麻薬貴族
こつこつと足音が夜の街に響く。ナクルの屋敷の門の前では二人の門番が槍を持って佇んでいた。
門にサーストが近づいてくると、それぞれ違う行動をとる。一人は手に力を入れ警戒し、もう一人はサーストに親しげに話しかけてくる。
「おー、サーストのあんちゃん。どうしたんだこんなところで」
「・・・」
返答せずただ門に近づいていくサースト。そんなサーストの様子に警戒していた門番が槍を向けてサーストに警告する
「おい、お前止まれ。それ以上近づけば排除する」
「待ってくれ、この前話た、サイフを拾ってくれたあんちゃんだって」
慌てて仲間を止めるチーフ。
「サーストのあんちゃんも「悪いなチーフ。死んでくれ」
どこからともなく現れた刀ーーー闇斬りーーーを抜刀した瞬間チーフの上半身と下半身、本来離れるはずのないもの二つが離れて地面に落下する。
もう一人の門番も声を出す前にチーフと同じように上半身と下半身分かれてその場に倒れる。
サーストは門番がいなくなった門を抜け、遠くから屋敷を見ていた時に唯一明かりが付いていた部屋を目指して走り出す。元々ナクル家は末端貴族で、それほど大きくはない。それがさらに、この前まで潰れかけていたのだ。護衛以外にはミルド・ナクルしかいない。
屋敷の扉を開けると護衛が三人。足を止めることなく斬りにかかるが、先に護衛の一人が叫ぶ。
「敵襲だぁー!!」
一人が叫んでいる間に残りの二人が剣を抜き近づいてくる。屋敷の中では槍を振り回のに不都合であるために剣をしているのだろうが、サーストにとって関係なかった。
横と縦からの斬りつけを走っていた足を一瞬止め後ろに跳ぶ。それにより剣の間合いから外れる。横斬りをしてきた護衛のほうに回転し横に着くとそのまま二人を刺す。脳みそがあいた穴から零れ落ちるのを見向きもせず、目の前に迫っていた大きな声で叫び敵襲を知らせていた護衛を剣ごと叩き斬る。
これで、情報が正しいなら半分の護衛を殺したことになる。
サーストは死体には目をくれず、階段に向かって走り出す。
階段の途中で二人の護衛が横並びで大きな盾を構えていたが大盾ごとサーストに斬られ二つの死体が出来上がる。
階段を登り廊下を見渡すが残りの護衛の姿は見当たらない。
目的の部屋にたどり着くと、迷うことなく扉を開けるとミルド・ナクルが余裕の表情でソファーに座っていた。そして、その横にはローブを着てフードで顔を隠した護衛が一人。
「侵入者はお前だな。私を殺して金を奪いに来たのだろうが無意味なことを」
ナクルが右手を上げると横の護衛が呪文を唱える。火の矢が出現するとサーストに向かって一直線で飛んでくる。
火属性攻撃魔法ファイアアローは初級魔法だが、詠唱をしてから現れるまでの時間を見る限り駆け出しではなさそうだが、熟練者でもない。
それでは、サーストには当たらない。一直線に飛ぶファイアアローはサーストが少し横に体を反らすとそのまま扉に当たる。
横に置いてあった、家具としておかれていたであろうナイフを手に取り護衛に投げつけるとファイアアローより早い速度で飛んでいき喉に刺さり、沈黙する。
魔法で殺せると予想していたであろうミルド・ナクルの顔には先ほどまでの余裕はなく焦りがにじみ出ていた。
「まっ、待て。金ならいくらでもやる。なんなら護衛として雇ってやる」
恐怖で足を震えさせながら必死に命乞いをする。
「・・・ナクル。お前が麻薬を買っていた帝国のやつらのことを話せ」
静かに告げる。
「家が傾いておったときに帝国の組織から麻薬を売れば金になると言われて、もうそれ以外に道がなかったから、帝国の手を取ったんだ。どこの者かまではしらん。おそらくは軍人だとは思うが」
「・・・そうか。なら、もう貴様にようはない」
その言葉を聞き安堵した顔になるが、そのまま心臓を刺され永遠の闇に落ちる。
ミルド・ナクル。没落寸前の家を立て直し、愛想を尽かし出て行った妻と溺愛する娘ともう一度暮らす為、帝国と繋がり麻薬商人に成り下がった男の人生はこうして幕を閉じた。
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