11話:僕に出来ること
岳は激戦を繰り広げている。依頼とはいえど、容赦はしない。
こうしている間にも、岳の体力は、魔力は、鎌の耐久値は削られていく。
――なのに。対して、僕は。戦闘に向いていないという理由で、彼の後ろで何もせず、ただ傍観しているだけ。
彼の助けになりたい。僕に――僕に、何か出来ることは……!!
目を固く閉じ、拳を握り悔しがる。こんなことをしている暇があったら、考えろ、考えろ、考えろ。
その時、1つの考えが思い浮かんだ。僕が、≪時間操作≫以外に使える魔法。それを使えば……――いや、ダメだ。
即座に否定する。あれは、ダメだ。何度やっても、成功しなかった。だからきっと、今も。彼の助けになんてなれやしない。
だけど……――もし、成功したら? 彼の助けになれたなら?
心臓が早鐘を打つ。そして、1つの結論を導き出す。
――成功しなくていい。彼の助けになれれば、それでいいんだ。
カッと目を見開くと、自分の魔法媒体である万年筆を取り出し、空中に文字を書き連ねる。
「エレメント! ファイア・ボム!」
≪爆弾組成≫。エレメントの後に、欲しい種類の爆弾名――例えば氷の爆弾ならばアイスボムなど――を唱えることによって爆弾を組成させる魔法。、成功率は、今のところ著しく低い。
お願いッ、上手くいって……!!
祈りながら形成されたのは、親指と人差し指をくっつけて出来る、輪っかほどの小さな火の玉。一見ショボいが、これでも当てた相手を火傷させたり、ちゃんと爆発したりする。万年筆を握り、ボールを投げるようにして弧を描く。その動きと共に、爆弾が弧を描く。
ボール投げは得意ではないが、距離は十分にあった。しかし、火の玉は少女との距離を縮めるにつれ、やがて消滅してしまった。
それでも。
「え……ッ!?」
鍔迫り合いをしていた少女の注意がこちらを向く。その一瞬を、僕は、岳は、逃さない。
「岳……!」
「解ってる!」
岳は返事をすると、勢いよく少女の刀を振り払う。こちらに気をとられていたせいで、少女は咄嗟に反応できない。岳が、鎌を横に倒し、水平に左から右へ。切っ先が、彼女の腹部を切り裂いた。
ブシュッ……――と、切り口から鮮血が吹き出す。
「な――」
信じられない、とでもいうように大きく目を見開く少女。それと同時に、草原の風景が、ノイズのように荒く振動する。カシャン……――、微かなガラスの破砕音を立て、風景をもといたリビングへと一変させる。
不思議なことに、争った形跡が見られなければ、僕も岳もソファの前で立ったままだった。
今までのは、夢だったのだろうか。だけど、岳の手には大きな鎌が握られており、彼は肩で息をしている。それが、なによりの証拠だった。
「岳、有り難う。……お疲れッ」
微笑をして、彼に語りかける。
「ああ」
短く返事をし、鎌を消滅させる岳。そして、相当疲れているのだろう。深呼吸をすると、ソファにドカッと腰掛けた。そんな彼の額には、らしくもなく汗が滲んでおり、服も若干汗ばんでいた。
当の少女はと言うと、傘を持ったまま、ソファにぐったりと座り込んでいた。




