16話:離島の噂
「……ということで! 幻術使いの美人お嬢様、瑞希雅華ちゃんが仲間に加わったんでーす!」
ばっ、と両手を挙げながら嬉しそうに話す僕に、友人の瀬音はクスッと笑った。
時は、放課後。特に所属している部活動がない僕らは、下校となる。
「そうか……よかったな。それにしても、それにしても、幻術、か……。なかなか便利な魔法じゃないか。空間変化に、自分の姿を変えられたりと」
「うん。いきなり空間を草原に変えられたときは驚いたよー……。だって、草原そのものなんだもん」
「ほーお。なかなかに興味深いな。でも、能力者本人がダメージを負いすぎると、幻が解除されてしまうと聞いたことがあるけどな」
おお。つまり、岳の推測は合っていたということになる。魔法って意外と欠点あるんだなぁ……。まぁ、魔力を消耗するっていうのが、全てに共通する欠点なのだけれども。
てんてんてんっ、と階段を下っていると、ふと、瀬音が何かを思い出したような顔をした。
「……そうだ、星夜。ちょっと両掌を出してくれ」
「ん? こう?」
踊り場までついたとき、言われたとおりに両掌を瀬音に向ける。
「そう。……はい、これ」
そういって彼女は、鞄から何かを取り出し、僕の掌にそっと置いた。
「え? これは……」
掌にのったのは、ほどよい重さの何か。それは、赤色の鞘に収められた短剣だった。鞘同様に赤色の柄の部分には、金色の刺繍が施されている。
「うわぁ……ダガーだね!? ありがとう、わざわざ……?」
試しに鞘から引き抜いてみる。すると、銀色の刃が、ギラリと怪しく光り輝いた。
「たまたま持っていたのだよ。礼には及ばないさ。……だから、言ったじゃないか。武器を持てばいいのに、と」
得意げに微笑んだ瀬音の言葉を聞きながら、僕は鞄の中に、ダガーを大切に仕舞った。
そして、俯きながら、瀬音に内心を吐露する。
「……うん。戦いは岳に任せておけばいいやって、思ってたんだ。だけどその結果、彼を1人で戦わせた。その後、ぐっすりと、死んだように眠ってたんだ。……それで、思ったんだ。僕も戦うべきだ、って」
戦えないことを言い訳に、岳に任せっきりだったんだ。でも、それじゃダメだったんだ。彼1人ではダメだ。今は、雅華も加わったけれど、それでも。僕も一緒に、戦わなくちゃいけないんだと。強く、心に感じた瞬間だった。
「ふーん……それはいい意思じゃないか。仲間と共闘、か……楽しそうじゃないか。私もいつか、手合わせ願いたいものだな」
「ちょ、変なこと言わないでよー」
真剣な顔して言う瀬音に、僕は笑って返した。僕、剣とか使ったことないから、まだ戦闘力解らないし。それに、瀬音と戦うなんて出来るわけないじゃん。負けちゃうよ、きっと。それに何より、感情的問題で、戦いたくないかな。
歩きながらお喋りをしていると、いつの間にか昇降口にまで来ていた。ボロい開閉開式の靴箱からスニーカーを取り出し、履く。
「……そうだ、星夜」
瀬音が、ローファーをトントンとやりながら、唐突に話を切り出した。
「ん? 何々」
「知っているか? ここから少し離れた島、ルフリア島というところなんだがな。そこで今、ゾンビが異常発生しているらしいぞ」
「ぞ、ゾンビぃ!?」
あまりにも驚いたもんだから声が裏返って、瀬音に笑われた。ゾンビってあれ、死にかけみたいな人だよね!? あれが異常発生してんの!? ていうか、ゾンビって現実にいたの!? あ、でも魔法が存在しちゃうくらいなんだから、それくらいは……っていうか!? え!? ……ダメだ。どうしよ。理解が追いつかない。
「大丈夫か? 星夜」
ケラケラとからかうように笑われる。
そして、彼女は人差し指を立てながら、意味深長な顔つきでこう言った。
「これは私の友人からの頼みでな……私には到底無理そうだったので、星夜に相談してみた。おかげで住人達は睡眠不足だそうだ。……どうだい? ここは何でも屋として1つ、仕事を引き受けてみないかい?」




