ツインテールの日。
今日はツインテールの日ですね。
女学生、秋篠一香は頭を下げていた。
その相手は、同級生である新沼秋穂。ピンクの髪をゆらゆらとさせて、彼女の様子を眺めている。
当の本人である彼女は困惑していた。だって当然だろう。どうして彼女が頭を下げているのか、彼女には解らないからだ。
「あの……頭を上げてくれません?」
取りあえず、声をかけてみることにした。
「ツインテールを……」
「はい?」
「今日は二月二日! ツインテールの日なんです!!」
ぐわん! と遊園地にある海賊船のアトラクションよろしく振り子運動をした一香の頭。それの衝動に驚いた秋穂は少しだけ後ずさる。
よろけながらも、秋穂のツインテールは形を崩さない。
「……ツインテールの日? そんな日があったの?」
「あったのではない、あるんです!!」
がしぃ!
一香は秋穂の手を掴む。
このとき秋穂は思った。――やばい人だと。
そもそも一香と秋穂は友人だ。親友ともいえるだろう。この学校に入る前よりも知っており、よく一香は秋穂のツインテールを眺めていた。
……思えば自分の髪型について訊ねたとき、ツインテールばかり褒めていたのはこれが原因だったのかもしれない。
そう思うと秋穂は小さく溜息を吐いた。
「とにかく……全然話が理解できないのだけれど?」
「理解出来なくても構わない! あなたのその香しい匂いを放つツインテール……つやつやとした髪……ああ、触りたい……触りたいのよ!!」
香しい、ってどういうことなのよ。
秋穂は思ったが口に出さないだけまだ彼女に良心を持っているのだろう。
一香の話は続く。
「ツインテールに対する楽しさを、魅力を、実感を! あなたは知らないのよ! でも、あなたの持つそのツインテールは至高と言っても過言では無い。仮にクレオパトラがツインテールをしたとしても、あなたのツインテールにはかなわないのですから!!」
いや、そもそも。
クレオパトラのいた時代にツインテールはあったのだろうか。
そんな突っ込みをするのも野暮だと思ったので、秋穂は小さく溜息を吐くだけにした。
ずっと彼女に言いたかったことがあったからだ。
もともと、ここに呼び出されたのは一香が原因だ。放課後、来てくれないか――と言われたからだ。彼女はそれをいいタイミングだと思った。だからこそ、彼女はその誘いを受けたのだ。
「ねえ、一香……。私言いたいことがあるの」
「何?! もしかしてツインテールを触らせてくれるとか……」
風が、靡く。
彼女のツインテールをはためかせていく。
彼女は意を決し、言った。
「――私、ポニーテール派なのよ」
一香の表情が凍り付いたのを見て、秋穂はツインテールを崩し、その髪を一つにまとめ上げて、ポニーテールにした。
一香は動かなかった。秋穂はそれを横目に、スキップしながら立ち去るのだった。
作者は因みにポニーテール派です。