19話:移転
「んー……、それに関しては僕もよくわからないんだけどさぁ。なんか皆、使いたがらないんだよねー……。まぁ、車も昔と違ってエコだしさ?」
さすがに、そこに関しては解らなかったので、苦笑いしながら推測を口にする。
今の時代、石油だのガソリンだのを使わずに、水素と酸素を合成した燃料で動くようになってるし。だからといって、昔の技術がすべて失われたわけではない。携帯とかそういう便利品は、未だ現存するけども。まぁ要するに、いいとこ取りってところだね。
ともかく、皆その辺りは環境に配慮しなくてもいいようになったので、車の保有率がぐっと上がったんだとかって、前に中学校で習った気がする。
岳がフッと息を吐き出して、言った。
「星夜、知らないんだ。これね、あまり重いものを一緒に運ぶことができないんだよ。せいぜい、大人10人くらいの重さが限界さ。だから、あまり使われないのかもしれないね」
それを聞いて、僕、雅華、納得。彼女に至っては、首を小刻みに上下させている。なるほど、そんな裏事情があったとは。確かに、それなら輸送業者さんなどは、ちょこまか運ぶ移転よりいっぺんに運べる車の方を選ぶよなぁ。
歴史や地形の成り立ちなどは社会で習うけれど、魔法について教えてくれる学校はそうそうない。僕の学校は、ちょろっと話を挟むくらいだ。だから、そういう知識は自分で蓄えなきゃいけないんだ。
岳はたくさんの書物を読むからなぁ……僕は漫画の方が好きなんだけど。
「そ、それ。需要性、ないに等しいと思うんだけど……?」
「だけど、今回みたいなときはこっちの方が便利だよ。特に大がかりな荷物もないし。それに、移転の方が交通費がかからない」
「そう……なら皆、使えばいいのに」
苦笑する雅華。でも、たまーに使っている人見かけるよ? 本当に、たまーにだけど……。
それにしても本当、雅華って世間知らずというか……箱入りお嬢様なんだな。移転装置とかは、一般人には馴染みのあるものだから。
彼女への解説が終わったところで。僕は、パンパンッと手を大きく叩いた。
「じゃぁ、行っくよー! 2人とも、手を繋いでッ」
指示通り、手を繋ぐ2人。僕も雅華の手を握る。空いている片手でパネルを操作する。
目的地の場所に、ルフリア島と入力する。これだけで完了だ。あとは10秒後に、再び目的地を叫べば、移転できる仕組みになっている。
「決定」ボタンをタッチすると、その手で岳の手を握る。
「――転移!ルフリア島!」
次の瞬間、僕らの足下に現れる、紫色の魔方陣。バサバサと風が吹き荒れ、紫とピンクの光が僕らを包み込んだ。
視界が、紫とピンクで塗り潰されていく――。




