寄ってみると、それは。
「う、わぁ!?」
人だった。ボロボロにすり切れた迷彩服を見に包んだ人が、うつぶせで倒れていた。
「あ、あのー。大丈夫ですかー?」
こんな何もないところで倒れているなんて、よっぽど何かあったのだろう。まぁ、原因は脱水症状とかその辺りになるかな。その体をユサユサと揺らしてみるが、反応はない。
もしかしてもう、手遅れなのかな。そうなってしまったら、いくら僕の≪時間操作≫でも生き返らせることはできない。元々できないけれど。
とりあえず、弔っておこう。どこの誰かは知らないけれど……ご愁傷様です。こんなボロボロになるまでお疲れ様でした。手を合わせ、目を閉じようとしたとき。
人が突如ガバッと飛び起き、こちらをギョロリと見てきた。
その顔は半分白骨化しており、目はぽっかりと空いており。残った皮膚はカラカラに干からびていた。
「……え?」




