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【旧版】魔法の世界でテロリズム【更新停止】  作者: 雛星のえ
第1章  /  魔法使いの何でも屋
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1話:何でも屋始めました!

「よーいしょっとぉ」

 どこか適当な声と共に、僕(一人称僕だけど女だよ)はごく平凡な、特徴と言ったら赤い屋根くらいの一軒家の前に、木製の看板を放り投げるように立てる。黄土色にも似たそれには、黒い大きな文字で、


『何でも屋開業しました。悩み事等々、受け付けています。依頼がある方はお気軽におたずねください!! 僕らテロリストが、解決して見せます! 依頼料は要相談』


と書かれている。

 ……うん。よく出来てる。まぁ文字を書いたのは僕じゃないんだけどな。

 僕の仲間の青年は、この内容に対し不満を抱いていたのか、文句をまき散らしていたが、そんなの知ったこっちゃない。

 「こんなのじゃ誰も来ないよ」って、数分前に言われたけれど、別にいいもんだ。宣伝だよ、宣伝!! ここに何もないよりはいいじゃないか!! 人が来なかったら来なかったらで、ボランティアなどをしたりして、徐々に僕らの名を広めればいいんだし。

「んー…こんなもんかな? おっし!じょーできー!!」

 額に浮かんですらいない汗を拭う振りをして、屈めていた腰を上げた。それと同時に、肩まで伸びた金髪混じりの茶髪が揺れ、太陽の光を反射する。

 そして、僕……――南雲なぐも星夜せいやは、満足げに、ニッコリと笑った。





「岳、岳、岳ーッ!! 看板立ててきたよぉおおー!!」

 大声で仲間の名を呼び、リビングへと戻っていく。それと共に、髪の毛と右側につけた、ピンク色のリボンが視界の隅でゆらゆら揺れる。

「お疲れ。それから星夜、うるさい。ドタドタしないで、子供じゃないんだから。響く」

 僕を迷惑そうにあしらった青年は、テレビの前にコの字型に配置された、クリーム色のふわふわソファーに腰をかけ、読書をしていた。一瞬だけ顔を上げ、こちらを見た後、また本に目線を落とす。


 ……えー。なんでよ。いいじゃないの別に。心の中で、悪態をつく。

 彼の名前は園田そのだがく。若干長めのくせっ毛茶髪が特徴的で、頭頂部には双子葉類らしきアホ毛が生えている。細身ではあるが体つきはがっしりとしていて男らしい。しかし、顔立ちがやや中性的なため、たまーに女子に見間違われることもある……らしい。

 クールで毒舌で、無愛想だから、喜怒哀楽の「怒」以外は解りづらいと思われがちだが、今の言葉は、この何でも屋を開業することに対し、喜んでいるのだと、僕には解る。先ほどまでは文句ばっか言われてたけど。


「いやぁ~……それにしても、遂に開業かぁ……”テロリスト”……!!」

 岳に対し、少々不満があるがそれを押し殺し、顔を輝かせながら呟く。両手を組み合わせ、待っていました! といわんばかりに。ちなみに、テロリストというのは、この何でも屋の名称である。

「ついにも何も、今まで宣伝不足でお客さんが来なかっただけでしょ」

 それを再び、あしらう岳。

 でも、解る、解る。僕には解る。本当は、岳は喜んでいるんだってことを……!!

 ……前に、友人に言われたことをふと思い出した。「星夜と園田って対照的だが、どうして成り立っているんだ?」と。……うーん、確かに何でだろう。解んない。


 そうだけども。そう。彼の言うとおり、正式な開業日は今日ではない。この日以前に開いていたが、今日まではお客さんが全くと言っていいほど来なかったのだ。

 まぁ、それはここで何でも屋をやっていることを知らないからだよ……そう結論づけた僕は、先ほどのように看板を立ててくることにしたのだ。つまりは宣伝。

 こうすればきっと、お客さんだって来てくれるはず――


「第一さ、名前からしてダメなんじゃないの? “テロリスト”なんて物騒すぎ。僕ら、何でも屋の皮を被った殺し屋くらいにしか思われてないんじゃないの?」

 ……喜んでいるんだよね?

 読んでいた本をパタン、と閉じながらの、岳の指摘。その言葉に「う゛ッ」と変な声が漏れ、そして僕の心が傷ついた。ガラスのハートにヒビが入るほどの破壊力。

「いっ……いいのーッ!! 団体名なんて関係ない!! 関係あるのは何をしたかー! 第一、解っているはずでしょ!? この団体名の由来をッ……!」

「はいはい。……そうだね」

 これまた軽くあしらわれる。だけど彼は先ほど、一瞬だけ、遠い昔を思い出すようなめをしていたことを、僕は見逃していない。

 だからきっと、彼は解っている。この”テロリスト”に込められた意味を。

 物騒だとは、僕自身も感じていた。だけどもこの名前は、僕と岳の、ある1つの共通点と思いを込められてつけた名前なのだ。


「……って! 岳が変なこと言うから空気が重くなっちゃったじゃん!」

「え、それ、僕のせいなの?」

っこの、無自覚野郎め……。

内心、イラッとしながらもそれを表へ出さずに、両手を頭の後ろで組み合わせる。

こんな物騒な名前だとしても……いや、名前なんて、関係ない。僕たちに頼み事がある人は、様々な悩みを持ってここに来るはずなんだ。だから、僕たちは誠意を持ってそれに答える。それを解決する。その内容が例え、庭の雑草を抜いて欲しいとか、壊れた物を直して欲しいといった地味なものでも、殺人といった大きなものでも。


 その時、部屋にピンポーン! と大音量のインターホンが鳴り響く。

「うお!?」

 即座に反応する。その姿を岳が鼻で笑ったような気がするが、そんなのは気にしない。

 ついに来た!? 来ちゃった!? 来ちゃいました依頼人!? 

 僕が興奮している間にも、インターホンは鳴り続ける。

 ピンポンピンポンピンポンピンポン……

「あーもう!? 何回鳴るのッ!?」

 連打される電子音に耳を塞ぐ。この音が聞きたかったわけだけど、流石にうるさい。これはちょっとやりすぎだよ!?

「星夜、早く出て。僕、耳が痛い」

 迷惑そうな顔をしながら、耳を塞ぐ岳。……あんた、文句しか言うことないんか!?

 だけど、思い出す。ああ…そういえば、岳って異常に耳がいいんだっけ……。どれくらいよいかは、前岳に聞いた気がするけど忘れた。だからきっと、岳にはこの電子音が、道路を走る車の騒音のように聞こえているのだろう。僕の勝手な想像だけど。そりゃうるさいわな。

「わかったよー」

 適当に返事をしながら、リビングを出てフローリングの床をまっすぐ進む。そうすれば、玄関は目前。

「ほーい。どちら様ですかー?」

 ドアを開けてみたが、……誰もいなかった。え。なにそれ。悪戯目的? 止めて下さいよ……。

「あ、あのッ」

 不快に思っていると、聞こえたのは、幼い男の声。……もしかして。

 目線を下に向けると、そこには幼稚園児くらいの子がいた。

 綺麗な黒髪に、不安げな表情の彼は、背伸びをしながら。

「こ、ここって、なんでもねがいをかなえてくれるんですか?」

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