鍛冶師
ナクルの屋敷の襲撃を最初に発見したのは麻薬の買い付けに行っていた側近の2人だった。ただ、その2人がとった行動は襲撃者を探し出すことではなく、金目の物持って逃走することだった。屋敷の金庫と装飾品から持ち運べるものを見定めると、2人は急いで屋敷を後にした。
その30分後、見回りをしていた王国兵士によって襲撃は発覚し、調査が開始される。
金庫からお金が無くなっていることから、金目当ての犯行で護衛のいる貴族の屋敷を襲撃したことから複数人の仕業とされ、第2級犯罪者の指定と懸賞金がかけられた。
チーフの死を神父のプラザと子供たちが知ったのは昼前だった。知らせを聞いた子供たちは泣きじゃくり、ブラザも静かに涙を流したまま、動かなかった。子供たちに槍を教えていたサーストは下を向いたまま1人考えていた。
チーフはミルド・ナクルの下で護衛として働いていたが、恐らく悪事に加担しているとは知らなかった。それならば気絶させるだけで良かったのではないか。殺せば、子供たちや神父がが悲しむことはわかっていたのに。
無意味な自問、殺してしまったことは変わらず、死という状態が生に変わることもない。禁忌魔法に支社を蘇らす魔法があるというが、あくまで伝説上のものである。
感情を闇斬りに蝕まれるかのように、後悔という感情が、ある一定ラインを越えれば、それ以上後悔ができない。
サーストの思考はブラザによって現実に戻された。
「サースト君も、チーフ君に一緒にお祈りを上げてくれませんか。亡骸は調査の為に今はありませんが、神像の前で、お祈りすれば天国のチーフ君にきっと届くはずですから」
「いいんですか、俺なんかが」
「財布を拾ってあげていたでしょう。彼なら、それだけであなたのことを覚えていますよ」
「そうですか」
泣きじゃくる子供たちと一緒にブラザの後ろに並び膝を折り地につけ、手を合わせて祈りを捧げる。
しばらく祈りを捧げた後、サーストは教会を後にした。
教会に長居しても何も変わらない。チーフを殺したことを無駄にしない為にも復讐を続けなければならない。
街のハンター通りと呼ばれる道は昼過ぎだが、夕方より前で駆け出しのハンターは街で雑用をこなしたりし、多くのハンターは王都を囲む外壁の外に出て依頼をこなしている為、人通りは決して多くない中、サーストは時折、金属を打つ音が聞こえる店へと入っていく。
店内は所狭しと武器や防具が並べられている。
店内を眺めながら、目当てのものに近いのを見つけた所で店の奥から作業着らしきものを着た一人の職人が出てくる。
「おう、坊主。こんな時間に珍しいが鍛冶屋に来るってことは客か?」
「はい。ロングソードが欲しいんですが」
「よし、ロングソードだな。なら、これはどうだ」
そう言って、店に飾られていた物の中で一番良さそうな物を手に取り、サーストに渡す。
「ちと高いが、坊主のランクはBかCってとこだろ。それなら、十分買える値段だし、打った俺が言うのも何だが品としても申し分ねえぞ」
「他にロングソードはないんですか?」
「これよりいいものはうちの店にはないぞ」
「そうですか。ならそれを買います」
「よし、毎度あり。鞘はサービスでつけといてやるぜ」
「ありがとうございます。又、買いに来ます」
「なーに、良いってことよ。坊主のことをここらで見たことねえからな。お得意様になってくれりゃ、こっちも利益が出るってもんだ」
「そうですか。なら、次に買いに来るときは 下の階を勧めてくださいよ」
蓋で隠された下の買いにつながる階段を見ながら言ったサーストに声音を変えて答えてくる。
「何処で聞いたのか知らねえが、もう少し実力が付いたら勧めてやるぜ」
それを聞いたサーストは軽く頷くとそのまま店を出ようと扉に手を掛けたところで名前を聞かれる。
「俺はファリ・ノブルだ。坊主、名前は」
「サーストです」
「サーストか。又、買いに来な」
それを聞いたサーストはそのまま店を出て行った。
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