10話:依頼内容は戦闘!?
その笑顔を見て、僕は呆気にとられる。
ちょっと待ってよ。確かに何でもするとは言ったけれども……だからってその、依頼が「戦闘希望」って、どういうことなのさ!? しかも、美少女が!? この内容は予想外だよ……予想外すぎるよちょっと!?
瀬音の言葉を思い出す。『猫かぶりには気をつけて』。もしかして、猫かぶりってこの子のことだったのかなぁ……。確かに猫かぶりだけれども。
「ここは僕に任せて。もし何かあったら、後方支援よろしく」
岳が掴んでいた僕の服を離し、僕の前へ出る。そして、自らが戦闘相手になると申し出る。
生憎だが、僕は戦闘には向いていない。
「あっ……あ、ありがとう」
ここは岳に任せることにして、身を後ろへと退く。
「ふうん……そっちの青年が相手……か。お手柔らかに、お願いしますっ」
「こちらこそ、よろしく」
値踏みをしながら、好戦的に微笑む依頼人――少女。対して、岳はいつも通りの、冷静な態度。
ヒュォオオオオ……と、冷たい風が、僕らの服や髪、草木を揺らしていく。
「それじゃぁ――いきますっ!」
戦闘開始、と言わんばかりに、刀を一薙ぎすると、岳目がけて突進する。
「デス・サイズ」
岳がそう呟くと、彼の足下に現れる、緑色の魔法陣。それと同時に、彼の手元に緑色の光が集まり、大きな鎌を形成させた。彼と同じくらいの大きさの、赤黒い鎌。一見重そうに見えるが、実際はそうでもないらしい。
岳の魔法、≪具現化≫。ほしい武器名や道具を呪文として呟き、媒体である黒い革手袋に、魔力を集中させることによって、形成させる……という、実に便利な魔法である。羨ましい。
少女の斬激が真っ直ぐ、岳に突き刺さる。彼はそれを容易く躱し、攻撃を仕掛ける。それを、刀で受け止める少女。
「ふぅん……意外とお強いんですね。じゃぁ、これはどう――かなっ!!?」
岳の鎌を弾き、しゃがむ。斜め右下から彼の首目がけて、刀が繰り出される。
弾かれた鎌を素早く切り返し、なんとか受け止める。本当に、ギリギリのところで。
――強い……!! 遠くから見ていても、解る強さ。岳を追い込んでいる。あの子は、とても強い。
カァン! 金属音が響き、少女が刀を後退させる。その顔に浮かぶのは、喜び、悲しみ。その美貌に似合わない、まるで、小動物を見つめるような獰猛さ。対して、岳は表情には出さないものの、焦っている。
だけど、何だろう。僕は、彼女の笑顔に引っかかりを感じた。
楽しんでいると言えば楽しんでいるのだが、なんと言えば良いのだろう。まるで、八つ当たりをしながらこの戦いを楽しんでいるように見えるのだ。
その時だった。岳の鎌が、淡い緑色の光と共に、消滅した。
「……もう、か」
恨めしそうに呟く彼。僕も内心、彼同様に悔しがる。
具現化はとても便利な魔法だが、ある程度傷つくと、光となって消えてしまうのだ。つまり、鎌は少女の攻撃を受けすぎた。
「岳!」
「大丈夫。星夜は、下がっていて」
相当疲れているのだろう。息を切らしながら、再び鎌を形成する。一度消滅したものは、連続して呼び出すと耐久が脆くなってしまう。
「遠慮なく行きますよッ!」
鎌が消滅したときは驚いていたが、それでもすぐ笑顔に戻った少女は再び切り込む。それを、必死で受け止める岳。のどかな草原には、とても似つかわしくない金属音が響き渡り、火花が散る。




