ゴブリン掃討 1
「サーストさん、今回の依頼でBランク昇格試験を受けるための条件を満たしましたよ!」
「試験ですか?」
「はい、試験内容はBランクハンター以上の試験官が付き添って一緒に依頼に行ってもらって、依頼を完了できれば昇格という流れですね。もちろん試験官は命に危険があるときか、自衛以外では手を出さないので注意してくださいね」
「そうでしたか。なら、昇格試験は少し待ってください」
「分かりました。準備ができたらいつでも声をかけてくださいね。もちろん、今まで通り依頼を受けることも可能ですので」
「だったら、他のハンターとの共同依頼はありませんか」
「共同依頼ですか?待っててくださいね。確かここら辺にあった気が...」
そう言って、リーナは手元の紙束から、一つの依頼書を取り出す。
「これなんて、どうでしょう。ゴブリンの巣での掃討依頼なんですけど、数が多くて、しかも依頼主のタリカ村の村長曰はく、今まで一度も見たことのないオークやスケルトンが何体かいるらしいので、それの討伐もお願いしますということです」
「ちなみに今は何人集まっているんですか?」
「今の所、二人組Cランクハンターだけですね。出発は明後日ということです」
「では、その依頼をお願いします」
「それにしても、サーストさんが共同依頼なんて珍しいですね。いつもソロでやってらっしゃるのに」
「ええ、まあ。このままソロでハンターを続けていけるかわからないので他のハンターとも依頼をこなそうかと」
実際の所、サーストはソロで続けていく気だが、他の同ランクのハンター達の実力を見てみたかったのだ。
「ふふっ。サーストさんは他のハンターの方々と違って口調も丁寧ですし、ギルドに来て半年でBランクハンター目の前ですごいですね」
「ただ、運が良かっただけですよ」
サーストがギルドに登録し、ミルド・ナクルを殺してから半年がたった。事件後、サーストは疑いを持たれないために、依頼をこなしランクを上げることに専念していた。
半年でBランク直前というのはかなり早いが決していないわけではない。しかし、ハンターたちにとってBランクとAランクには大きな壁が存在する。努力を怠らずに続けた秀才がBランクに、そして、一握りの天才だけがAランクにたどり着くと言われるほど、Cランクから上の存在は別格なのだ。それ故に、Bランク以上のハンターは全体の10%に満たず、そのほとんどがBランクなのだ。
リーナは半年前、サーストがギルドに来て以来、顔見知りだ。元々、リーナはサーストに間違って依頼を出してしまったことから、サーストに負い目を感じていたが、サーストがギルドに依頼の受注や完了報告をしに来るたびに話をしている内にサーストの丁寧な言葉遣いや態度を見て、いつの間にか好感を抱いていた。
「本当に謙虚ですね。他のハンターの人達は自分の武勇の自慢をするのに、サーストさんからは一度も聞いたことありませんよ」
「目立つのはあまり好きではないので」
「私、前から気になってるので今度、何かお話聞かせてくださいね」
「分かりました、それでは僕はこれで」
「はい、依頼頑張ってくださいね」
出発の日の朝、サーストが集合場所に着いた時には、まだ誰の影もなかった。サーストが着いてから、すぐに二人組の男が近づいてきた。
「てめぇがサーストとかいう野郎だな。俺はジブカだ。せいぜい足を引っ張んじゃねえぞ」
乱暴な口調で話しかけてきたのは二人組の片割れだった。見た所、二十代後半か三十代前半という感じで装備もサーストが使っているロングソードと比べるとお世辞にも良い物とは言えなかった。
サーストが返事をする前に、もう一人が声を発する。
「こんな、なよっちい奴がBランク手前なんて、嘘なんじゃねえのか」
名前すら言わなかった男の顔には疑いというよりも嫉妬の色が浮かんでいた。二人の年と装備からするに、Bランクにはなれずに、ずっとハンターを続けてきたというのが嫌でも理解できてしまう。
集合時間が近づき、二人組がイライラして来た頃、最後の一人がやって来た。二人は文句の一つでも言おうとしたようだが、その姿を見て言葉を無くす。
背中の中頃まで伸ばした黒い髪に整った顔立ち、スタイルも女性特有のラインを引きながらも戦闘の邪魔にならないような絶妙なバランス。まさに美少女という言葉が似合う少女だった。傷ひとつない顔はハンターをしている女性には珍しかった。サーストと同じぐらいの年のように見える。
「ゴブリン掃討のメンバーですね。私はテールですあなた方には興味がありませんので、不必要に話しかけないでください」
テールは最低限の礼儀を弁えているのか凛然たる態度で名前だけを告げて、サーストたち三人を拒絶するのだった。
サーストの口調が違うの理由はストーリーで明らかになります。
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